2020.10.29

PHAETON・坂矢悠詞人さんに学ぶ、感性の磨き方。

石川県加賀市のセレクトショップ〈PHAETON〉のオーナー・坂矢悠詞人さんは、洋服の領域を越えて、アート、香り、お茶など、独自の視点でアイテムをセレクトし、自身が手掛けるお店で商品を展開されています。また、ワークショップやトークショーなど、体験の場を設けるほか、雑誌『大勉強 by PHAETON』を出版し、ファッション、北陸の文化、アートなど「学び」のコンテンツも提供しています。鋭い感性で豊かな日常を提案する坂矢さんに、その美意識の源について伺いました。

撮影:ハセガワヒロシ

時間と手間をかけて作った洋服をしっかり売る。

小松空港から車で10分。目の前に穏やかな海が広がるセレクトショップ〈PHAETON〉は、北陸自動車道の片山津ICから10秒、飛行機や高速道路を使って、全国各地、海外からもお店にファンが訪れています。

 

「何かのついでにふらっと立ち寄るようなお店ではなく、目的地でありたいと思っています」とオーナーの坂矢悠詞人さん。

 

「僕らが売る洋服は、デザイナーが時間と手間をかけて作ったものばかり。例えば、〈イザベラ・ステファネリ〉のコートは、デザイン、パターン、縫製、全て手作業で行われています。染色もアトリエで、オークの木、鉄、レモンなどを使って、イザベラさんが1人で染めているんです。下げ札も1枚ずつタイプライターで手打ちしています。それだけ手をかけています。神が宿るっていうのでしょうか。ロマンがありませんか?」

イザベラ・ステファネリのコート

〈PHAETON〉では、シーズン終わりのセールは行いません。サイズ感がトレンドと異なった場合、デザイナーにリメイクしてもらい、再び店頭で販売します。

 

「うちは必ず定価で売り切ります。そういう商品じゃないとお店には並べません。セールはデザイナーに失礼だと思っていて。よりブランドの世界観を伝える展示受注会を開くこともあります。僕らは、“捨てるものは売らない”という気持ちで仕入れています。契約するブランドは、ブランドを扱う前に実際に1年くらい僕がそこの服を着て、自分で良さを実感したものだけ。着たこともないブランドを扱ったことは一度もありません。それから、これだと思った商品は、シーズンごとに数着ではなく、4年分を1度に仕入れることもありますね。これも全て売り切ります。」

ヴィンテージの古着で培った、クラフトマンシップの精神。

坂矢さんの服へのこだわりは、中学生の頃に遡ります。中学2年生の頃から週末ごとに東京で洋服を買っていた坂矢さんは、夏休みに行きつけの古着屋のオーナーから、アメリカへの買い付けに誘われました。そこで、大量生産・大量消費以前の、クラフトマンシップが宿るデニムや古着、アメリカの文化に触れたことが、洋服に対する信念の礎になりました。

 

「旅立つ前に、父親から100万円を渡され、これを300万円にしたら商才があると言われたんです。買い付けの手伝いをしながら、100万分の古着を仕入れて、フリーマーケットで手売りをしました。当時は、90年代の古着の全盛期だったので、すぐに300万円の売り上げを達成しました。それからも古着屋さんの買い付けの手伝いをしながら、自分でもフリーマーケットで販売して。東京で進学してからも続けていました」

大学卒業後、アメリカやイギリスの渡航を重ね、2010年、石川県加賀市にヴィンテージの古着を扱う〈PHAETON〉をオープンします。この場所を選んだ理由は、何とも干渉せず、まっすぐに空と海が見えるから。クリエーションには空間が必要だと坂矢さんは語ります。そして現在は、金沢に香水専門店の〈PHAETON FRAGRANCE LONGBAR〉、レディースの〈Leto〉、〈OLD JOE金沢〉、〈PORTER CLASSIC金沢〉を含め6店舗を手掛けています。

「香りは昔から好きで、ここを始めた当初からロンドン最古の理髪店の香水〈TRUEFITT&HILL〉を扱っていました、2000年初頭、メゾンフレグランスの調香師がポツポツと独立して、ハンドメイドの香水を作り始めたんです。面白いパフューマーたちをもっと提案したい。それで、金沢に香水専門店を出店しました。そして、5年前からネパールの紅茶に夢中になり、2020年7月16日、紅茶専門店〈TEATON〉も始めました」

「沼」に全身でハマることで、勉強できるものがある。

TEATON内のギャラリーにて

これだと思ったら、その感覚を信じて突き進む。それは、ただの「好き」でも「好奇心」でもなく、その向こう側にある「沼」にハマっていくのだそうです。

 

