未来定番サロンレポート
2020.06.15
わたしが通いたいお店。<全6回>
インターネットの普及により、どこにも出向くことなく、欲しいものが何でも手に入るようになった今の時代。一方で、「あの店員さんのおすすめを聞きたい」「このお店に行けば、必ず欲しいものに出会うことができる」などの理由で、どうしても足を運んでしまうお店が、誰にでもきっとあるのではないでしょうか。各界で活躍する方々に、頻繁に足を運んでいるお店をお聞きすることから、未来に残したいお店について一緒に考えていきます。
今回お招きしたのは、編集家の紫牟田伸子さん。「ものごとの編集」を軸に、企業や地域の商品開発、ブランディング、コミュニケーション戦略などに携わる紫牟田さんに、お話を伺いました。
香川県高松市に〈pain〉というセレクトショップがあります。国内の小さなブランドやヨーロッパのブランドなどを買い付けて販売していて、高松へ行くと必ず立ち寄るお店のひとつです。仕事で15年くらい高松へ訪れていて、地元の方に連れられて行ったのがきっかけで、もう10年になります。花柄やカラフルな色合いの洋服、フリルや刺繍が施されている洋服や小物が並んでいて、当時全身黒い洋服を好んで着ていた私には、かわいすぎるかなと感じながらも着てみると、「意外と似合うかも!」と(笑)。以来、ピンクの靴や色柄物など、これまで選ばなかった商品に手が伸びるように。これをきっかけに、いろいろな服を“編集”する楽しさに気づきました。洋服やメガネ1つとっても、自分に似合うかどうかって全てが経験ですよね。そしてお店に行くことは、物との出会いの体験。〈pain〉に行くと、新しい自分に出会えるかもしれないと思えるんです。お店は、欲しいものがあるから行くのではなく、欲しいものがあるかもしれないという“可能性”を信じて行く場所。違う私になれるかもしれない、面白いものに出会えるかもしれない、こんなものが似合うと気づくかもしれない。この「かもしれないループ」がお店に期待することであり、魅力なんです。そんな、“次へのワクワク”を感じながら〈pain〉に行くために高松に行ける日を心待ちにしているんです。
〈pain〉
紫牟田伸子さん
編集家、プロジェクトエディター、デザインプロデュサー。美術出版社『デザインの現場』『BT/美術手帖』副編集長、日本デザインセンタープロデュース室チーフ・プロデューサーを経て、2011年に独立、個人事務所を設立。「ものごとの編集」を軸に企業や社会、地域に適切に作用するデザインを目指し、企業や地域の商品開発、ブランディング、コミュニケーション戦略などに携わる。
編集後記
「◯◯かもしれないという、可能性を信じて行く場所」
この発想はとても新鮮でした。さすが編集のプロである紫牟田さんの言葉です。
一方で、「百貨店」はたくさんの可能性を提供できる「百可店」になり得ますか?
という問答のようでもあり、背筋が伸びる思いです。
(未来定番研究所 富田)
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