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2021.04.06

空想百貨店。<全17回>

第17回| 水野学さんが考える、「夢」や「憧れ」がつまった百貨店。

様々なECサイトの登場、テクノロジーの進化により、買い物環境は日々変化しています。リテールビジネスの店舗はこれから、どんな場所になったらいいのでしょう。

 

私たち「未来定番研究所」は、大丸松坂屋百貨店の部署のひとつとして、未来の百貨店のあるべき姿を日夜考えています。この企画では、多様なジャンルで活躍するクリエイターの皆さんの力をお借りして、未来の百貨店を自由に空想してもらおうと思います。

 

今回お招きしたのは、〈good design company〉代表で、日本を代表するクリエイティブディレクターの水野学さん。食器やTシャツといった日用品の定番を提案するブランド〈THE〉を企画運営する水野さんに、これからの百貨店がどうあったら面白いか、アイディアをいただきました。

 

(イラスト:永田夏樹)

僕が子どもの頃、百貨店はおめかして出かけるような特別な場所でした。屋上に遊園地があったり、他所では食べられないピエロの顔が飾り付けされたスペシャルパフェが食べられたり、日常から離れた憧れが詰まった場所。これからの百貨店も、原点に立ち返って、憧れを体験できるような場所にしてみるのはどうでしょうか。

例えば、最高級の商品がずらりと並んでいる光景ってなんだか夢のようですよね。なかなか買えないような高級ブランドバックが壁一面に並んでいたら、その壮観さに夢の世界にいるような感覚になれそうです。あとは、少年時代にカラフルなスーパーカーが並ぶ光景に目を輝かせた想い出があるので、さまざまなメーカーの高級車が一同に並ぶフロアも見てみたいですね。ディーラーまで足を運ばないと実物が見られない高級車を服やジュエリーのようにメーカーの垣根なく同じ空間に並べられるのは、百貨店の強みを活かした取り組みになると思います。それから、到底手が届かない憧れの商品を生で見ることができたら、贅沢な体験になりそうですね。例えば、クルーザーの船室を再現したショールームのフロア。観光で乗った時にはゆっくり見られない細部の作りまで見学できるのはもちろん、その場で買うこともできたら、夢が現実になって素敵ですよね。

また、商品だけでなくイベントやサービスも「夢」をキーワードに考えられるのではないでしょうか。例えばPRADAに行くと、映画『プラダを着た悪魔』で主演を務めたアン・ハサウェイが接客をしていたり、レストランフロアで国民的スターとお茶ができたり。そんなフィクションの世界とリアルが融合したイベントができたら楽しいですよね。

ECサイトの台頭によって実店舗の価値が問い直されているいま、百貨店独自の強みは、やはり実体験を通じて商品を選べることだと思います。買い物に失敗しないために試着するといった体験も大切ですが、それだけではなく、現物をみることで商品のディテールや重厚感に気づくことができる。そこに「夢」や「憧れ」がプラスされたら、商品の体験価値がもっと高まります。そもそも、百貨店がなぜ全国各地の商品、つまり「百貨」が集まっているのかを考えると、やはり「百貨が集まる」ことこそが「夢」だったのではないでしょうか。日常では叶わない夢の体験ができる百貨店を、もう一度見てみたいですね。

Profile

水野 学

1972年東京都生まれ。〈good design company〉代表。ブランドや商品の企画、グラフィック、パッケージ、内装、宣伝広告、長期的なブランド戦略までをトータルに手がけるクリエイティブディレクター。主な仕事に相鉄グループ全体のディレクションや中川政七商店のブランドデザイン、NTTドコモのプロジェクト「iD」のブランディングなど。自ら企画運営するブランド〈THE〉ではクリエイティブディレクションを担当。2012年から2016年度に慶応義塾大学SFCで特別招聘准教授を務めた。The One Show金賞、CLIO Awards銀賞ほか国内外で受賞歴多数。著書に『センスは知識からはじまる』など。

編集後記

本編に書ききれなかったのですが、「これからの企業は〈義〉を大切にしないといけない」という水野さんのお話が印象に残りました。〈義〉という漢字は「美しい+我」という構成で成り立っています。つまり、企業自身が「美しい」状態であることや、企業自身が「美しい」と思ったものを世の中に提供していくことが大切であると、水野さんは語ってくださいました。

このお話を聞き、真っ先に思い浮かんだのが「先義後利」という言葉。これは未来定番研究所のルーツである呉服店「大丸」の創業者・下村彦右衛門が江戸時代に唱えた理念。平たく言うと「先に相手のためになることをして、利益を後回しにすれば、結果的にその人や企業は栄える」という意味です。300年も前に〈義〉の重要性を見抜いていた彦右衛門氏の先見性に驚くと共に、現代に生きる我々が仕事の中で〈義〉を大切にできているか、という問いを彦右衛門氏と水野さんに投げかけられたような気がしました。

 

空想百貨店連載は今回最終回となりますが、未来定番研究所はこれからも未来の百貨店像を模索していきます!

 

(未来定番研究所 菊田)

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