2023.07.05

ゲーム

ゲーム好きたちが気分別に作品をセレクト 「こんな時は、このゲーム!」。

世界中に数多あるゲームは、ジャンルもストーリーも千差万別。ゲームを起動したらいつだってどんな自分にもなれるし、どんな世界にだって旅立つことができます。私たちがその日の気分に合わせて音楽のプレイリストを選ぶように、ゲーマーの方々も気分に合わせて遊ぶタイトルを選んでいるのかもしれません。そこで、生粋のゲームラバー、クリエイター、評論家というそれぞれの立場の3人に、いつ、どんなゲームをするのか教えてもらいました。

 

(文:宮原沙紀/イラスト:Aki Ishibashi)

山本さほさんの場合

Profile

山本さほさん

1985年生まれ。幼少時代からの親友・岡崎さんとの友情や思い出を描いた自伝的作品『岡崎に捧ぐ』をWEBサイト「note」に掲載し、大きな話題に。その後、2015年より『岡崎に捧ぐ』の連載を開始し、2018年には単行本5巻で完結。現在は、週刊文春オンラインにて「きょうも厄日です」、週刊ファミ通‘(KADOKAWA)にて「無慈悲な8bit」を連載中。
Twitter:@sahoobb

仕事の合間の気分転換に『オーバーウォッチ2』

『オーバーウォッチ2』は、インターネット上で繋がった人と5人組のチームを組み、同じく5人組の敵チームと戦います。前半、後半で攻守を入れ替え一回ずつ戦って勝敗を決めます。早ければ15分で決着がつく時もあるし、延長線に入ったとしても30分ほどで勝負が決まります。もう一試合戦おうとしたら、次はまた味方も敵も全然違う人がマッチングして試合が始まるというシステム。一試合ごとの区切りがとても明確なので、「仕事の合間にちょっとだけ」というタイミングにすごくやりやすい。たくさんのキャラクターがいて、チームの先陣を切るタンク系ヒーロー、攻撃力が強いダメージ系ヒーロー、味方を支援するサポート系ヒーローの3種類があります。私のお気に入りはサポート系のブリギッテ。彼女が敵に攻撃すると、味方のHPが回復します。敵を倒す気持ちよさはもちろん、それが味方の回復に繋がることも気持ちがいい。ストレス解消になり、私は原稿に行き詰まった時に起動することが多いです。

運動不足の解消に『Fit Boxing 2』

漫画家という職業柄、1日中座っていて外に出ないことが多い私。最近は、階段を上ると息切れをすることも増えてきて「そろそろ運動不足をなんとかしなきゃ」と焦るようになりました。しかし、わざわざ運動をしに外に出るのも面倒くさい。『Fit Boxing 2』なら家の中でできるので、食後の30分間頑張っています。仕組みは音ゲー(音楽ゲーム)とよく似ています。音楽に合わせてジャブやストレートなどパンチの指示が出て、リズムよく打てたら高得点。最後に総合の得点が出るのですが、評価の基準はけっこう優しくて、体年齢がだいぶ若く表示されることも。この甘い採点がやる気を高めてくれます。インストラクターの声を担当している声優さんも豪華だし、得点を貯めていくとインストラクターの服などに交換することもできるんです。ゲームが終わるとスタンプを押せるのですが、こうやって実績を貯めていく機能はゲーマーの大好物。ゲーム好きの心理をよくわかっていると思います。もうゲームに慣れてきた私はもっぱら、テレビに繋げずにNintendo Switch(*)本体の画面でプレイ。それをテレビの横に置いて、ドラマを見ながら運動します。大嫌いな運動ですが、少しでも楽しくゲームでできるので助かっています。

 

