2020.11.06

東大発スタートアップ企業〈 Xenoma 〉代表 網盛一郎氏に聞く テクノロジーで見守る、私たちの健康と未来

今、ファッション産業で注目を集めている「スマートアパレル」。「スマートアパレル」とは、洋服にセンサーをはじめとするICT(情報通信技術)などを組み込み、体の動きや体温、体調を測ることができるウェアラブルデバイスです。その代表例のひとつが、東大発スタートアップのスマートアパレル企業「Xenoma(ゼノマ)」によって発表されたスマートパジャマ「e-skin Sleep & Lounge」です。普通のパジャマや部屋着と変わらないデザインでありながら、着ている人の心拍や呼吸を計測、解析する機能を搭載。アプリと連動し、睡眠状態を分析し、アドバイスを提供します。2020年6月にはファッションブランド「アーバンリサーチ」とのコラボレーションモデルも発売。最新テクノロジーを駆使した、スマートアパレルがもたらす未来や網盛さんが描く未来の社会についてお話を伺います。

 

撮影:小野 真太郎

洋服をデバイスにした

「e-skin」というシステム。

「デジタルヘルスケアパジャマ」

F.I.N.編集部

網盛さんが開発された「e-skin」とはどういうものでしょうか?

網盛一郎さん(以下、網盛さん)

「e-skin」は、テクノロジーブランドで、アウトドア製品なんかでよく見かける防水透湿性素材「GORE-TEX」のような商標名です。「e-skin」を使用しているというタグをつけて表示してもらえたら、各社ブランドの商品として販売できます。「e-skin」はシステムですが、同時に布状電子回路基板のPCF(プリンテッド・サーキット・ファブリック)でもあります。つまり、普通の布に伸縮性の配線やセンサーを形成した新しい電子回路基板をつくれる画期的な技術です。洋服を作ってから取り付けていると思われがちですが、私たちにとって生地はシステムを装着するいわゆる基板。基板の上にまず回路を作って、それを最終的に縫製して洋服に仕立てています。ですから、洋服の型紙も自社でおこしているんですよ。

F.I.N.編集部

なぜ洋服をデバイスにしようと考えたのでしょうか?

網盛さん

もともとの動機が、心電図を測りたいとか特定の機能を作りたくて始めたわけではなくて、測定機能全てを服の上で繋いで服自体をシステムにしてしまったら、何にでも応用できるのではないかと考えたところがスタートです。洋服をデバイスにする会社は他にもあるのですが、私たちの発想は、システムを作ろうとしている点にあることが違いだと思います。洋服は、誰でも自分が好きなものを着たいですよね。システムといった汎用性のあるものであれば、他のブランドと一緒に作ることができる。そうすることで、普及もしやすいと考えました。

トレーニング用EMSスーツ「e-skin EMStyle」

F.I.N.編集部

これまでどのような商品を開発されましたか?

網盛さん

歩きながら脚の動きが細かく測定できるモーションキャプチャースーツや、筋電気刺激を利用して筋肉にアプローチしトレーニング効率をアップできるEMSスーツなどがあります。どちらも体にフィットするタイツのようなものでした。

F.I.N.編集部

そういった商品をもっと日常に落とし込んだものが、アーバンリサーチから発売されたパジャマなんですね。

網盛さん

そうですね、Xenomaでの名称は「e-skin Sleep & Lounge」です。そして、今年6月にファッションブランド「アーバンリサーチ」から「デジタルヘルスケアパジャマ」という名前で販売されています。これまでのぴったりとしたスーツではなく、ゆったりとした洋服を着て睡眠を解析してもらうものです。ポケットにセンサーデバイスと服の中に温度センサーがあり、睡眠時間や布団の中の温度変化といった睡眠に関する情報がアプリで管理できます。ゆったりしたデザインだと、睡眠中に呼吸と心拍を測ることしかできないけれど、健常者はそれで十分だということで着心地や日常への取り入れやすさを重視しています。

ポケット内にあるセンサーデバイス「Hub」

F.I.N.編集部

睡眠に着目したのはどうしてですか?

