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2020.09.03

F.I.N.的新語辞典

第69回| イマーシブシアター

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「イマーシブシアター」をご紹介します。

©︎龍/Tatsu

イマーシブシアター【いまーしぶしあたー/Immersive Theatre

2000年代にロンドンから始まった“体験型演劇作品“の総称。旧来の「観客が客席に座り、舞台上の演者を鑑賞する」という構図を打破し、新たな作品と観客の関係性を作り出す公演のこと。 2020年1月に京都・南座で上演された「サクラヒメ」や、最近ではブティックホテル「HOTEL SHE, KYOTO」で上演されたりなど、 注目を集めている新感覚“没入型”のエンタメ。

 

「これまでのような舞台での観劇方法だと、観客は物語を客観的に追いかけていくのですが、イマーシブシアターの場合は、自らが物語の世界に入り込むような感覚があり、それが“没入”と呼ばれる所以だと思います。観客は何を観るのかを選択できる、つまり自分が主役になれるというところが魅力のひとつです」そう話すのは、2017年に日本では初めて本格的なイマーシブシアタースタイルの作品『Touch the Dark』を上演したダンスカンパニー「DAZZLE(ダズル)」の主宰であり、演出や振付も手掛ける長谷川達也さん。

 

狂ってしまったドクターが、亡き愛娘を蘇らせるために禁断の実験を行ってしまう……というホラーテイストな作品『Touch the Dark』では、東京・渋谷の廃病院をまるまる一棟貸し切り、約30名の演者がダンスパフォーマンスを行いました。50部屋を舞台にさまざまなパフォーマンスが繰り広げられるなかで、観客は各部屋を自由に歩き回ることができ、どのパフォーマンスを見るか自分の意思で選ぶことができたそう。「この作品では、人によって見えるものが違うので、終演後に自分は何を見て、何を見ていないかというのを他の観客者と共有する楽しさもあります」と長谷川さん。

また舞台公演では、演者は役が終われば出番も終わりですが、イマーシブシアターでは、すべての演者が最初から最後までパフォーマンスを続けます。演者全員分のドラマが観られるというのも没入型演劇の醍醐味。

 

「舞台観劇にとどまらない新しい観劇スタイルは、エンターテインメントの可能性をより広げてくれるものだと思います」と長谷川さん。現在はこの廃病院は取り壊され、公演は終了となりましたが、DAZZLEでは第2作目となる『SHELTER』や、動画配信によるオンラインイマーシブシアターなども公開中です。

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