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2020.09.17

空想百貨店。<全17回>

第11回| 小林孝行さんが考える、迷宮の中を冒険するような“特別感”のある百貨店。

様々なECサイトの登場、テクノロジーの進化により、買い物環境は日々変化しています。リテールビジネスの店舗はこれから、どんな場所になったらいいのでしょう。

私たち「未来定番研究所」は、大丸松坂屋百貨店の部署のひとつとして、未来の百貨店のあるべき姿を日夜考えています。この企画では、多様なジャンルで活躍するクリエイターの皆さんの力をお借りして、未来の百貨店を自由に空想してもらおうと思います。

 

今回お招きしたのは、ファッション、アート、写真集を中心にビジュアルブックを扱う〈flotsambooks〉オーナーの小林孝行さん。エッジの効いたセレクトに業界問わず多くのファンを持つ小林さんに、「これからの百貨店がどうあったら面白いか」、アイディアをいただきました。

(イラスト:本山浩子)

百貨店は、昔から“特別感”のある場所。百貨店に行けば何でもあって、ここにあるものなら間違いないと思える信頼感もありました。でも今の時代、百貨店に置いてあるものはほとんどがネットで買えてしまいます。特別な場所であることは変わらないけれど、もっともっと“特別感”が増すような場所になればいいなと。

最近読んだ漫画からインスピレーションを得たのですが、通常百貨店は入り口から、上の階に上がっていく構造になっていますよね。それが逆に、どんどん地下へ深く潜っていくと、迷宮になっていたらおもしろいなと思いました。その迷宮の中には商品がたくさん並んでいたり、一流ホテルが入っていて宿泊できたり。ロールプレイングのゲームのように、迷宮の中を歩き回りながら、何日も滞在して、宝探しのように自分の欲しいものを求めて冒険するんです。体験談で1冊本が書けるくらい、ワクワクする経験ができる場所。誰もが行ける場所ではありません。選ばれしものだけが行く。百貨店へ行くことが、壮大なエンターテインメントになるんです(笑)。

もう少し現実的な案だと、百貨店の超高級化。お客さんの立場から見ると、自分“だけ”が行ける特別な場所に。作り手の立場から見ると、商品を扱ってもらうことが最高のステータスになる場所に。そして、作り手と百貨店、お客さんは「共犯関係」なんです。自分だけが特別で、自分だけが分かっている。

昔からよく言われますが、インディーズバンドの追っかけをしている人は、バンドがメジャーデビューした途端に冷めてしまうのは、“自分だけ”が知っている彼らではなくなってしまうからです。「共犯関係」とは、つまりそういうこと。百貨店に当てはめて考えてもおもしろいんじゃないかなと。“特別感”を追求した、斬新な百貨店があったら、ぜひ行ってみたいですね。

Profile

小林孝行さん

flotsam books オーナー

flotsam booksはみんなの心の中にある本屋になるために、誠意と真心と笑顔を頼りにFF外から失礼しない、気取らないをモットーに生活必需品は扱わない雑な本屋です。

flotsambooks

東京都世田谷区大原2-24-28-101

15:00〜21:00

不定休

編集後記

今回の取材ではじめてお会いさせていただいた小林さん。「こんなことまで話しちゃっていいの!?」とこちらが不安になるくらい、率直なお話を聞かせてくださり、「正直でまっすぐ」なお人柄が伝わってきました。そんなまっすぐな人柄の魅力に惹かれて、flotsam booksに通うお客様もたくさんいらっしゃるんだろうなあと勝手に想像しています。小林さんのように、お店にいる人が魅力的であれば、そこはまさに”特別感”のある場所になります。他には真似できない ”特別感” のあるお店づくりのヒントを、たくさんいただくことができました。(未来定番研究所 菊田)

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