2024.02.27

二十四節気新・定番。

第10回| 自然と人間、距離感があっていい。奄美大島〈金井工芸〉染色人・金井志人さん。

「二十四節気」とは、古代中国で生まれ、日本でも古来親しまれてきた暦です。めぐる季節の変化に寄り添い、田植えや稲刈りの頃合いを告げる農事暦でもありました。今でも折々の季節を表す言葉として愛されています。「F.I.N.」では、季節の変化を感じ取りにくくなった今だからこそ、改めて二十四節気に着目する潮流が生まれ、季節の楽しみ方の新定番が出てくるのではと考えました。

 

第10回目に話を伺ったのは、奄美大島に古くから伝わる天然染料「泥染め」で、伝統工芸の大島紬の絹糸の染色をはじめ、アパレルブランドとのコラボレーションやアートピースを数多く発表している〈金井工芸〉染色人の金井志人(かない・ゆきひと)さんです。高校卒業後に上京し、25歳で地元へUターンした金井さんだからこそわかる、奄美の自然と人との関係性について話を聞きました。

 

(文:大芦実穂)

奄美大島で旧暦は

日用品のようなもの

奄美では、今も旧暦で生活している人が多いです。月の満ち欠けに合わせて動く習慣があって、例えば旧暦の1日と15日は墓参りの日。季節の行事も旧暦に沿って行われています。奄美は本島から遠く離れていて、歴史上琉球王国や薩摩などの統治もあった島。中国やタイなどでは今も旧正月が祝われますが、そうした南の国からの影響を受けやすかったというのも、旧暦が残っている要因の一つなのかなと。また、冬場の大潮のときには「イザリ漁」という、潮が引いた後に、逃げ遅れた魚や貝を獲る漁をします。潮の満ち引きは月の引力によって起きるので、月の満ち欠けでひと月の長さを決めていた旧暦のほうが生活への密着度が高いのでしょうね。

 

そういった意味では、旧暦はより自然に近い「テンポ」みたいなものなんじゃないかと思います。土地柄台風などの天災も多く、自然のほうが人間よりも圧倒的に強い。僕たちはそこに住まわせてもらっている感覚ですよね。自然というものを意識せざるを得ないし、台風で屋根が飛ばされても「仕方がない」と諦めて、受け入れるしかありません。

自然の中で染めさせてもらう。

「泥染め」という染色技法

 

世界でも奄美だけに伝わる「泥染め」は、奄美に自生する車輪梅(シャリンバイ)という植物で絹糸を染め、次に鉄分が多く含まれる泥田(どろた)に浸け、化学反応によって色を出すというもの。2月4日頃の立春や2月19日頃の雨水(うすい)などに関わらず通年作業はできますが、2月は気温が一桁台になることも。

気温によって色の出方などは変わりませんが、一番変化するのが染める人の状態。寒ければ無駄な動きをしなくなるし、曇っていて乾きにくいなどの天候によっても変わるため、染める人がその時の染料をどう扱うかで色は変化することを前提に、自身の工程をつくります。

 

近年は気候変動の影響もすごく感じるようになりました。泥田の後、川で泥を洗い流すのですが、12月なのにカエルが鳴いていたり、蚊に刺されたり。また、最近ではホエールウォッチングができるようになりました。水温が上昇したことで、クジラの通るルートが変わったみたいですね。気候が変われば生える植物も変わるだろうし、植物が変われば染色で出る色も変わります。ただ、自然が変化するのは当たり前のことで、そこに合わせていくのも奄美らしさだと思っています。染めの仕事は、まず前提として自然があって、そこで染めさせてもらっている。自然の状態に人が合わせていくしかないですね。

奄美にも寒波が訪れ気温も一桁台に。寒い日の釜焚きは工房の天井一面湯気で真っ白になるそう

常にそこにあるけれど

距離も感じる自然の存在

 

高校を卒業して東京に出たときは、染色とは別の分野に興味があったのですが、25歳で奄美に帰ってきて、この仕事に携わるようになってから、すべては自然に帰属するというか、そこにもうあったんだ、と思うようになりました。僕の興味関心や生活は、すべて自然を土台にして成り立っています。ですから、自分自身の生き方や表現におけるバックグラウンドそのもの。それに自然はフラットですよね。例えば染色でも、植物自体は変わらないけれど、こちらのアプローチが変わることで、深い色味になったり、淡い色味になったり、答えが変わってくる。自然は問いかけには答えてくれるけど、消化するのは自分次第だったりする。

 

だけど頭で考えているだけだと、その中で収まってしまうんです。実際に手を動かしてフィジカルに得ていくものは、考えている以上の反応が起きることが多いですね。まるで手で考えるような感覚。あえて失敗してみることもできる。何も情報がなかったり、わからなかったりするほうが、やってみるしかないからワクワクするし面白い。近いようでいて遠い、わかるようでわからない、その距離感がいいなと思っています。例えば小さな山でも「ここは絶対に立ち入っちゃいけない」と直感する場所があって。もちろん、手つかずの山にはハブがいるからという、現実的な危険性もあるんですが、それ以上に「そこに人間がいることが想像できない」と思う感覚。こっち側とあっち側、そこには相容れないものがある、そんな自然との距離感があってもいいんじゃないでしょうか。

「意外にも、近所の人に泥染の良さを伝えることは難しい。人は身近なものより外からのもののほうが受け入れやすい」と金井さん。作品を作るときや何かを感じたり思考するときには、距離を意識していると言います

都市と地方、移住者

それぞれに役割がある

 

自然に対する考え方などは「距離感の違い」もありますから都市や地方によっても変わると思いますし、人それぞれ。生活にはその土地での見えていることの影響の方が大きいとは思いますが、地球に対して思うことは世界中変わらない。都市と地方、移住者と地元の人、それぞれに役割があり、うまく混じり合うと良い化学反応になるんじゃないかなとも思います。見えていることには見えないことが含まれているように感じるので、それを紐解く術に現代の知識や技術を用いることも面白そうですよね。

Profile

金井志人さん(かない・ゆきひと)

1979年、奄美大島生まれ。染色人。奄美大島に古くから伝わる天然染色「泥染め」を行う〈金井工芸〉の2代目。伝統的な技法を使いながらも新しいジャンルに挑戦し、アパレルブランドやアーティストとのコラボレーションも多い。近年ではインスタレーションなどアート作品も発表し、国内外から高い評価を受けている。

http://www.kanaikougei.com/

Instagram:@kanaikougei

@yukihitokanai

【編集後記】

日々暦や季節を感受し、距離を持ちながら常に自然と対峙されている金井さんのお話に、首都圏で生まれ育ち、デスクワークをしている私は圧倒されるばかりでした。また同時に、現実で起こっている問題のヒントを自然の中に見出されているお話から、二十四節気など旧暦を生活に取り込むことは、自然と人間の関係性や、人間が本来持っている豊かな感性を取り戻すことにつながっていくのではないかと改めて感じました。

(未来定番研究所 中島)

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