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2023.12.22
二十四節気新・定番。
「二十四節気」とは、古代中国で生まれ、日本でも古来親しまれてきた暦です。めぐる季節の変化に寄り添い、田植えや稲刈りの頃合いを告げる農事暦でもありました。今でも折々の季節を表す言葉として愛されています。「F.I.N.」では、季節の変化を感じ取りにくくなった今だからこそ、改めて二十四節気に着目する潮流が生まれ、季節の楽しみ方の新定番が出てくるのではと考えました。
第8回目に話を伺ったのは、鎌倉・大船にある〈漢方杉本薬局〉の3代目・杉本格朗さん。26歳で漢方の世界に入るまでは、染色やアート活動をされていた杉本さん。現在は、これまでの経験を生かして、店頭での漢方相談を主軸に、漢方を学ぶワークショップや、薬膳メニューやお茶などの漢方商品の開発、生薬を使った染色など、漢方を身近なものにするための活動を続けています。そんな杉本さんに、不調が出やすい冬至の時期にできることや、漢方の考え方、そして自然と人体の深い繋がりについてお聞きしました。
(文:大芦実穂)
冷えや乾燥からくる不調。
冬の体は「陰」に向かっている。
冬至(12月22日頃)は、1年で最も昼の時間が短くなる日。陰陽(いんよう)でいうと、「陰」が極まっている状態です。陰陽とは古代中国の思想で、漢方を考えるときに欠かせないもの。冬至を過ぎると、少しずつ「陽」が入ってきて、今度は春から夏にかけて、「陽」が極まっていきます。季節はその繰り返しです。さて、「陰」になっている冬の体は、活発に動くことを求めていません。ですから、体力を消耗させないためにも、よく栄養を取って、ゆっくり休養した方が良いです。気候的には、乾燥や冷えなどで、さまざまな不調が出てきます。例えば、乾燥による咳や湿疹、また日照時間が減ったことによる鬱っぽさ、冷えからくる風邪、頻尿や腹痛、神経痛など。あたりまえですが、暖かい春や夏とは違った原因によるお悩みが増えてきます。
体を温めて、ストレスを減らす。
生活改善と漢方にできること。
このような時期に、普段の生活でできる対策としては、体を温めること。シャワーだけで済まさず、湯船に浸かったり、温かいお鍋を食べたり、適度な運動をしたり。また、リラックスすることも大切。ストレスが溜まると、血流が悪くなります。なぜなら、緊張状態が続いているときは、血管が固く細くなるからです。例えば仕事中や、大昔で言うと狩りや戦いの最中は緊張した状態です。これは怪我をしても出血が少なく済むように体が勝手に調節しているんです。逆に安全な場所にいて、気が休まっていると、血管も緩むし、血液も流れやすい。なので、冷えの対策として、ストレスを溜めないようにすることも大事です。
とはいえ、日常生活ではストレスが溜まってしまったり、毎年冷えに悩まされたりします。そのような場合は、ぜひ漢方薬を飲んでみてください。漢方薬でなくても、同じく生薬を使ったケアとしては薬膳料理や薬草湯なども良いと思います。漢方薬は医薬品で薬膳料理は食品です。使う生薬によって薬効の強弱もあるので、治療をしたい方は漢方薬をおすすめしますが、薬膳料理や薬草湯も気軽に楽しんでいただくと良いと思います。話を戻すと、冬の冷えをどうにかしたい場合、実は夏から漢方を飲むのがおすすめ。夏はまだ気温も高いので、冷えやすい体を温めやすいんです。冷たいところから体を温めるのは時間がかかります。とはいえ、この寒い時期に入ってから始められる漢方薬もあるので、まずは相談してみてください。事前に対策すると考えれば、今から花粉症対策など春先のお悩みのケアを始めることも良いと思います。
体を整えるためには、
自然の摂理を考える。
漢方の古典には季節ごとの症状が書かれているので、春分、夏至、秋分、冬至、さらに季節の間にある土用の8つに関しては意識しています。漢方を処方するときには、陰陽論や五行説などの東洋思想を使います。五行説とは、自然界にある木・火・土・金・水の働きを説いたもの。体の臓器や器官、季節、方角などをそれぞれの働きに分けていき、その相関図を考えていくものです。例えば、頭痛や湿疹など体に不調が出た場合に、病名にとらわれ過ぎずに、どの臓器が原因となるのかを考えて、その臓器に効果があるのは、どのような薬草植物で、どのような味か、季節なども考慮しながら、必要な漢方薬の組み合わせを考えていきます。この原因を探る工程がとても大事で、同じく頭痛や湿疹の相談があったとしても、人それぞれ漢方薬は異なります。
