2023.06.28

ゲーム

ゲームはプレイから観賞へ?「他人エンターテインメント」のこれから。

ファミコンやプレイステーションなどの家庭用ゲーム機の台頭によって、「プレイ」することを親しんできたゲーム。しかし近年は、ゲーム実況動画の視聴やeスポーツ観戦が急成長し、「鑑賞」という楽しみ方が確立されました。ではなぜ今、このかたちが一般化しているのでしょうか。そして、ゲーム鑑賞のこの先は?ゲーム実況やeスポーツなどに精通したメディアコンテンツ研究家であり、黒川塾主宰の黒川文雄さんに伺います。

 

(文:船橋麻貴/写真:武石早代)

Profile

黒川文雄さん

メディアコンテンツ研究家。株式会社ジェミニエンタテインメント代表取締役。

1960年、東京都生まれ。アポロン音楽工業、ギャガ・コミュニケーションズ(現GAGA)を経て、セガ・エンタープライゼス(現在のセガ)、デジキューブ、デックスエンタテインメント、ブシロード、コナミデジタルエンタテインメント、NHNJapan(現LINE、NHN PlayArt)などにてゲームビジネスに携わる。現在はジェミニエンタテインメント代表取締役、黒川メディアコンテンツ研究所・所長を務め、メディアコンテンツ研究家としてエンタテインメント関連企業を中心にコンサルティング業務を行なう。また、エンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰。取材活動も精力的に行ない、エンタテインメント系コラム連載、インタビュー取材記事などを執筆する。「オンラインサロン黒川塾」も展開中。黒川塾91 (九十一)11周年記念企画「『転落』どん底に大地あり」が、7月9日(日)に開催される。

 

Twitter:@ku6kawa230

この20年で加速したゲーム実況文化。

F.I.N.編集部

ここ最近、ゲーム実況やeスポーツなどのゲーム鑑賞が一般化しましたよね。なぜ、今こういった潮流が起きているのでしょうか。

黒川さん

実は、昔からある文化なんですよ。というのもゲーム以外のエンターテインメント、例えば映画は映画館に行ってみんなで鑑賞しますよね。それに1950年代には、街頭テレビというものもありました。当時は新橋の駅前にテレビが設置されていて、みんな一緒になってテレビを見ることに熱中したんです。そういった背景からもわかるように、昔から私たちは集いながらも、そこで得られる感情や感動を他者と共有してきた。エンターテインメントの楽しみ方の一つに「鑑賞」という共感方法があるから、それがゲームにも適応されたのだと思います。

F.I.N.編集部

いつ頃から、ゲームを見て楽しむようになったのでしょうか?

黒川さん

1978年に市場に導入されて、世界的にブームとなった『スペースインベーダー』の存在が大きいと思います。導入当初『スペースインベーダー』はゲームセンターや喫茶店などに設置されたアーケードゲームで、僕自身も初めて触れたゲームでした。当時高校生でしたが、全然うまくプレイできないんですよね。そんな中、なかなか席を立たないプレイヤーがいて、その人のプレイを覗いてみると、レバーやボタン捌きがあまりにも見事で見とれてしまうわけです。上手な人のプレイから技を見て盗んだりしましたし、見られている方もどこか得意げでした。つまり、他人のプレイは第三者から見ても十分に面白い。僕はこれを「他人エンターテインメント」と呼んでいますが、ギャラリーとしてゲームを見て楽しむ文化は当時から確かにあったし、これが今に続くゲーム鑑賞に影響しているのでしょうね。

アーケードゲームプレイを楽しむ1994年当時の様子(写真左奥に黒川さん)/黒川さん提供画像

F.I.N.編集部

子どもの頃を振り返ると、確かに他人のプレイを見てゲームを楽しんでいましたね。とくに1990年代初頭に大流行した『ストリートファイターⅡ』では、他の人のプレイに熱狂していました!

黒川さん

そうなんです。1978年に「スペースインベーダー」あたりを境に生まれたゲームの鑑賞文化は、その後も脈々と受け継がれていくんです。ゲームセンターや喫茶店に設置されたゲームが、ファミコンなど家庭でも遊べるゲーム機に、そしてパソコンのオンラインゲームやYouTubeなどと、時代とともにメディアは様変わりしていきますが、ゲームを見て楽しむという文化自体はそんなに変わっていない気がします。

F.I.N.編集部

文化としてゲーム鑑賞が根づいているとはいえ、ここまで一般化が加速したのはなぜだと思いますか?

