2020.12.21

ニュージーランドの森に住む執筆家 四角大輔さんと考える、 本当の“豊かな暮らし”とは。

ニュージーランドの森で生活を営む執筆家、四角大輔さん。日本でサラリーマンとして計15年間勤めた後、憧れの地であるニュージーランドに移住しました。現在は、原生林に囲まれた湖畔でサステナブルな生活を営んでいます。自然に囲まれた場所でオーガニックライフを送るという夢を叶えている四角さんに「真の贅沢な暮らし」について、考えを聞かせていただきました。

心から気持ちのいい暮らし。

ニュージーランドに移住して、もうすぐ10年。四角さんは小さな田舎町から約20kmの距離にある、原生林に囲まれた湖のほとりで生活しています。目の前に広がる湖は、飲料水と大きな鱒という恵みをもたらしてくれるという。庭にはオーガニック野菜を育てる菜園とハーブ園、小さな果樹園があり、自然と調和した生活を実践しています。四角さんは自身の働き方を、場所に縛られずに好きな仕事をする“モバイルボヘミアン”と呼んでいます。

ギリシャの海辺のカフェで、仕事に励む四角さん。

「不便な大自然での半自給自足の生活は、大変なんじゃないかと聞かれることもありますが、圧倒的に気持ちよくて感動的だし、この生き方こそが人間という生物にとっては究極の贅沢だと感じています」。

 

日本で生活していたときは、大手のレコード会社で働き、数々のヒット曲誕生に関わりながら忙しく働く毎日だったそう。

「日本では、約15年間レコード会社に勤めていました。確かに毎日忙しかったのですが、僕は自然に触れていないと心が死んでしまう(笑)。スケジュールを徹底的に管理して、しっかり休みを取っては湖や山に出かけていました」。

 

激務をこなしつつも、休日は湖や山に出かけるという生活を続けていた四角さん。しかし、心の底にはずっとニュージーランドへの憧れがあったそうです。

自然が大好きだった幼少期。

四角さんが生まれたのは、大阪の郊外。自然のなかで遊ぶことが大好きだったと言います。

「以前、地元には里山や田畑、林がたくさんありました。自然のなかを走り回って過ごしたことを覚えています」。

 

しかし、四角さんが高校を卒業する頃には、その景色はだいぶ変わってしまっていたそう。

「70年代、80年代の高度成長期は、経済や産業が成長すること、日本が経済大国の仲間入りをすることが最優先されていました。自然や人の健康がもっとも蔑ろにされた時代かもしれません。ちょうどその時期に、地元の風景も無惨な姿に。池が無くなり、山が削り取られていく様子を、毎日屋外で遊ぶなかで目の当たりにしてきたんです」。

 

大好きだった自然が失われていくのを体感し、四角さんは幼いながらに心を痛めていました。だからこそ、都会で仕事をしていても自然に触れる時間を大切にしていたのかもしれません。

ニュージーランドとの出会い

終の住処となるニュージーランドとの出会い。それはニュージーランドに留学していた友人からの手紙でした。

「僕の学生時代はネットもなければ、ファックスも普及していません。そんなとき、ニュージーランドに留学中の親友から、手紙と湖の写真が届きました。それを見て、あまりの美しさに震え、いつかニュージーランドへ移住すると決めました。まだ一度も行ったこともないのに(笑)」。

 

一枚の写真で夢が決まってから、ニュージーランドへの憧れはずっと抱き続けていたそう。そして1999年、ついに憧れの地に足を踏み入れる日がやってきます。

「そのときの感動はいまだに覚えています。機内の窓から見下ろした湖はあまりにも綺麗で、体の中心からなにか熱いものが湧き上がってきたんです。実際に足を運んでみて、もっとこの国が好きになり、絶対に住むんだという決意を固めました」。

四角さんの住まいのすぐ目の前に広がる、ニュージーランドの湖。

すっかり心を奪われた四角さんは、それから毎年、忙しい仕事の合間を縫ってニュージーランドへ出かけました。

「永住権が取れたら移住すると決めたんです。そして15年間の夢が叶い、2009年に取得。長年お世話になった音楽業界を離れ、ニュージーランドでの生活をはじめました」。

