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2020.06.26

空想百貨店。<全17回>

第9回| 南貴之さんが考える、街の中心になる体験型百貨店

様々なECサイトの登場、テクノロジーの進化により、買い物環境は日々変化しています。リテールビジネスの店舗はこれから、どんな場所になったらいいのでしょう。

私たち「未来定番研究所」は、大丸松坂屋百貨店の部署のひとつとして、未来の百貨店のあるべき姿を日夜考えています。この企画では、多様なジャンルで活躍するクリエイターの皆さんの力をお借りして、未来の百貨店を自由に空想してもらおうと思います。〉

今回お招きしたのは、クリエイティブディレクターの南貴之さん。〈Graphpaper/グラフペーパー〉、〈ヒビヤ セントラル マーケット〉など、様々なブランドやショップのディレクションを手がける南さんに、「これからの百貨店がどうあったら面白いか」、アイディアをいただきました。

(イラスト:niuniunao)

今、ファッションはジェンダーレス化が進み、さらにシーズンレスなアイテムも増えています。となると、現在の百貨店のように「メンズ」「レディス」「リビング」と、カテゴリ別にフロアが分かれていては、ブランドの世界観を表現することが難しくなってしまいます。1つのアイテムだけをフラットに見せるならいいかもしれないけれど、それならECサイトでも十分ということになってしまいます。

未来の百貨店は、コンセプトによってフロアが構成されて、お客様がその世界観が体験できる劇場型の空間になったら面白いのではないでしょうか。例えば、僕がフロアをエディットするとしたら、洋服のほかに家具やインテリア雑貨も一緒に並べて、カルチャーやエンターテインメント、バーや飲食スペースもなんでもありにして、お客様は僕の世界観を丸ごと体験できるんです。ショールームのように百貨店で試して、気に入ったらECサイトから購入して、商品は家に届けてもらいます。百貨店で買い物するというより、体験する場所にするとか。

もし、館内に宿泊できるフロアがあれば、寝具やインテリアを試すこともできるし、そこに3、4日滞在して、いろんなコンセプトのフロアを楽しむこともできますね。地方都市の百貨店なら、そこを拠点に周辺の街を観光したり、近くの商店街を見て回ることもできます。他の百貨店にはない独自のコンセプトと品揃えで、「あの街の百貨店に行きたいから、そこを中心に旅行しよう」というお客様も増えて、それが結果的に地方創生につながったら理想的ですね。

今、日本中に同じような品揃えの大型店舗が増えています。どこに行っても同じものを買える安心感はあるけれど、ECサイトが発展するとリアル店舗の存在価値がありません。地方の百貨店が苦戦しているとも聞きますが、地方の百貨店が観光の拠点になり、地場産業を支えその街の“ハブ”のような役割を担ったら、大都市圏からもお客様が来ると思います。アメリカのサンフランシスコでは、衰退した街にデザインホテルがひとつ建ち、そのホテルが注目されることで、その周辺にも元々あった古いバーや個人商店にも人が訪れるようになり街が活性化したという例がありました。日本でも、百貨店が元気になれば、その周辺に個性的な店が集まり、街が再生する可能性だってあるでしょう。その街ならではのローカルな体験を求めて、日本中の百貨店をめぐる旅をするなんて人も現れるかもしれません。

Profile

南貴之さん

株式会社 alpha 代表取締役。クリエイティブディレクター。H.P.FRANCEでバイイングやディレクションに携わり、その後、独立してalphaを設立。国内外の様々なブランドのPRを手掛けるPR 事業部、ショップのディレクションのみならず、ブランドのコンサルティング、空間デザイン、イベントのオーガナイズなどを行う。「Graphpaper」、「FreshService」、「ヒビヤ セントラル マーケット」など、様々なブランド、ショップを手がけ、ファッション、カルチャーにまつわるあらゆる領域を手がける。2020年「小川珈琲株式会社」の総合ブランディングディレクターに就任。

編集後記

南さんからいただいた、「安心感や予定調和だらけのフロア構成はつまらない、だから最近百貨店には行っていない」という百貨店に対するストレートで素直な言葉が、まだ体の中に刺さっています。取材後、改めて南さんが手掛けられた〈ヒビヤ セントラル マーケット〉へ伺いました。お話しいただいたような様々な体験ができるフロアが体現されていて、こんな百貨店があったらいいな、を実感いたしました。皆様も機会があれば、ぜひ足を運んでみてください。

(未来定番研究所 富田)

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