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2023.06.22
二十四節気新・定番。
「二十四節気」とは、古代中国で生まれ、日本でも古来親しまれてきた暦です。めぐる季節の変化に寄り添い、田植えや稲刈りの頃合いを告げる農事暦でもありました。今でも折々の季節を表す言葉として愛されています。「F.I.N.」では、季節の変化を感じ取りにくくなった今だからこそ、改めて二十四節気に着目する潮流が生まれ、季節の楽しみ方の新定番が出てくるのではと考えました。
第3回目は、二十四節気の詩が届く木製のデジタルデバイス「muiボード(ムイボード)」を開発している京都の会社mui Labのアートディレクター・廣部延安(ひろべ・のぶやす)さんに話を伺いました。デジタルテクノロジーが発達した現代、人と自然はどうあるべきか、お話の中から見えてきました。
(文:大芦実穂)
木×テクノロジーのmuiボードで、
天気や季節の移り変わりを知る
一見横長の四角い木片のようにも見えるのは、私たちが開発しているデジタルデバイス「muiボード」です。この家具のようにも見える木の素材に触れることでインターネットを通じてスピーカーやライトなどIoT機器をコントロールしたり、アプリを使ってテキストメッセージを表示したり、天気情報などをお知らせしたりできます。
私たちが目指したのは、人の注意を引き付けず、空間の中に自然と馴染むようなデバイス。スマホなどには、動画やゲーム、SNSなど、気がつけば長時間にわたって人を虜にしてしまうデジタルコンテンツがあふれています。遠く離れたデジタルデータにばかり時間を割くのではなく、もっと身近にある本や友達と直接会える時間をつくり出すことで、より人間らしい、豊かな暮らしができるのではないかと考えています。
長いステイホーム期間、
季節の詩が届いたら、「外」を感じられるのでは。
2020年に追加した機能が、二十四節気にちなんだ詩が届くサービス、その名も「二十四節気の詩」です。詩人の三角みづ紀さんの詩を表示しています。コロナ禍で家にいる時間が増え、外の様子をあまり感じられなくなりました。そこで、季節の詩が届いたら楽しいのではないかと思いついたのがこちらのサービスです。
muiボードの開発初期の頃に、「デジタルの床の間」というようなコンセプトを考えていました。床の間にかけられた一輪挿しは、季節感やその日の天気なども窺い知れる、主人からお客さまへのメッセージ。床の間のように普段づかいできる情報ディスプレイを、現代の家のスタイルに合わせてつくれないかと考えていました。そんな床の間をイメージしたmuiボードから、詩歌が流れてくるって素敵だなと。
【夏至】(6/21頃)
いちばん 光がおおくって
いちばん 昼がながくって
ここは 一年の はんぶん
【小暑】(7/7頃)
ながい雨が やんだら
そこまで 夏がきている
きみの 気配をつかまえる
(二十四節気の詩より抜粋)
詩は短い3行で、muiボードに表示される文字はすべてドットのフォントです。でも案外ちゃんと読めるんです。漢字を知っていれば、欠けている部分は頭の中で補える。情報を絞ることで、想像力が膨らんでいきます。世の中にある情報がたくさん詰まったインターフェースとは真逆です。
mui Labのオフィスにもmuiボードがあるので、二十四節気の詩が流れてくる日にはメンバーと季節の話をするようになりました。たとえば、「今日は啓蟄(けいちつ)が出てましたね」とか。由来についてみんなで調べると、なるほど、春で虫が出始める時季なんだと知る。それも豊かなコミュニケーションじゃないかと思いますね。
二十四節気は、きっかけ。
外に出よう。情報の解像度は高い。
天気について知りたい時、多くの人はスマホのアプリを見たり、テレビの天気予報を見たりすると思います。そこには数値が書いてあって、端的に理解はできるのですが、それよりもまずはカーテンを開けて窓の外を見てみる。実際に外を見たり空気を感じたりするほうが、受け取れる情報の解像度が高いと思っています。今日は気温が上がりそうだとか、Tシャツ1枚でいいか、などさまざまな判断がつきます。でもそれだけだと心許ないから、天気予報などを見て、夕方は雨が降るらしいから傘を持って行こう、とか。デジタルテクノロジーは、人が体で受け取る情報を補足するかたちであるのがいいんじゃないかと思っています。二十四節気の詩に触れることで、暦の上では夏なんだ、外に出てみようか、と次の行動につながったり、気持ちを外に向けられる。もう少し自然について知れるきっかけになったらいいなと。
小さな変化に気づけること。
いつの時代も、それが「豊か」のヒントかもしれない。
京都のオフィスは鴨川のすぐ近くなので、通勤中に川沿いを自転車で走っていると、鳥が飛んでるなとか、花が咲いているとか、魚がいるなとか、いろんな変化に気がつきます。古くからある暦である二十四節気を意識することで、小さな変化にも気づけるようになったらいいなと思います。季節は1年で一周して、同じことが繰り返されていくのですが、同じ日は1日たりともありません。常に変化していく自然の中で、自分の内面の変化などにも目を向けながら、小さな変化を楽しめるようになるといいなと思いますね。
廣部延安さん
mui Lab共同創業者兼クリエイティブディレクター。
インハウスデザイナーを経て、心地の良い暮らしを情報テクノロジーを用いて実現するために、自然素材である木を使ったmuiボードを発案する。日常に存在する手触りを通じて人の生活と情報テクノロジーとの接点を探求する。
【編集後記】
毎朝、朝食をとりながらスマホで天気予報を確認します。午後から雨マークが出ていると機械的に折り畳み傘をバッグに放り込み、家を出ます。思えば、一度も空を見ていません。一見対照的に捉えがちな「デジタル」と「自然」ですが、それは人間の使い方次第なのだと身につまされる思いでした。廣部さんのお話やmuiボードを知るにつれ、これからの未来は、自然の移ろいや身の周りへ意識を向けることと同時に、自身とデジタルとの付き合い方を改めて考え直すことが豊かなくらしにつながるのだと感じました。
(未来定番研究所 中島)
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