 

人が羨むようなキャリアを手放すことに抵抗はなかったのでしょうか。

「都会で得られる肩書きや名声、お金。たしかに刺激的かもしれません。でも実際には、そういったものを手にしても心の奥底は満たされませんでした。そして、東京で高収入と安定雇用を手にしていた時よりも、今の方が心の豊さ、幸福度は何倍も高いですね」。

 

場所に縛られない自由な働き方を実践し、好きなことだけを仕事にしながら執筆を続けてきました。

3年ほど前、キューバへ旅行に行った時の様子。

四角さんが考える「贅沢」とは?

「僕にとっての、一番の贅沢。それは裸足で森を歩くこと、そして目を開けて湖や海で泳ぐことです。

森に危ないものが落ちていたら裸足では歩けない。水が汚染されていると目がしみる。どれも本当に美しい自然が無ければ叶わないことです。自宅があるニュージーランドの森と湖では、この贅沢を毎日味わうことができる。そしてこの贅沢を、これから先も享受するためには、僕たちがこの自然を守らなければいけないんです」。

 

地球環境が壊れてしまうと、全てが無意味になる。だからこそ、四角さんは低消費で持続可能な生活を実践し、環境省やNGOグリーンピース、Earth.orgなど国境を越えた複数のアンバサダーを務め、自然保護のための発信もしています。

「ニュージーランドは自然と街の距離が近い。みんなが環境問題の当事者であるという意識が強いんです。だからこそ多くの人が環境のための活動を行っているし、持続可能な生活に挑戦している。人間にとって自然は欠かせないもの。だからそれを守ろうとする。そんな循環が自然にできているんだと思います」。

 

四角さんにとっての幸せは、自然豊かな場所で好きな人と過ごし、好きなことを仕事にすること。そのための環境づくりが大切だと教えてくれました。

「身に余るほどの贅沢、大金や名声のために、健康や環境を犠牲する生き方が贅沢だと思いますか?この地に住んで10年が経つ今でも、朝焼けや星空を見て、思わず涙を流す時があります。そんな毎日は本当に幸せです」。

想像を遥かに超える、5年先の未来

場所に囚われない働き方や自然との共存を、10年も前から取り入れている四角さん。5年先の未来に、私たちの社会はどうなっているのか想像していただきました。

「5年とは短いようで、変化するには十分な期間。想像できないことが次々と起きるでしょう。テクノロジーはさらに進化し、人々の意識も激変していくと思います」。

暮らし方と働き方の両方を、同時に見直す人が増えているのではないかと、四角さんは言います。

「現在、新型コロナウイルスの影響でリモートワークは増えていますが、この働き方は加速していくはず。好きな場所で働けるようになれば、自然の近くで生活する人はきっと増えるでしょう。もし、僕の話を聞いて少しでも暮らし方シフトや移住に興味を持った人がいるなら、今すぐアクションを起こして欲しいですね」。

 

人間も自然の一部である。四角さんの生活を知ることで、本当の幸せや贅沢を問い直すきっかけになるかもしれません。

Profile

四角大輔

1970年生まれ。新卒でレコード会社に就職。絢香、Superfly、平井堅、CHEMISTRYなどのプロデュースを手がけ、10回のミリオンヒットを創出。2010年にニュージーランドに移住し、場所の制約を受けない働き方を構築する。Instagramで発信を続け、オンラインサロン〈LifestyleDesign.Camp〉を主宰。著書は『人生やらなくていいリスト』(講談社)など多数。

編集後記

人間が自然を破壊して、呼び起こした数々の気候変動や災害。ここ数年では、経済優先の社会や、人間が中心であるような考え方に、社会全体が少しずつ疑問を持つようになりました。

人間も、地球の生態系の一つである事を忘れていた時代があったのかもしれません。

四角さんの生活は、その生態系の一つの中で、どのように豊かで、幸せと感じる日々を送る事ができるか?

そんな問いの答えのように感じました。
(未来定番研究所 窪)