*・・・©Imagineer Co., Ltd. Nintendo Switchのロゴ・Nintendo Switchは任天堂の商標です。

一日を幸せな気分で終えるために『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

今年5月に発売された『ゼルダの伝説』シリーズの最新作。面白すぎて、気づいたら朝なんてこともしばしば。実は昨日も朝9時までやってしまいました。今日はここまでやろうと決めていても、また次々とやりたいことが出てきてしまい、結局何時間もやってしまう。だから絶対に仕事を終わらせてからやると決めています。これはすごく頭を使うゲームではないので、仕事終わりの疲れた脳でも楽しめるのもポイント。ゲーム内の世界を自由に探索できるオープンワールドと呼ばれるゲームで、とても広いマップを、主人公のリンクが好きなだけ歩き回ります。他のゲームのように「まずはこの人に話かけて、次はこの人」というようなルールが全くない、とても自由なゲームです。もちろん、世界の異変を調査するという大枠のストーリーはあるのですが、「あそこに宝箱があるから、ちょっと寄って行こう」とか、「あそこに困っている人がいるから、助けてあげよう」と好きに遊べます。このゲームの楽しさは、例えるなら街歩きに似ているかもしれません。知らない街を歩いて何かを発見するのが楽しいように、街ブラ感覚でゼルダを楽しんでいます。

ゆはらかずきさんの場合

Profile

ゆはらかずきさん

1996年生まれ。VR映像作家、ゲームクリエイター。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース卒業。東京藝術大学大学院映像科アニメーション専攻ゲームコースの在籍中にゲーム制作を始める。アニメ『ポプテピピック』第二期のオープニングアニメーションのディレクションを務めた。

https://yuharakazuki.wixsite.com/website

人と関わりたい時に『VRChat』

大学院に入って間もない頃、3Dの作品を作り始めようと思った時に、前から聞いていたゲーム『VRChat』のワールドに入ったことがありました。『VRChat』とは、バーチャル空間にアバターでログインし、ユーザー同士でコミュニケーションができるソーシャルVR。ワールドとは、ゲーム内に存在するユーザーが手掛けた空間です。そこにいざ入ってみると、僕はすぐに数人のキャラクターに囲まれ、ピザやらコーヒーやらを渡され聞き取れない言語でうわぁ~っと話しかけられました。混乱した僕は「この体験は僕には向いていない……」と電源をそのまま落としました。

 

何年か経ち、つい先日また『VRChat』に入る機会がありました。以前のトラウマはありますが、知人にワールドを案内してもらえるということで一緒に遊んでみることに。美術館や水族館など、ガイドさんに案内されて巡るワールドは、本当に友人と隣で話しながら街を歩いている感覚で感動しました。ワールドを巡る部活もあります。そこで仲良くなった人が、右も左もわからない僕にワールドの巡り方や心構えなどを丁寧に教えてくれたんです。最後にフレンド登録もしてくれて、本当に満たされたひとときでした。この1週間でトラウマは消え、すっかりハマってしまいました。人と関わることが苦手な僕にとって、これは最初のハードルさえ越えてしまえばすごく面白い体験ができるゲーム。アバターも作ることができるので、理想の姿で世界を巡ることができます。誰かと話したい時におすすめです。

原点に立ち戻りたい時に『MOTHER』シリーズ

僕もゲームを作ってみたいと思った一つのきっかけが、糸井重里さんがディレクションをした『MOTHER』シリーズです。初めてプレイしたのは高校生の頃でした。登場するのは、変な世界の変な生き物たち。初めに戦う敵が電気スタンド、変なカブト虫がブーンブーンと話しかけてくる、不穏な雰囲気を醸し出すドアのノックの音。そんな世界観にすっかり巻き込まれてしまいました。糸井さんがコピーライターだったこともあり、文章がとても可愛いのも特徴。特に僕がハッとさせられた言葉があります。ハッピーハッピー村という場所の無人販売所で、商品を盗んで逃げようとすると町民との戦闘になる場面があります。そのバトルに僕が勝つと、無人販売所の監視員がこう言うんです。「バトルではおれに勝ったが、お前の良心は痛むだろうな。フッフッフ。」この言葉が心に刺さって、「やってしまった」という思いで旅を進めることに。予想外の言葉に、僕は少し落ち込みました。

 

ただのプレイヤーだった僕に強烈なインパクトを残してくれたのがこの作品。「こんなふうに人の心を動かしたい」とこのゲームを通して思ったことが、作品を作る動機になりました。