網盛さん

健康に対する意識が低くても、美容や健康に関心がある人は、自分の睡眠にも関心があるのではないかと思ったことがきっかけです。少し前に「睡眠負債」という言葉も流行っていたように、睡眠習慣が不規則な現代人が多い中、実際に自分がきちんといい睡眠を取れているかは意外とわからないですよね。それがデータでわかると安心にも繋がるのではないかと考えています。

F.I.N.編集部

アプリでは具体的にどんなことがわかりますか?

網盛さん

呼吸と心拍の計測から、睡眠の質をディープスリープやライトスリープというようにステージ分けしたグラフで表示しています。これで、寝入りまでの時間や眠りの深さも数値でわかります。また週1回、結果に基づいた詳しい分析結果と眠りに関するアドバイスが届きます。その地域の天気なども絡めながら生活習慣のアドバイスなどしっかりした内容になっているんです。

 

アプリで表示されるレポートの様子。

F.I.N.編集部

それだけわかると自分の睡眠の質を上げたいと、自然と意識できそうですね。今後はもっと進化する予定がありますか?

網盛さん

もう少しゲーム感覚で、「寝て楽しい」といったコンテンツをプラスしていきたいと思っています。できれば、翌日の日中のパフォーマンスがどうだったかもわかるようにしたいですね。朝スッキリ起きられたかどうかというのは、実は睡眠の質とあまり関係がないそうなんです。起きた時にスッキリしているのは、睡眠サイクルのどのタイミングで目覚めたかに関わることなので、たまたま深い眠りのタイミングだとスッキリ感は得られません。きちんとした睡眠が取れて疲れが取れたかどうかというのは、どれだけ脳が休めたかに関わるそうで、スッキリした目覚めとは別のバロメータです。日中にどれだけ快適に動けていたかどうかが肝心。それがわかるようなコンテンツができたらと模索中です。

データに基づく

予防医療を目指して

F.I.N.編集部

スマートアパレルができること、目指すことについて教えてください。

網盛さん

スマートアパレルがもっと身近なものになり、幅広い世代のたくさんのデータを集めることができれば、データに基づく予防医療が可能だと思っています。それが私たちの世界観の究極のゴールです。病気に関心が低い健康な人も、着たくなるスマートアパレルがあれば取り入れやすいと思うので、デザインももっとブラッシュアップしていきたいと思っています。

F.I.N.編集部

テクノロジーによる未来の健康産業についてどう考えていますか?

網盛さん

健康な人も、健康に不安がある人も、生活の向上のためにデータを取って「e-skin」から得たデータが見守りとなって、病気の予防に繋がることが理想です。コロナ禍で自分自身の健康状態に関心を持ち、より良いパフォーマンスを発揮するために自己管理することが、これからもっと大切になってくると気づかされた方も多いと思います。今の世の中はどうしても医療が厳格で敷居が高い印象があるので、もう少しテクノロジーや医療が人に寄り添える存在になったら、日々の中でも自然と自分の健康状態に関心を持てるし、行動の選択肢も増えるのではないでしょうか。

Profile

網盛一郎さん

次世代スマートアパレルe-skinの東大発ベンチャー(株)Xenoma Co-Founder & 代表取締役CEO。1994年富士フイルム(株)に入社し、一貫して新規事業開発に従事。2012年同社を退職後、東京大学・佐倉統研究室において科学技術イノベーション論を研究。2014年より東京大学・JST ERATO染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトにて伸縮性エレクトロニクス開発を行い、2015年11月にXenomaをスピンオフ起業。2006年米・ブラウン大院卒(Ph.D.)。

https://xenoma.com

編集後記

いい睡眠は、いい昼間のために。着てもらうのは、着てみたい服にしたい。網森さんの端々の 言葉から、研究者の熱い思いが伝わってきました。テクノロジーの進化は、想像していた以上 の拡がりをみせてくれます。 睡眠のためだけでなく、行動を可視化できる服の未来を想像するだけで、にやにやしてしまいました。(未来定番研究所 富田)

F.I.N.的新語辞典

第71回 IoA