黒川さん

ゲーム鑑賞が市民権を得るきっかけとなったのは、2003年から放送されていたテレビ番組『ゲームセンターCX』だと思います。お笑い芸人・よゐこの有野晋哉さんがゲームをクリアしていくのですが、そんなにゲームは上手ではないけど朴訥としゃべりながらプレイする姿は、何か惹かれるものがありました。現在のゲーム実況の先駆けとも言えますね。当時、僕はゲーム会社に在籍していましたが、ゲーム鑑賞に「新しい潮流や文化が生まれている」という機運を感じていました。それには『ゲームセンターCX』の登場のほかに、もう一つ理由があって。それは、プレイステーションやセガサターンといった次世代機と言われる家庭用ゲーム機が登場したこと。これまでドットパターン絵の世界観が、次世代機の登場によって映像もゲーム性も一気にリッチになった。それで、ゲームを見て楽しむ文化が一層広がった。そして2010年代になるとYouTubeなど動画のプラットフォームで共有して鑑賞しようという、ゲーム実況の配信が大きく花開くことになります。

F.I.N.編集部

YouTubeでのゲーム実況配信が広がった要因は何でしょうか?

黒川さん

YouTube自体に着目が集まったことが大きいでしょうね。当時のYouTubeキャッチコピーは「好きなことで、生きていく」でした。2014年頃、おもしろ動画などをアップするYouTuberという職業が注目されて、その人たちのコンテンツの一つに、ゲーム配信があったんです。元々、大会に出場して賞金を得るプロゲーマーはいましたが、おもしろおかしくゲームの攻略方法を伝えたり、オンラインゲームで対戦する様子を配信するYouTuberたちは斬新で人気が集まった。この時の配信文化の台頭こそが、現在のゲーム実況配信の起源となり、ゲーム鑑賞という文化を広めたのだと思います。

F.I.N.編集部

昨今ゲームはメインカルチャーの一つになったような気がしますが、ゲーム鑑賞という文化が広がったのはその影響も考えられますか?

黒川さん

ゲームがメインカルチャーにいつなったかというのは非常に言及が難しい。なぜかというと、ゲームはずっとサブカルチャーと言われていましたが、一方で産業としての売り上げのダイナミズムや市場規模は昔から大きかったからです。ゆえに、サブカルチャーという表現にはずっと違和感がありました。日本における他のエンターテインメント、映画や音楽はずっと文化産業と言われてきましたが、成長比率も売上もゲームの方が当時からよっぽど大きかった。他のエンターテインメントと比べてゲームの歴史は40年ほどと浅いからか、ゲームの文化的ポジションは低く見られることが多かったんですよね。ですが、ゲーム鑑賞が一般化したことによって、ゲームの見る目が変わったことは間違いないですね。

黒川さんのオフィスには懐かしのゲームがズラり。なかでも持ち運んで遊べるゲームボーイが大好きだそう

ゲーム鑑賞は、遊び方の幅を広げてくれる。

F.I.N.編集部

YouTubeなどでゲーム実況動画が流行して久しいですが、そうした動画を見ることで「ゲームをやった気になる」という問題は起こらないのでしょうか?

黒川さん

ゲームメーカーとしては「未体験プレイヤーが、そのゲームをクリアした気持ちになって、購買してまで遊ばないのではないか」「やった気になって遊ばないのではないか」などという問題が挙げられると思います。ですが、実は10年ほど前は、メーカーはそこまで気にしていなかったんですよね。やはり、YouTuberら配信者たちがゲーム実況を配信すれば、プロモーションになると考えていましたから。ところが、暗黙のルールを破る人が出てくるわけです。肝心のエンディングまで全部見せてしまったり、隠しアイテムの場所を暴露してしまったり。さすがにそうなると見る側は満足して、ゲームをやらなくなってしまう。それを危惧したゲームメーカーは、ガイドラインを作ってゲーム配信のルール作りを行ったんです。そんなこともあって、今配信者たちはそれに則ったかたちでゲーム配信していますね。

F.I.N.編集部

なるほど。そもそもゲームの醍醐味は「プレイ」だと思っていましたが、「鑑賞」することの面白みとは何なのでしょうか?

黒川さん

僕にとってゲーム鑑賞は、映画における副音声みたいなものなんですよね。ゲームの進行に沿って話しながらゲームをプレイしてくれるから、余計にゲームの面白さに気づきやすい。他の人のプレイを見ることで「こんな遊び方や、隠しアイテムがあったんだ」という、新しい発見があるんですよね。そういう気づきがあるから、同じゲームを何度もやり返したくなる。他人のプレイの面白さがわかると、以前にも増してゲームの遊び方の幅が広がるのだと思います。実際にゲーム配信文化が広まってからも、世界でのゲームの売り上げは上がっていますから。

