地元の見る目を変えた47人。
2019.09.27
2019年3月、ヤフー株式会社とインドのホテル運営大手OYO Hotels& Homesが、日本国内で不動産賃貸事業を開始しました。日本の慣習である敷金礼金がかからず、スマホ1つで物件探しから入居手続きまで完了できる手軽さから、”住まい”に関わる固定観念を打ち破る新しい住宅として、今注目を集めています。最近では特定の住居を持たず、旅をするかのごとく暮らす「アドレスホッパー」も登場するなど、ライフスタイルが多様化していく中、家と暮らしの未来はどう変わっていくのか、OYO LIFEのCEO、勝瀬博則さんにお話を伺いました。
(撮影:吉松伸太郎)
一人のインド人青年が塗り替えた、ホテルの常識
F.I.N.編集部
まずは、会社の成り立ちについて教えてください。インドで始まった会社なんですよね?
勝瀬さん
はい、もともとは、インド人のリテシュ・アガルワルという青年が、18歳の時に創業した会社です。当時彼が目をつけたのはホテルビジネス。インド中のホテルに泊まってみた彼が気づいたのは、ホテルにはブランドがほとんどないことでした。日本だといろんなブランドがありますが、世界をみると、ホテルというのはそもそも9割近くが個人の事業主がやっているものなんです。高級感のある名前がついていても中はボロボロなこともあるし、ホテルで提供されているクオリティも様々です。日本だったら「東横イン」と名前がついていたらおおよそどのくらいのサービスを受けられるかイメージできますよね。でもインドでは、お湯が出るかどうか、Wi-Fiがついているかどうかも名前だけじゃわからない。そこで、「OYO」というブランドを作って、そこでは必ずいくつかの約束が提供される仕組みを作ったらどうだろうと考えた。そして始まったのがOYO Hotelsなんです。
F.I.N.編集部
そこから創業わずか6年で、世界第2位のホテルチェーンにまで成長したんですね。
勝瀬さん
鍵を握ったのは、ITの活用です。日本で名のしれたホテルは、だいたい「じゃらん」や「ブッキングドットコム」などでネット予約できます。でもお年寄りが切り盛りしているような小規模な宿は、電話でしか予約を受けておらず、パソコンはおろかFAXすらないこともある。インドも同様で、それでいて稼働率は一般的に35%程度に留まっているんです。つまり部屋が空いているのにお客さんを取れていない状態。そこで、OYO Hotelsに預けていただけたら、代わりにインターネットを使ってどんどんお部屋を販売しますよと。それが好評を呼び、今や世界80カ国で、110万室以上の客室を我々は毎日稼働させるまでに成長しました。2023年には、現在世界第1位のマリオットホテルを超え、世界No.1のホテルチェーンになるだろうと見込んでいます。
注目したのはホテル市場ではなく、賃貸住宅市場。
F.I.N.編集部
日本には今年3月に進出されましたね。
勝瀬さん
はい。日本で焦点を当てたのは、ホテル市場ではなく賃貸住宅市場です。実はOYOは、自分たちを”ホテル会社”と言ったことはないんです。我々のミッションは、クオリティリビングスペースを提供すること。ひとつのリビングスペースに対し、それが短期の滞在であればホテルになるし、中長期になれば部屋になる。床と壁と屋根があれば、ホテルだろうがそれが賃貸住宅だろうが一緒。要は不動産と考えているわけなんです。その中で、日本ではホテルマーケットが1兆2千億円の規模であるのに対し、賃貸住宅の市場規模はおよそ12兆円。賃貸住宅の方が大きなチャンスがあると見て、「OYO LIFE」というサービスを作って展開をしています。
F.I.N.編集部
クオリティリビングスペースとは、具体的にどのような空間を目指しているのですか?
勝瀬さん
良いロケーション、快適な居住体験、リーズナブルな価格の3つで定義しており、これらを、時代や国、性別に関係なく、どの人も等しく求める原理原則だと思っています。もちろん良いロケーションという意味合いは人によって変わるけれど、悪いロケーションに滞在したい人はいないですよね。先日、AmazonのCEO、ジェフ・ベゾス氏が講演で面白いことを言っていました。「多くの人が私に、10年後のeコマースはどうなっていますか?と聞くけれど、私は10年後にこの世の中がどうなっているかは分かりません。Amazonという会社は、10年間変わらないものは何か、をずっと考えています」と。変わるものを見るのではなく、変わらないものを見ている。我々が見据えているものも一緒です。
F.I.N.編集部
日本の賃貸住宅市場の現状に対して、どのようにアプローチされているんですか?