体を整えるには、「自然の摂理に戻せばいい」というのが基本。川を想像してみてほしいのですが、流れがスムーズな川はいつも新鮮な水が流れています。一方、流れの悪いところでは、水が停滞し淀んでしまいます。人間の体に置き換えてみてください。この淀みは痰や膿みたいなもの。すごくシンプルに、流れていないことが原因であれば流れるように調整する。体にとって余計な熱は冷ませばいいし、冷えているなら温めればいい。自然界では、温かい空気は上に昇るものですから、体でも熱は上の方に昇りやすいなど。体のことを地球環境のことのように考えてバランスを取っていきます。五行の「土」とは、人体で言うと消化器のことなのですが、この消化器が悪いと、食事も漢方薬もちゃんと吸収できない。そのような時には、まずは消化器から治したりします。自然界も同じです。植物を育てるにはまずは土が大事だから土づくりをしっかりします。
一番近い自然は自分自身。
意識することから始まる。
漢方の世界に入ってからは、自然のことを考えない日はありません。患者さんと向き合うことは、自然の変化と向き合うこと。私はいま毎日のように漢方相談を受けていますが、そうなると日常のほとんどが薬局の中やパソコンの前。あまり自然に触れ合うような生活はできていません。これは早々に改善したい点です。
近代の都市というのは、ビルやコンクリートが多くなりがちですが、その中でも自然に意識を向けている人はたくさんいます。そういう方同士が話し合うだけでも、自然のことを考えるきっかけになるのではないでしょうか。自然のある場所に行ったり、自然と触れ合ったりすることはもちろん大事ですが、一番は意識の問題だと思っています。そういう意味では、都市にいても自然は感じられます。一番近い自然は自分自身ですし、その次に近い自然は家族や友人など。自分の体のことを考えたり、誰かとコミュニケーションを取ることも、自然を知る一歩だと思っています。
杉本格朗さん(すぎもと・かくろう)
〈漢方杉本薬局〉 代表/漢方家
1982 年生まれ。1950 年創業の〈漢方杉本薬局〉代表。 大学では染色や現代美術を学び、2008年に実家の杉本薬局に入社。 2021年に表参道GYRE4Fのeatrip soil内に出張相談所「杉本漢方堂 Soil」を設立。
漢方の長い伝統と奥深さに触れ、店頭での漢方相談を主軸に、生薬の薬効、色、香りの研究をしている。漢方の視点から世界の文化を理解し、暮らしを豊かにする活動をライフワーク としている。
坂本龍一氏主宰のイベント「健康音楽」、「逗子海岸映画祭」、「無印良品」などで、ワークショップ やイベントなどを展開。漢方を日本の文化の一つとして、JAPAN HOUSEやThe Japan Foundation など、海外での講演も行っている。また、漢方の枠を越えて、生薬を使ったインスタレーションを制作するなど、さまざまな分野で幅広く活動している。
漢方監修:
G20大阪サミット「配偶者プログラム」
温泉宿「SOKI ATAMI」 など
著書:
『鎌倉・大船の老舗薬局が教える こころ漢方』
【編集後記】
この連載を始めてから、取材させていただいた方々のお話を伺いながら、「人間は常に自然と共に生きている」ということを改めて学ぶ機会が増えていました。しかし、今回杉本さんから、自分自身も自然であると教えていただいたことで、「自分自身は自然、そして地球の一部なんだな」ということを感覚として持つようになりました。この考えは、自身の体の変化や、周りの人々の好・不調をあたたかく受け止めることにも繋がると思います。その先には、より寛容で心地よい社会があるのではないかと考えました。
(未来定番研究所 中島)
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