2023.10.24

二十四節気新・定番。

第6回| 季節を感じ、無常を知る。禅の暮らしから見えること。〈仏具と喫茶 feel the ZEN〉宮本悠介さん、ヨウダチカコさん。

「二十四節気」とは、古代中国で生まれ、日本でも古来親しまれてきた暦です。めぐる季節の変化に寄り添い、田植えや稲刈りの頃合いを告げる農事暦でもありました。今でも折々の季節を表す言葉として愛されています。「F.I.N.」では、季節の変化を感じ取りにくくなった今だからこそ、改めて二十四節気に着目する潮流が生まれ、季節の楽しみ方の新定番が出てくるのではと考えました。

 

第6回目は、二十四節気に沿った香りを提案している〈仏具と喫茶 feel the ZEN〉の宮本悠介さんと、香りのアドバイザーであるヨウダチカコさんに話を伺いました。二十四節気を意識せざるをえない、「禅の暮らし」について教えていただきました。

 

(文:大芦実穂)

瞑想をしながら

今の季節を感じる

私たちがお届けしている「24節気メディテーションミスト」は、瞑想をする時にシュッと空間にスプレーすることで、よりリラックス効果を高められ、同時に季節も楽しんでほしいという思いから生まれました。香りは二十四節気ごとに24種類あり、季節に沿ったミストが2種類ずつ届くという仕組みです。

 

坐禅を行う際、必ずしも香りが必要というわけではないのですが、一回の坐禅の長さを測るために、線香を立てる慣しがあります。これを一炷香(いっちゅうこう)と言います。線香が燃え尽きて香りが消えたら、坐禅終了のサイン。つまり五感的には、常に線香の良い香りを感じているという状態なんです。(宮本さん)

香りを制作する際には、季節の情景やサウンド、温度、湿度、そして湧き上がる自分の気持ちを素直に感じてもらえるようなブレンドになるよう心がけました。また、植物や樹木から抽出した天然100%の精油のみを使うこと、精油のブレンドはできるだけ4、5種類までのシンプルな構造にすること、各節気に必ず1種類は日本に自生する植物や樹木から作られた和精油を使うことの3つを意識しました。

 

10月8日の寒露(かんろ)の時期には、朝晩は空気も冷たく草木に露が降りる頃ですが、日中は1年で一番過ごしやすい秋晴れの時でもあります。冬の訪れもまだ感じることもなく、心穏やかに過ごせそうです。メインの香りは芳楠(ほうしょう)を選びました。クスノキ科の樹木ですが、リナロールというリラックス作用の強い成分が多く含まれ、香りは甘さの後にスッキリとした清涼感があります。ベースにはどっしりとしたシダーウッドが支え、イランイランの色香とベルガモットの爽やかさが芳楠の甘さを引き締め、清々しい10月初旬の落ち着きを表現した香りになっています。

 

続いて10月24日の霜降(そうこう)の頃には、朝晩の冷え込みが強くなって、草木についた露が霜に変わり、だんだんと冬が近づいてきます。寒く冷たい冬を想像しながらも、楽しい冬のイベントや暖かい部屋、熱い飲み物、人の温もりを思い、心が温かくなる時期かもしれません。メインの香りはローズにし、ひのき、パチュリ、シダーウッドのまったりとした力強いベースがローズの甘さに深みを与えます。長くなった夜の時間の瞑想にぴったりです。心温かく冬に備えたいと、この香りを提案しています。(ヨウダさん)

移ろいゆく「無常」を知って

生きることが楽になる

近年、マインドフルネスという言葉もよく聞かれますが、端的に言えば瞑想のことです。そもそも瞑想と坐禅は、目的は違いますが近いものであり、辿っていくと禅を経て仏教の思想に行き着きます。「禅の暮らし」というのは、畑で野菜を育て、食の施しを受けて生活をする。禅宗寺院にお手伝いに行くことがあるんですが、とくに行事が無い日の禅僧は、朝ご飯を食べて、掃除等の作務をして、坐禅をして、そして暗くなったら眠るという、自然のサイクルに則った暮らしをされています。

 

私自身、瞑想をするようになって、辛いことがあっても受け流せるようになりました。それは、季節の移ろいを知ったからというのがやはり大きいかもしれません。禅では「無常」と言いますが、季節を含め、万事は変わりゆき、ただ一つとして同じではありません。例えば、辛く悲しいことがあったとしても、「今は辛いけれど、これも長くは続かないだろう」と思うようになりました。ですから、辛いときこそ、ちょっと立ち止まって、自分を見つめ直す時間を持てたらいいですね。そのためにも朝の瞑想はおすすめです。瞑想の基本は深呼吸ですが、吸うことより吐くことを意識し、短く吸って長く吐くことが大切です。その吐く時に、しんどいこと、嫌なことを一緒に吐き出して、今日も新しい一日が始まるんだと思えたらいいですよね。(宮本さん)

Profile

宮本悠介さん

デザイン事務所〈株式会社モハン〉代表取締役。京都府在住。Webデザインの仕事をきっかけに禅宗に出会う。禅寺に通ううちに坐禅や茶道に魅了され、2016年に禅に関わる製品を通して、人とお寺をつなぐきっかけづくりを行う、〈仏具と喫茶 feel the ZEN〉を立ち上げる。

https://feel-the-zen.jp/

Profile

ヨウダチカコさん

香りのアドバイザー/〈グリーンセラピー〉主催。〈仏具と喫茶 feel the ZEN〉のオリジナル商品「24節気メディテーションミスト」の香りの監修を行う。

https://greentherapy.jp

【編集後記】

朝晩、かなり涼しくなってきました。ついひと月前までは延々と続く真夏日に絶望する日々でしたが、気づけば半袖で外出すると風邪を引きそうなほどです。忙しない毎日に流されて、このような季節と季節の間のグラデーションを味わえていないことを宮本さんのお話を伺いながら改めて実感しました。それは同時に、自身の今の状態と向き合う時間の少なさにつながっているように感じます。香りで季節を感じながら日々5分だけでも自身と向き合う時間を定番化することで、少し心の重荷を手放すことができるのではないかと思いました。

(未来定番研究所 中島)

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