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2020.10.21

空想百貨店。<全17回>

第12回| 小阿瀬直さんが考える、ものづくりの循環が見える百貨店

様々なECサイトの登場、テクノロジーの進化により、買い物環境は日々変化しています。リテールビジネスの店舗はこれから、どんな場所になったらいいのでしょう。

私たち「未来定番研究所」は、大丸松坂屋百貨店の部署のひとつとして、未来の百貨店のあるべき姿を日夜考えています。この企画では、多様なジャンルで活躍するクリエイターの皆さんの力をお借りして、未来の百貨店を自由に空想してもらおうと思います。

 

今回お招きしたのは、一級建築士で建築設計事務所「SNARK Inc.」代表の小阿瀬直さん。群馬と東京を拠点に、新築住宅や集合住宅、公共施設などの設計、内装だけでなく、デスクや棚などの家具、プロダクトも手がける小阿瀬さんに、「これからの百貨店がどうあったら面白いか」、アイディアをいただきました。

(イラスト:土田菜摘)

デザインの仕事をしていると、自然とまわりにものづくりをしている人たちが集まっていて、自分で買うものも、知り合いや友人が作るものが増えています。だからか、だんだんと自分の中で何を買うかより“誰から買うか”が重要だなと思い始めていて。また、部品工場へ出向くことも多く、ものを構成する細かなパーツなどについて知ることがとても楽しいんです。そんな背景もあり、例えば、ワンフロア全部がファクトリーになっていて、仮に洋服ブランドだと仮定すると、製品が作られていく過程をすべて見ることができ、その場所で作られたものを購入するという体験ができたら、おもしろいですね。デザインする部屋、糸を紡ぐ部屋、縫製をする部屋が一堂に介していて、そこで完成した洋服を販売していて。完成までの時間軸まで見ることができるならぜひ足を運んでみたい。さらに、着なくなった洋服をデザイナーのところに持っていくとリユースされて新しい製品になり、また違う人が買っていく。同じ場所で出発点が変わることで、違う循環が生まれるともっとおもしろいなと。サイクルの中に使い手も参加して、1つの輪になり、ユーザーも循環の中にいるようなイメージです。

今は、どうしても作り手と買い手の間に一線が引かれますが、ユーザーも参加することで、買い手が作り手になるようなサイクルが生まれて、“消費の場”が“生産の場”になるんです。洋服の回収サービスなどは、すでに実社会で行われているけれど、回収のその先はメディアなどを通してでないと知り得ないことも多い気がします。1つの場所ですべての過程が並列に見えて体験できる、そんなプラットフォームとしての見せ方ができるといいですね。

「友人が作るものを買う=応援する」という観点で、ものを選ぶ人も増え、選び方が変わってきている今、作り手の顔が見えるということは、これからもっと重要になってくるのではないかと感じています。また、今は製品ができあがったところからスタートすることが多いので、作る過程やなぜこの形になっているのかといった作り手の考えまで見えると、買う理由にも繋がると思います。

Profile

小阿瀬直

一級建築士・「SNARK Inc.」代表。1981年群馬県生まれ。工学院大学卒業後、日建設計など設計事務所に勤務。2008年に小阿瀬直建築設計事務所設立、2016年 に建築設計事務所「SNARK Inc.」を設立。公共施設から住宅、店舗内装、DIY やプロダクトデザインまで、幅広く手がけている。http://snark.cc

編集後記

「何を買うかより“誰から買うか”が重要」という小阿瀬さんの言葉に、以前、F.I.N的新語辞典でご紹介した「友産友消」を思い出しました。

従来の消費行程では、やりとりをする相手の顔や、自身の手元を離れてからのモノの行方は見えません。しかし、このアイデアのようにそれらが見える化されると、トレーサビリティのさらに先として、買い手と作り手という役割が曖昧な関係性が形成され、そこからまた新しいものづくりの場や、コミュニティができるのでは…?とワクワクしました。「場」をつくることを生業にされている、建築家さんならではの目線を学ばせていただいた機会でした。

(未来定番研究所 中島)

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