2023.06.26

ゲーム

〈すごろくや〉代表・丸田康司さんに教わる、最新ボードゲームの世界。

F.I.N.編集部が掲げる6月のテーマは、アニメや漫画と並び、今やメインカルチャーの一つになっている「ゲーム」。コンピュータゲームを想像する人も少なくないと思いますが、現在は大人が熟考しながら、子どものように楽しむ「ボードゲーム」が広く浸透し始めています。目利きに行ったアンケート取材では、「複雑で長時間かかるようなゲームを楽しんでいるフリークがいる一方で、一般的にはまだまだ単純明快なものしか注目されていない」と、日本のボードゲームを牽引してきた〈すごろくや〉代表・丸田康司さんが教えてくれました。今、ボードゲームの世界ではどんなことが起きているのでしょうか。そして、その行方とは?丸田さんにお聞きします。

 

(文:船橋麻貴/写真:森本絢)

Profile

丸田康司さん

株式会社すごろくや代表取締役。『MOTHER2』『風来のシレン2』などテレビゲーム開発に携わった後、2006年に近代ボードゲーム・カードゲームの専門店〈すごろくや〉を設立。現在は、東京の吉祥寺と神保町の2店舗で展開中。海外製ボードゲームの国内向けローカライズやイベント運営、自社ゲームの開発、書籍の発行など多岐に渡る活動をしている。

 

すごろくや:https://sugorokuya.jp/

ボードゲームに秘められた「ゲームの凄み」。

F.I.N.編集部

丸田さんはテレビゲームの開発者として仕事を始めた1991年に、ボードゲームに初めて触れて感銘を受けたそうですね。ボードゲームのどの辺りに魅力を感じたのでしょうか?

丸田さん

その当時、日本でボードゲームと言えば、『人生ゲーム』や『UNO』『モノポリー』くらいしか知られていませんでした。それらのほとんどはすごろくの延長でしたが、その時に出会った『カタンの開拓者たち』などドイツを中心としたヨーロッパのボードゲームは、当時の僕の頭では太刀打ちできる感じがしなかったんですよね。別にルールが難しいわけではないんですが、こんなにゲーム性が高くて大人っぽいゲームが海外にあるなんて……と衝撃的だったんです。

F.I.N.編集部

1991年当時、国内におけるボードゲームはどのくらいの認知度だったのでしょうか?

丸田さん

知る人ぞ知る、くらいの認知度でしたね。ボードゲーム人口で言うと、100人もいなかったんじゃないでしょうか。

F.I.N.編集部

海外では人気だったのですか?

丸田さん

いえ、そうでもないんです。数あるおもちゃの中の一つとして、ボードゲームが存在していたので。ただ、日本とヨーロッパでは、ボードゲームを受け入れる素地が大きく異なっていると思います。例えばヨーロッパでは、ボードゲームの一種であるカードゲームは高度なものという文化があります。トランプゲームもそうで、日本ではババ抜きや大富豪といったライトな遊び方が普及していますが、ヨーロッパでは真逆。向こうではトリックテイキングという複雑な遊び方が主流です。これを将棋で例えるなら、本来の将棋と将棋崩しくらいの違い。そもそも日本ではカードゲームを知的に遊ぶという文化がないから、こうなるのも当然の流れなのかもしれません。

F.I.N.編集部

なぜ、日本にはカードゲームを複雑に遊ぶ文化がないんですか?

丸田さん

江戸時代中期、いろいろな文化が発展しましたが、それとともに複雑なカードゲームは廃れていったと僕は思っています。すごろくもその一つ。元々は2つのサイコロを振って確率を競う戦略のゲームでしたが、それが江戸時代中期に今のすごろくのかたちに取って代わる。それはなぜか。おそらく、その時代が相当平和だったからじゃないですかね。鎖国状態で他国から攻められなかったから、戦略を練ったり、培ったりする必要がなかった。加えて、いろいろな文化が入ってきたこともあって、複雑な遊びに興じる必要もなかった。だから、カードゲームはわかりやすい方向に舵を切ったのだと思います。

F.I.N.編集部

そういう歴史的な文脈もあり、日本にはボードゲームを受け入れる素地が育たなかったんですね。丸田さんがボードゲームに初めて出会った1991年以降、その動きに変化はありましたか?

