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2020.05.22

18歳の噺家・桂枝之進さんが考える新しい落語論。<全2回>

後篇| WED山内奏人さんと語る、世代と自己表現の関係性

10代・20代にも落語の魅力を届けることに尽力する、10代唯一の落語家・桂枝之進さん。後編では、枝之進さんが影響を受けているという、レシート買い取りサービス「ONE」で話題を集めたWED株式会社 代表・山内奏人さんとの対談をお届けします。同い年であり、次世代の未来を担う2人が考える課題感や思いを紐解きます。

Profile

桂枝之進

落語家。2001年6月20日生まれ。兵庫県神戸出身。5歳で落語に出会い、9歳でアマチュアで落語をスタート。2017年、中学在学中に六代文枝一門三代目桂枝三郎に入門し、プロの落語家として活躍する。

https://www.instagram.com/edanoshin/

https://twitter.com/edanoshin/

Profile

山内奏人

2001年、東京生まれ。9歳から独学でプログラミングをスタートし、15歳で決済サービスの会社を創設。2020年1月、現在の株式会社WEDに商号を変更した。レシート買い取りサービス「ONE」や、国内の映画館や水族館、美術館に訪問し放題の招待制・定額サービスのリリースが話題に。

https://wed.company

自己との対峙と、

日常の余白の必要性。

2001年生まれの落語家・桂枝之進さんと、WED株式会社 代表・山内奏人さんは、10代でありながら、自ら決めた道をブレることなく進んでいます。そんな2人がこれまでどんなカルチャーに触れてきたのかが気になるところ。山内さんがプロダクトへの思いを込めてオフィス内に作ったという“茶室”で話を伺います。

F.I.N.編集部

枝之進さんに「同世代のどなたかと対談しませんか?」と聞いたら、指名してくださったのは山内さんでした。まずは、その理由を教えてください。

枝之進さん

僕自身、あまり人から影響を受けないタイプで、同世代だとより影響を受けにくいんです。山内さんのことは、〈ONE〉をリリースしたタイミングで知りましたが、やられている事業もそうだけど、ご自身の中にある思想や哲学が本当におもしろいんですよ。〈ONE〉だけで終わらず、追随して新しいサービスやプロダクトを生み出しているし、オフィスの中に茶室も作って。同世代で面白いものを作っている人はたくさんいますが、その中でも頭が一つも二つも飛び抜けている存在でした。

山内さん

ありがとうございます。会社の仲間も年上ばかりなので、僕も同世代の人たちとの繋がりってほとんどなくって……。だから土俵は違うけれど、同世代で活躍されている方に出会えるのはとても新鮮で嬉しいです。

F.I.N.編集部

先ほど枝之進さんから茶室について言及がありましたが、この茶室を作った意図はなんでしょうか?

山内さん

茶室ってとても奥が深くて、現代で言うところのトイレの個室なんかと同じなんです。最小の公共空間でありながら、内向する場所でもある。人とコミュニケーションを取りながらも、自分自身を見つめ直せるんですよ。伝統的な茶室とは違いますが、そういった役割を持つ茶室を因数分解して再構築したら、靴を脱がない、正座もしない、現代風の茶室になりました。忙しい日々の中でも自己と対峙して何かを見出せる、意識的に余白を作れる場所を設けたかった。僕らはスマホの中でのプロダクトを作っていますが、もっと現実世界でも人や自己と繋がっていきたいという思いを込めて、この茶室を作りました。

枝之進さん

10代でありながら会社を経営し、プロダクトを生み出す中で必要な余白やゆとり。それを意識して作っているというのが、哲学的に共感できるし、本当にすごいなって思いますね。

F.I.N.編集部

デジタルネイティブ世代のお二人。普段どういうものから刺激を受けるのでしょうか。

山内さん

映画はよく見ていますね。直近だと、『パラサイト 半地下の家族』がすごくよかったです。ピクサー作品と同じような感覚があって、1シーン1カットごとにちゃんと意味が表現されているなと感じたんです。僕は、映像から画像を切り取った時、その1つの画像がちゃんと意味を持つかどうかという見方が好きなんです。言語化されていない、セリフだけじゃないコミュニケーションの仕方があるんだなって、とても勉強になりますね。

F.I.N.編集部

なるほど。そうした中で、プロダクトに生かされることもあるんでしょうか?

山内さん

そうですね。うちの技術の責任者もアニメーションが好きなんですけど、アプリを使った時の動作に反映されていますね。例えば、アプリを操作した時、何か画像やテキストがでる場合、右から出てくるのと、左から出てくるのでは、捉え方や意味合いが全く違ったりするんです。感覚的な話になってしまうんですが、プロダクトを作る上でストーリーやコンセプトを大切にしているので、どんなものでもそういった捉え方や見方をしていますね。

枝之進さん

実は僕も映画が好きで、最近見た『犬ヶ島』で山内さんと同じようなことを思っていて。アメリカで制作されたストップモーションアニメで、犬が冒険をしていくというシンプルなストーリーなんですが、1つひとつのカット割りや構図にこだわりを感じる作品なんです。外国の人から見た日本を描いているんですが、僕たち日本人から見たらコミカルに見えて、そのギャップがおもしろいんです。そのおかしさもそうだし、1シーンごとに意味を持つというところも、落語に通ずるものもありますね。