ゲームを作るアイデアが欲しい時に『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

ゲームを制作する上で、作品からアイデアをもらえることもあります。最近のタイトルだと、やっぱり『ゼルダの伝説 ティーアズ オブ ザ キングダム』。これは本当にプレイヤーの自由度が高い。どのように攻略するのか、世界の救い方からギミックの解き方まで多種多様です。あるギミックでトロッコとフックを組み合わせてレールを渡るというものがあるのですが、ツイッターを眺めていたところ、そのレールの上を歩いて渡った猛者がいました。しかも、ゲームの中で日が暮れて朝になるまで時間をかけて渡っている。そのパワーで謎を乗り越えることができるんです。こんなプレイも可能なこの作品は、順路に従って物語を読み進めるように体験していくゲームとはまた違い、それぞれが独自の解決法を持って攻略していくという面白さがあります。自由度が高い設計は、プレイヤーのアイデアを掻き立て新しいゲーム体験になっていくのだなぁと感心していました。

中川大地さんの場合

Profile

中川大地さん

評論家/編集者。批評誌「PLANETS」副編集長。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員(第21~23回)、芸術選奨メディア芸術部門推薦委員(第71〜73回)。 1974年生まれ。ゲーム、アニメ、ドラマなどのカルチャーを中心に、現代思想や都市論、人類学、生命科学、情報技術等を渉猟して現実と虚構を架橋する各種評論等を執筆。著書に、『現代ゲーム全史』(早川書房)『東京スカイツリー論』(光文社新書)など。2023年7月5日〜9月2日にかけて京都で開催される、現代アートとインディーゲームの今を発信する企画展「art bit #3 – Contemporary Art & Indie Game Culture-」(於・ホテル アンテルーム 京都)のコンセプト監修を担当。

自由な異世界に旅立ちたい時に『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

他の方も挙げてますし、もはや紹介するまでもない今年の超話題作ですが、やはり現代ゲーム史の最前線として自分の視点でも触れないわけにはいかない作品です。本作は2017年にリリースされた『ブレス オブ ザ ワイルド』の直接の続編にあたりますが、前作の時点で3DCGで克明に構築された異世界を自由自在に冒険できる「オープンワールド」と呼ばれるスタイルのゲームの金字塔になりました。それまでの多くのオープンワールド系ゲームではフィールドマップ上の移動が平面的に制限されていることが多く、あくまでもイベントとイベントの間のつなぎの無為なタスクという印象が強かったのですが、『ブレス オブ ザ ワイルド』では一見「壁」のように見える崖や山でも、主人公リンクの「がんばりゲージ」を鍛えさえすればどこにでも登っていくことができ、世界をとても立体的に味わえるようになった。こうして縦軸の移動可能性を高めたことで、移動そのものが楽しくなる遊び体験の幅が飛躍的に高まったんですね。これを受けた『ティアーズ オブ ザ キングダム』は、地上だけでなく天空に浮かぶ空島と暗闇に覆われた地底世界を加えて縦軸の移動性を世界観レベルで拡張したほか、さまざまな素材を組み合わせてイカダや自動車や飛行ロケットなど自由にガジェットを工作して攻略に活かせるという、まるで『マインクラフト』のような創造の楽しさが加わった。そんな夢のような遊び世界の自由さこそが本作の何よりの醍醐味なんですが、実のところ僕自身が惹かれたのは、あまり注目されないそのストーリーの方なんです。というのは、プレイヤーが操るリンクが驚異的な身体能力で自由に世界を堪能することができるのに対し、ゼルダ姫は彼の自由な能力に嫉妬と憧れを抱きつつ、自らは重く不自由な使命を引き受けながら裏でリンク(プレイヤー)の活動を必死で支えることで伝説を遺していくという、まさに「ゼルダの伝説」のタイトルを回収するかのような物語が、前作・今作を通じて語られているように僕には思えてならなくて。そんな「リンクの自由とゼルダの不自由」ないし「ゲームプレイと物語」の相克こそが、この世界に深みを与えていると感じるのです。