丸田さん

1995年ごろになると、〈メビウス ゲームズ〉というボードゲーム専門のショップによく足を運ぶようになりました。〈メビウス ゲームズ〉はドイツのボードゲームを本格的に輸入販売していたんですが、そこでまたボードゲームの多様さに感銘を受けたんですよ。これまで培った戦略や推理力、交渉術などを駆使し、大人同士が熟慮して行動を決めつつ、子どものように楽しむ。そんな「ゲームの凄み」にさらに衝撃を受けました。

大切なのは、自分の中で「発明」していくこと。

F.I.N.編集部

丸田さんはその後、2006年に〈すごろくや〉を創業されます。その頃になると、ボードゲームを取り巻く状況にも変化が起きていたのでは?

丸田さん

これが何も変わっていませんでしたね。当初のボードゲーム人口100人が、せいぜい1,000〜2,000人になっているかな、くらいでした。

F.I.N.編集部

ボードゲーム人口が少ない中、商売としてやっていける確信があったのはなぜでしょうか?

丸田さん

その1,000〜2,000人というのは、マニアックなボードゲーム人口です。だけど、ボードゲームの多様な魅力を知る僕としては、もっと一般の方にも楽しんでほしいという気持ちが強かった。それを伝えることもできると思っていました。ですが、お店をオープンしたての頃は、マニアックなユーザー層からは「コアな商品が置いてないからダメだ」と言われたこともあったし、カードゲームが1個しか売れない日もありましたけどね(苦笑)。

現在、〈すごろくや〉は吉祥寺と神保町の2店舗を展開している

F.I.N.編集部

では、どうやって一般の方に、ボードゲームの認知を広げていったのですか?

丸田さん

空いている時間に広報活動を地道にやっていったのもありますが、最初に実を結んだのは伊集院光さんのラジオ番組で宣伝させてもらえたこと。伊集院さん率いる草野球チームと草野球で対決して、ヒットを打ったら宣伝をさせてもらえるというコーナーがあったんですよ。そこで知人にヘルプをお願いしたら、見事にヒットを打ってくれて。それをきっかけに伊集院さんがボードゲームを面白がってくれたんです。ゲーム雑誌に寄稿してくれたり、ラジオ番組内で「えらい面白い」と語ってくださったりして。そうしたことをきっかけに、創業から現在の約15年の間にボードゲームをいろいろな方に知っていただいた感じですね。

F.I.N.編集部

丸田さんのご活躍もあり、ボードゲームが世間一般にも浸透しましたが、なんとなくボードゲームって難しそうな印象でして……。そんな人も楽しめるようになるものですか?

丸田さん

なると思いますよ。マニアックな層のユーザーは、より複雑で長時間かかるようなゲームを好みます。ですが、この方々はある一定の方向にベクトルが向いているだけであって、これはボードゲーム全体のベクトルの一部でしかありません。さっきもお話ししたように、ボードゲームは複雑なものだけではなく、さまざまなものがあります。感性で楽しめるものだってあります。だから、自分の力量に合ったボードゲームや好敵手を見つけて楽しむのが大事。そうしてボードゲームで遊んでみると、こんなに新しい考え方をさせてくれるのかと気づけるし、「思考と決断」を繰り返しながら自らのクリエイティビティを発揮してゲームの攻略方法などを「発明」しようとする。これこそが、ボードゲームの醍醐味だと思います。

F.I.N.編集部

「思考と決断」を伴って「発明」することは、なぜ大切なのでしょうか。

丸田さん

人間のあらゆる根源だからですね。生きることは、思考と決断の連続です。物事に疑問を抱かずに考えるのをやめることを、僕は「そういうもんだ教」って言っているんですが、こうなってしまうのは非常にマズイ。自分で考えて決められるようにすることは、生きていく上で必要不可欠だと思います。

F.I.N.編集部

なるほど。ではボードゲームに距離を感じている人には、どんなものがおすすめですか?

丸田さん

『ビス20』というカードゲームはいかがでしょう。これは参加メンバー全員でミッションをクリアしながら、1~20の数をカウントしていくゲームです。

番号カードと指令カードで成り立つ『ビス20』。例えば番号カードが「3」で、指令カードが「お辞儀」の場合、1から20まで1人ずつ順番にカウントアップしていく際に、「3の時にお辞儀をする」。うっかりミスに注意し、いくつかの指令を守りながらミッションを成功させていく

丸田さん

あとは、『赤い糸大作戦』もいいかも。これは手紙を送り合い、「ラブレターを送り合っている」と思う相手に告白し、成就のためのチャレンジを成功させるか、両思い同士だと思う2人にお節介をして結びつけるかに挑むゲームです。