F.I.N.編集部

作品を通して、自分と重なる部分も見出しているんですね。

枝之進さん

そうかもしれないですね。映画って同じ作品でも見る人によって捉え方が全然違いますが、映画を鑑賞している2時間って、まさにデトックスだなって思うんです。スマホも触らないし、自分自身と向き合って対話する瞬間もあるので。

学校内ではなく、

外の世界と繋がった理由。

山内さんはプログラミングを、枝之進さんさんはアマチュア落語を、2人ともキャリアの起点となるものを9歳からスタートさせています。情報が手に取りやすいデジタルネイティブ世代と自己表現の関係性を探ります。

F.I.N.編集部

自分を表現するものが幼少期に見つかったのは、何か理由があるんでしょうか。

山内さん

情報が入手しやすい、というのはあるかもしれませんね。ただ僕の場合、勉強も運動も飛び抜けてできるわけでもなかったので、クラスのヒエラルキーに入れなかったんです。やっぱりサッカーができる子とかがモテるわけですよ。自分の価値や存在意義を問ううちに、学校ではない外の世界に自然と目が向いてました。

枝之進さん

僕も全く同じ。小学校の終わりくらいに不登校になったんです。なんとなく引きこもっていたんですけど、学校以外の社会に出て行く理由が必要だった。それが落語だったんですけど、それを知ってしまってからはもう大変。社会とコミュニケーションが取れる落語への愛が加速して、余計に夢中になっていきました(笑)。

F.I.N.編集部

ちなみに山内さんは、落語にどんな印象をお持ちですか?

山内さん

そんなに落語に詳しくなくてたまに聞くくらいなんですが、伝統文化の中でも、受け入れやすいエンターテインメントだなと感じています。言語としてわかりやすいので、他の伝統文化と比べても入り込みやすいというか。

枝之進さん

それは嬉しい…! 前編でも話しましたが、僕はエンターテインメントのメインストリームに送り込みたくて。伝統芸能という立ち位置ではなくて、みんなの日常にあるエンターテインメントになったらいいなって思っています。

F.I.N.編集部

それぞれの道を追求する中で、同じ10代や20代の世代に望むこと、思うことはありますか?

山内さん

僕は世代とか関係ないと思ってます。もちろん葛藤はありますが、結果で評価されるのが自分の仕事なので。常々思うのは、戦う相手は他者じゃなくて自分だということ。売上や社員数、会社の評価額などで評価されることはあるんですが、どんな世界観を描き、どんなプロセスでどう実現・達成していくかが大切なんだと。何を選び、選ばないか。同世代と比べるというより、やっぱり自分と向き合っていくのが大きいですね。

枝之進さん

確かに戦っていく相手はいなくて、自分なんですよね。僕は、落語家としての視点はもちろん、1人の人間としての視点は持っておきたいなと思ってます。第三者的な位置から自分を見ることで、目標を達成するための課題が見えてくるので。

山内さん

同世代の人たちに対しては、僕が言える立場でもないですからね。ただひとつ、言うことがあるならば、もっと勇気を持ってもいいのかなと。例えば、意思決定。些細なことでも慎重に迷って選ぶのは、いいことでもあり、悪いことでもあるなって。どんなにいい大学行こうとも、どんなにいい会社に就職しようとも、あまり関係ないと思うんですよ。むしろ、自分が置かれた環境下で何をして、何を得るかの方が大事なので。僕たちの世代で気にされる偏差値とか世間一般的なルールは、おおむねまやかしみたいなもの。自分が幸せだったらそれでいいし、自分がやりたいことができていれば一番いいじゃないですか。

F.I.N.編集部

自分が思い描く生き方を遂行することが大切ということですね。それでは、お二人が望む5年先の未来とはなんでしょうか?

枝之進さん

僕は生涯落語家でいたいと思っています。そのためには、同世代が落語を当然のようにエンターテインメントとして取り入れてくれることが必要不可欠です。例えば、今年サービスが開始された5Gの技術を使った落語のライブ配信で、視聴者の方と瞬間的なコミュニケーションを取りながら、落語のおもしろさを伝えるとか。5年後にはそうなっていると思うし、僕はできると確信しています。

山内さん

文化やアートのような、生活の余白をちゃんと届けられる組織になっていたいですね。2年前くらいからちょっとずつ起きていた事象なんですが、文化やアートに対する消費や投資が圧倒的に減ってきていると感じていて。効率化を促すものへの投資が増えてきている一方で、ものづくりといった広義の意味でのプロダクトへの投資も少なくなってきているんです。落語もそうですが、映画や美術、観光といった心の余裕を表すものが軽視されていく感覚があるので、そういうところに消費や投資できるようになりたいです。

枝之進さん

僕たちは悟り世代なんて言われますけど、山内さんはやっぱり人間として悟ってますね…!

編集後記

江戸時代からつづく伝統芸能を現代へ受け継ぐ落語家と、最新技術を使ってあたらしい事業をつくる経営者、という対照的ともいえる活躍をされているお二人でしたが、対談を伺っているなかで共通点がいくつか見えてきたのは興味深かったです。

そのなかでもとくに印象的だったのは、「自分との対峙を大事にしていること」。

わたし自身も含め、多くの人はつい目先の忙しさに追われ、自分を見つめることをなおざりにしてしまいがちだと思います。しかし、意識的に自身の存在意義を問う時間や場所をつくることは、自分自身の人生を歩んでいくうえでとても重要なのだと、ご自身の足で立って生きているお二人から教えていただきました。

 

(未来定番研究所 中島)

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