切ない物語で泣かされたい時に『ヘブンバーンズレッド』

スマホゲームというと、ちょっとした空き時間の暇つぶしというイメージを持たれている方が多いかもしれません。しかし今はスマホのスペックの進化とともに、家庭用ゲーム機やPCともほぼ遜色のないゴージャスなビジュアルで展開される物語や、高度なゲームシステムを体感できるタイトルが人気を博すようになってきています。特に最近のスマホゲーム業界の動向として、2020年に〈miHoYo〉からリリースされた『原神』がオープンワールドRPGとしてすごくリッチに作られていて大ヒットして以降、中国のスマホゲームメーカーの勢いが止まりません。今やアニメ・ゲームを中心とした日本カルチャーの感性は海外でも共有されていて、それを作ることができるのが日本人だけではなくなってきています。特に中国勢が日本メーカーにはできない予算規模で日本のオタク層に受けるハイクオリティなゲームを次々とリリースしてきているなか、同じ土俵で対抗しようとしている数少ない国産タイトルが、この『ヘブンバーンズレッド』。正体不明の宇宙生物との戦争で壊滅的な危機にさらされている世界を特殊能力に目覚めた美少女たちが学園生活を送ったり、バンド活動をしたりしながら救おうとするドラマチックRPGです。要は『新世紀エヴァンゲリオン』以降の日本アニメ・ゲームが受け継いできた王道の状況設定なんですが、近年の中華系ゲームはこのタイプのオタク狙い撃ちタイトルが多い。対して『ヘブンバーンズレッド』は、「泣きゲー」(泣けるゲーム)と呼ばれる感動系のノベルゲームで一時代を築いたスタジオ〈Key〉がシナリオを手掛けていて、「最上の切なさ」を謳った物語とビジュアル演出、それに楽曲の完成度で正面突破しようとしている。そうした戦後日本カルチャーの遺伝子をどう継承発展させるかの回答としても、興味深い作品になっていると思います。

シリアスな現代的テーマに向き合いたい時に『The MISSING -J.J.マクフィールドと追憶島-』

現在のゲームシーンは、AAA(トリプルエー)と呼ばれる大規模予算のビッグタイトルと個人や小規模ディベロッパーが手がける作家性の強いインディーゲームとに両極化していると言われています。この『The MISSING』もそうしたエッジの効いた近年のインディーゲームの注目作の一つで、大阪の独立系デベロッパー〈White Owls〉を率いる個性派クリエイターSWERY氏が開発しました。システム的にはクラシックな横スクロールアクションで、主人公の女性キャラクターJ.J.が親友エミリーとともに謎の孤島「追憶島」にキャンプに訪れるものの、突然姿を消したエミリーを探してパズルを解きながらステージを進んでいくというゲームです。本作の特徴は、J.J.が障害物などに触れてダメージを受けると腕が取れたり足がもげたりと、身体が痛々しく崩壊していく点。もげた四肢を投げて的に当てたり首だけになって狭い通路を通ったりしながら突破口を見つけ、不思議な力で元の身体に戻るというプロセスを繰り返しながら先に進んでいきます。これはある種、悪趣味系のスプラッター表現にも見えるんですが、その根底には「こうありたい身体」と「実際の身体」に悩む現代人のアイデンティティーをめぐる主題があって、肉体を傷つけ崩壊させていくアクションを通じて、自身の心と体をめぐる真相に向き合っていくという体験設計がされている。「この作品は、すべての人々が自分自身であることを否定しなくてもいいという信念のもとにつくられています」とゲーム冒頭で表示されるように、強いメッセージ性が込められている作品です。今はこうしたエンタメの枠を越えて個々人が抱える現代的・私小説的な主題を扱う文芸性の高いインディーゲームが世界中で作られているので、ゲーム文化に興味がある人には、ぜひ積極的に触れていただきたいです。

【編集後記】

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』の三冠には、さすが…!と感服です。同じタイトルを挙げながら、心が満たされたり揺さぶられたりするポイントを三者三様に語っていただくのを伺いながら、さまざまな楽しみ方をプレイヤー自らが発見して深掘りできることこそが、これほどゲーマーを唸らせている魅力の一つなのではないか、と感じました。また運動や人との関わりなど、これまでは苦手だったことがゲームを通して克服できた、というエピソードも興味深いです。一定のルールやご褒美システムなどのゲーム性が、人々の悩みを解決しうる定番の選択肢になるくらしを想像し、案外すぐそこにまできているのかもしれない、と思いました。

(未来定番研究所 中島)