「最後まで知りたくなるんです。僕は車の免許を取ってすぐに、80年代のメルセデス・ベンツを購入しました。そのあと、もっと状態のいいものを見つけては購入し、結局、同じ車種を4台所有しました。この時、惹かれたのは、今より数倍の強度があるドアの蝶番です。そのほか、ピエール・ジャンヌレ、ジャン・プルーヴェ、ル・コルビュジエの家具を収集しました。ライカは、30年代のオールドレンズから現代のレンズまでほぼ集めました。特に1934年のレンズを数年かけて4本集めたのですが、撮ってみたら全て写りが違うんです。いくつか同じものを集めてみて、初めてわかることもあるから面白いですね。今、夢中なのはネパールの紅茶です。自然栽培で農薬は使わずに、収穫も手摘み。気の遠くなるような労力がかけられていて、とにかく水色(すいしょく)が美しいんです」

 

TEATONで提供される紅茶。

並行してあれこれ手を出すのではなく、追求するものはいつもひとつ。納得するまで追求し、「沼」から、次なる「沼」へ。

 

「小さい頃は、よく深夜に家を抜け出して、森で昆虫を採っていました。両親は、そんな僕を決して止めませんでした。何か没頭できるものに出会ったら、ブレーキはかけないほうがいいと今でも思いますね。食もそうです。蕎麦にハマったら、毎食、いろんなお店の蕎麦を食べ続けることで、見えてくるものがあります。本質を掴みたいなら、対象のものをただひたすらに、食べる、味わうことに集中してみる。堪能を重ねた先に、究極だと納得できるものに出会えます。常識を無視したところに、勉強できるものがあります。お客様にも、お金を貯めて服を買ってくださいと勧めています。例えば、ダウンジャケットひとつにしても、5万円のものを毎年買い替えるより、50万円のものを1着買って10年間着るほうが、たくさんのことを学べたりします。なぜなら、それには50万円というプロセスと思想が詰まっているからです」

では、そんな坂矢さんが考える5年先の未来は?

 

「コンビニの店舗数が減少しているのではないでしょうか? それは、僕の願いでもありますが。コンビニは、廃棄や無駄が多すぎます。夜中に食べる必要もないし、24時間電気がついている必要もない気がします。これから、捨てるものを作るのはおかしいと感じる人がもっと増えていく気がしますね。それに、暗闇って感性を磨くために必要な環境でもあると思うんです。僕個人としては、紅茶のお店をたくさん出店したいと思っていますね」

Profile

坂矢 悠詞人 (さかや よしひと)

ファッツスクエアカンパニー代表

石川県生まれ。石川県に構えるセレクトショップ「フェートン」「リトー」「香水専門店 フェートン フレグランス ロングバー」のディレクター。「ポータークラシック金沢」「オールドジョー金沢」「ゴールデンブラウン金沢」を運営。

本質的に価値のあるものを提案するショップとして国内外から高い注目を集める。定期的に行われるイベントや企画も注目されている。

 

2020年7月 「紅茶専門店 TEATON(ティートン)」会員制のティーサロンをフェートンの隣にオープン。現在、モーニングのオープンに向けてメニュー考案中。

PHAETON

〒922-0406 石川県加賀市伊切町い239

TELL:0761-74-1881

 

営業時間

11:00~19:00 /12:00~20:00 ( Tuesday only)

不定休

 

HP / phaeton-co.com

INSTA / https://www.instagram.com/phaeton_smart_clothes/

https://www.instagram.com/phats_square_company/

TEATON

〒922-0406 石川県加賀市伊切町い239

TELL:0761-75-7535

 

営業時間

11:00~18:00 /12:00~18:00 ( Wednesday)

火曜定休日

 

HP / http://www.teaton-co.com

INSTA  / https://www.instagram.com/t_e_a_t_o_n/

編集後記

 

坂矢さんのアウトプットはどれも「真髄(しんずい)」を感じさせてくれます。

アートとは? ファッションとは? 買い物とは? 紅茶とは?

そのひとつひとつの問いに対して、普遍的で、完成度の高い思いを作り出しています。

その過程には、問い(物)に、深く突き詰める、沼にハマっています。

一方、私たちの生活は、どんな事でも、ネット一つで情報を集めて知った気になっているように、表層的に理解しているようにも思えます。

ハマる事を楽しみながら、突き進む事で真髄が見えてくる。そして、自らの感性も磨かれるのかも知れません。

(未来定番研究所 窪)