勝瀬さん
例えばこれから引っ越しをするとすると、インターネットで不動産情報サイトを見ますよね。そこで気になった物件に問い合わせたとして、そのうちの4割はすでに契約されているという状況なんですよ。どうして不動産情報サイトはこんなにも在庫管理がなされていないか。それは、今巷にあるものは物件紹介サイトではなく、不動産屋紹介サイトだから。サイトに情報を載せることで不動産屋が自分のところにお客さんを持ってくるという仕組みなんです。
ホテル選びのような、身軽で自由な住宅選びを。
F.I.N.編集部
確かに、良いと思って選んだ部屋も埋まっていることがよくありますね。
勝瀬さん
これがもし、ホテルを選ぶようにお部屋を選ぶことができれば楽ですよね? OYO LIFEでは、ネットで空き状況をリアルタイムで確認することができます。さらに、金額もそれぞれの住居期間や入居開始時期に合わせてHPに表示されるものが全て。契約時から、ガス代、水道代、電気代、Wi-Fiなどもついているので手続き必要もない。家具家電付きの物件も豊富にあるので、「これいいわと思ったら、予約ボタンを押せば契約まででき、最短翌日から入居できるんです。
F.I.N.編集部
金額も、不動産情報サイトでは正確な金額はわからないですよね。
勝瀬さん
はい、賃貸という形態は本来、所有していないのだから自由であるべき。今の形の賃貸住宅って、2年間所有しているのとほぼ近いですよね。始めに大きなお金をどーんと払ってしまうから、1ヶ月や2ヶ月で出るというのはよっぽどじゃないとありえない。でも、OYO LIFEの場合、敷金礼金が一切ありません。初期に掛かる費用も、すべて割賦にして家賃に組み込まれているイメージ。だから1ヶ月でも3ヶ月でも、いつでも出入りができるわけなんです。
住宅はいずれ、ショッピングプラットフォームへ。
F.I.N.編集部
それだと試しに数ヶ月だけ住んでみるということも気軽にできますね。
勝瀬さん
また、OYO LIFEに入居された方向けに、サブスクリプションサービスをお得に利用できるOYO PASSPORTがあります。これは、OYO LIFEに住んでいる、「所有から利用」に対しての感度が高い方たちへの、我々のエンゲージメントであり、贈り物です。例えば、ベアーズのように、家事代行の定期プランを利用できるサービスを、1カ月間無料またはお得に試すことができます。家電も家具レンタルも、アートやお花のレンタルも体験可能。彼女ができそうになったら急遽揃えることだって出来ますよ(笑)。自動車も一定期間お得に利用できます。
F.I.N.編集部
住宅だけでなく、多面的に”持たない暮らし”を実現できるんですね。
勝瀬さん
そうなんです。さらに、所有から利用、という考え方が浸透するにつれ、これからの購買行動はすべて家で完結することになると思うんですよね。今、GoogleやAmazonがAIスピーカーなどを使って、家の中で簡単に買い物ができるようなサービスの導入に力を入れているように、家はいずれサービスを買うためのプラットフォームになると思います。そして、家のなかで購入した品物の代金は、賃料と合わせてクレジットカードでの支払いができるようにもなる。給料のおよそ1/3を占める賃料を抑えているからこそ、サービスを支払うペイメントゲートウェイも容易に提供できるわけです。そして、その購買行動がビッグデータとして残っていくと、さらにお客様が喜ぶサービスを提供できるようになる。5年先なのか、10年先なのかはわかりませんが、これが我々の見据えている未来です。
F.I.N.編集部
来たる高齢化社会に対しては、何か考えられることはありますか?
勝瀬さん
日本のシニアマーケットはとても大きく、そしてシニアの方たちは、まさに「所有よりもサービス」の方たちです。ものを持っていてもしょうがない、それよりも限られている時間をいかに楽しむかというところにシフトしている場合が多い。なので、ひとつできそうなことと言えば、ヘルスケア関連のサービスを付け加えること。例えば、ベッドに心電図がついていて、心臓の問題があったときには、病院などに連絡が行くようなサービスを、保険と組み合わせて提供できる可能性もありますね。社会コストなので、行政とも手を組んでできることがあるのかもしれません。
OYO LIFE
編集後記
「よいロケーションで」「快適な生活体験を」「リーズナブルな価格で」「クオリティリビングスペースを提供する」ことを原理原則においてどんどん広がっているOYO Hotels。ホテルを選ぶように賃貸物件を選ぶことができ、「家」に自分を合わせ固定した生活で動きにくい不便な今までから、自分のライフスタイルや生き方にあった部屋をネットですぐに契約できる。このような住宅や部屋をプラットフォームにしたビジネスは未来の定番の一部になるのだと思います。また、OYO PASSPORTでは生活する人にエアクローゼットをはじめとした様々なサービスも付加されて「物をもたない」暮らしを実現することができる。所有から利用へ。どんどん多様化している生活に合わせた生き方、過ごし方を。空き室をそのままにしない、無駄のない活用を。OYO Hotelsが提供されているのは部屋だけでなく次世代の進化した生活スタイルをも提供されているのだと思いました。
(未来定番研究所 津田)
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