告白する時のドキドキ感、断られた時のショックな気持ち……。『赤い糸大作戦』では、他のゲームでは味わえない感覚が楽しめる

F.I.N.編集部

どちらも面白そうですね。これらをはじめとしたボードゲームは、勝ち負けがプレイする原動力になるのでしょうか。

丸田さん

なるとは思います。ですが、さっきもお話ししたようにボードゲームの目的は、自分のクリエイティブを発揮させて「発明」すること。その本質さえ見失わなければ、勝ち負けにこだわってもいいとは思います。しかし反対に、負ける人を出さないボードゲームだってある。例えば今ご紹介した『ビス20』は、メンバーみんなで試練を乗り越えていくゲームですよね。だから勝ち負けはそこまで関係ない。緊張感を味わったり妙に熱くなったりしながら、みんなで目標を達成した先に何があるのか。ボードゲームは、そういう発見や考える機会を与えてくれるものだと思います。

シンプルなのに頭を使わせてくれる、

ボードゲームの可能性。

F.I.N.編集部

丸田さんはゲームにまつわるアンケート取材で、見ていれば遊び方が解るくらい簡単なボードゲームと、マニア層が好むようなより複雑なボードゲームの二極化が進んでいると教えてくださいました。どうして今、こういう潮流が起きたのでしょうか?

丸田さん

最近トレンドになった、言葉で遊ぶワードゲームの類。これが広がったのは、テレビやSNS、動画などのメディアの拡散力の高さに起因するところが大きいです。それとボードゲームの素地がそこまでなくても、感覚的に手軽に楽しめる点も一般の方々にも受け入れられた要因なのでしょうね。一方、より複雑なボードゲームの供給過多が進んでいるのは、ゲームメーカーがその需要に応えようとした結果だと思います。

F.I.N.編集部

極端とも言えるこの二極化について、丸田さんはどうお考えですか?

丸田さん

正直、あまり面白くないなぁと感じています。そもそも僕がボードゲームに感銘を受けたのは、シンプルな構造なのにいろいろな考え方をさせてくれるから。『ビス20』や『赤い糸大作戦』もそうですが、そういったボードゲームはまだまだ山のようにある。ようやく日本でもボードゲームが浸透し始めた今こそ、簡単なもの、複雑なもの、ボードゲームはその二つだけでないことを知っていただきたいですね。

F.I.N.編集部

そういったことを踏まえて、この先ボードゲームはどうなっていくと思いますか?

丸田さん

僕らの時代と違って、現在は子ども同士がお互いの家に自由に行き来しにくくなったとよく耳にします。ボードゲームで遊ぶ環境を確保しづらくなっているので、ボードゲームの壁は増しているとも言えるでしょう。ボードゲームが教材化していくことも一部ではあるかもしれませんが、二極化はまた進むだろうと思っています。

F.I.N.編集部

コンピュータゲームの世界では、他人がプレイしているのを見て楽しむことが一般化していますよね。ボードゲームの世界では、こうした動きにはならないのでしょうか?

丸田さん

ボードゲームではそれが極めて難しいですね。なぜなら、ボードゲームで遊んでいる人の頭の中の動きを可視化するのは不可能に近いからです。だから、僕たちとしても能動的に人々がボードゲームに触れる機会をつくっていこうと考えています。その一つとして、コロナ禍中はお休みしていたトークイベントを再開。これからも、ボードゲームの魅力を伝える啓蒙イベントを積極的にやっていきたいと思っています。

 

あとは、お店や施設にボードゲーム専用の棚を設置できる〈すごろくやスタンド〉を、全国に展開していきたいと考えています。〈すごろくやスタンド〉は、私たち〈すごろくや〉が商品や棚、ポップなどの一式を提供するので、設置するだけでボードゲームが販売できる仕組みです。やはりボードゲーム選びは難しく、万人に合うものはなかなかありません。個人の好みにもよるし、一緒に遊ぶ相手によっても合う、合わないがある。そこで〈すごろくやスタンド〉で知識をもった店員さんとコミュニケーションを取っていただくことで、そうしたミスマッチを起こさず、ボードゲームをより楽しんでもらえる環境を整えていきたいと考えています。

【編集後記】

「思考と決断」を伴う「発明」こそがボードゲームの醍醐味である、という丸田さんの考えは、勝敗を決めることがゲームの魅力である、と思い込んでいた自分自身の考えを覆すものでした。また取材当日、『ビス20』と『赤い糸大作戦』を体験させていただきましたが、参加者全員が協力してゲームクリアを目指したり、他者の気持ちを伺いながらアクションを起こしたりするプロセスは、人生においても通じるものがあると感じました。

ボードゲームという小さな社会での経験は、目の前の物事を深く思考し、ときには他者と話し合いを重ねながらお互いの理解を深め合う、といった社会性を育む学びにもつながるのかもしれません。

(未来定番研究所 岡田)