F.I.N.編集部

私たちは今、他人のプレイにエンターテインメント性を感じて楽しんでいるのですね。

黒川さん

おっしゃる通りです。さっきもお話ししましたが、ゲーム自体がよりリッチになったから、臨場感や迫力を他者とも共有できる時代になった。映画やライブに行くような感覚で、ゲーム鑑賞しているのだと思います。それに、昨今はeスポーツの大会が世界規模で行われていて、その戦いに何万人という人たちが熱狂しています。ゲームの対戦を見ているだけなのに、一喜一憂してしまうわけです。これにはテクノロジーが発達し、ゼロコンマ1秒の戦いが繰り広げられるようになったことも大きく関わっていると思います。だからこそ、人々は擬似観戦・擬似観覧できるゲームに熱狂しているのでしょう。

eスポーツの活性化とゲーム鑑賞のこれから。

2018年に開催された「Nagoya eSports Festival Vol.0」でのゲーム実況の様子/黒川さん提供画像

F.I.N.編集部

先ほどeスポーツの話がありましたが、国内ではそこまで身近な存在になっていないのはなぜでしょうか。

黒川さん

いろいろな問題があるのですが、一番はeスポーツ大会にかけられる賞金が少ないからでしょう。法律面で言えば、海外ではeスポーツ大会を観戦するチケット代金が賞金の原資になるのですが、日本でそれをやると刑法賭博罪に問われます。また、海外ではスポーツベッティングと言って、テニスやボクシング、スポーツバイクなどスポーツに多額の賞金をかけられ、eスポーツにも適用されます。しかし、それらの課題解決が日本では法律上とても難しいのです。数十億という賞金がかけられる海外とは違って、日本の規模は格段に小さいですし。最近では賞金1億円規模の大会が行われるようになりましたが、それでもeスポーツプレイヤーやチームたちの海外流出は避けられませんよね。

F.I.N.編集部

賞金の問題が、eスポーツが国内で活性化しにくい理由になっているのですね。

黒川さん

それと、日本独特のゲーム文化における問題もあります。eスポーツは「対戦格闘ゲーム」「リアルタイムストラテジーゲーム」「シューティングゲーム」「バトルロイヤルゲーム」など、種類もジャンルも多様です。しかし日本のゲームは、RPGや格闘ゲーム、カードゲームなど家庭用ゲームからのゲームジャンルが主流です。一方、海外では、パソコンやオンラインからゲーム文化が育った土壌もあり、全く知らない人たちとオンラインで繋がって、コミュニティ単位で連携してゲームをクリアしていくというのが一般的です。日本ではゲーム大国ながら家庭用ゲーム機が市場を席巻した背景もあって、海外と比べてeスポーツの主流であるパソコン・オンラインゲームに遅れを取っているわけです。それが、eスポーツが国内で活性化しにくい理由の一つになっていると考えられます。国内でもこのギャップを埋めようとする動きはありますが、それにはあと10年はかかるかもしれません。

黒川さんの近著『プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本』(日本実業出版社)では、eスポーツの世界を細やかに紐解いている

F.I.N.編集部

ゲーム文化の違いが関係していたんですね。それでは最後に、ゲーム鑑賞のこれからについて教えてください。

黒川さん

今年6月に発売された『ストリートファイター6』では、プロのeスポーツアナウンサーや芸能人らによるAIを駆使した自動実況モードが実装されましたし、CGの技術も発達しグラフィックの美しさも向上しているので、ゲームを見て楽しむ鑑賞という文化は、今まで以上に強くなると思います。鑑賞する側も配信する側も、どんどん増えていくでしょうね。

 

そして、ゲーム業界全体の予測としては、日本のゲーム会社に中国などの海外資本が入ることが考えられています。そうなると、従来のRPGや格闘以外のゲームも開発されてeスポーツ市場にもっと参入できるかもしれません。『スペースインベーダー』の誕生から半世紀近く経ちましたが、僕個人としては鑑賞ゲームの飛躍はもちろん、ゲームの中から新しいエンターテインメントが生まれていくのを期待し、楽しみにしています。

【編集後記】

天賦の才能や並々ならぬ努力に裏打ちされた巧みな技術を見ることは、ゲームに限らず心踊らされるもの。私もよくプロサッカー選手のプレイ動画をYoutubeで見ます。これは黒川さんのおっしゃるところのインベーダーゲームの達人の周りに自然とギャラリーができるのと同じ理由でしょうか。

自分には到底出来ない技術に憧憬のまなざしを向けているのかもしれません。

ただ、最近のゲーム鑑賞に対する価値観はもう少し細分化されているような気がしました。

プレイがうまい人の技術を見て新たな発見をするというのはもちろんありますが、決してプレイはうまくないけれど喋りが面白い人のゲーム実況も人気が出ています。

eスポーツの市場規模がますます大きくなる中、「プレイ」「鑑賞」の他にも私たちを魅了する新たな楽しみ方が生まれてきそうです。

(未来定番研究所 小林)