2022.04.01

これからは「巻き込まれ力」が大切?〈無印良品・暮らしの編集学校〉に学ぶ、土着化のお作法。

F.I.N.編集部では、4月のテーマを「地域を誇る」と掲げ、さまざまな観点から地域の今と未来について考察します。着目したひとつが、2018年から良品計画が研修プログラムとして実施している〈暮らしの編集学校〉。地域の魅力を改めて見つめ直し、編集し直すという動きは今後さらに活発になるのでは?という仮説を携えながら、当学校の発足メンバーでもあったソーシャルグッド事業部の藤岡麻紀さんにお話を伺いに行きました。

 

(文:岡島梓/写真:岡庭璃子)

地域の魅力を発見し、地域に根ざした店づくりにつなげたい。

F.I.N.編集部

まず「暮らしの編集学校」とはどのようなプログラムなのでしょうか。

藤岡さん

「暮らしの編集学校(以下、編集学校)」は、「最良の生活者を探求する」という無印良品の感性で地域の暮らしと社会を結び付け、「暮らしの編集者」を育成することを目的とした研修です。「暮らしの編集者」とはどんな人かというと、その地域の暮らしに隠れている魅力を発見し、それを価値あるものとして再編集したり、提案し直すことができる感性や知性を持つ人です。

F.I.N.編集部

「編集学校」を立ち上げられたきっかけについても教えてください。

藤岡さん

「編集学校」は2018年にスタートしていて、その5年以上前から良品計画は「土着化」というキーワードを掲げてきました。土着化とは、その土地らしいお店づくりを推進しようということ。どこにいっても同じ「金太郎飴のようなお店」を出すのではなく、地域に根差した事業や活動とはどのようなものかを考えて、お店づくりにいかそうという方針です。ただ、「土着化」と一言に言っても難しい。それなら、社内で「土着化」を進めるための学びの場をつくろうと立ち上げたのが「編集学校」です。

F.I.N.編集部

「金太郎飴のようなお店」は目指さない。という方針になったのですね。

藤岡さん

そうですね。弊社の会長が全国津々浦々に出張する中で、地方のスーパーや百貨店が続々と閉店し、地域の活気が失われつつあることを感じ、その危機感が、この方針につながったのだと思います。

なんとか、良品計画も地域の皆様と一緒に元気になっていきたい。でも、元気になる方法は、商業施設が撤退した地域に無印良品のお店を出すといった単純な話ではなく、地域の「感じ良い暮らし」を実現することだ。そんな思いから社内に「ソーシャルグッド事業部」が立ち上がり、土着化を進める上での学びの場「編集学校」が生まれました。「編集学校」は2018年秋に、岐阜市の柳ケ瀬商店街を舞台に開催して以来、全国4ヶ所で実施しています。

F.I.N.編集部

毎回、どんな方が参加されるのですか?

藤岡さん

2020年8月から開催された、埼玉県宮代町での「編集学校」は、東武動物公園駅周辺エリアの地域活性につなげるというプロジェクトの一環でした。ですので、当社のメンバーが12人、プロジェクトに関わる東武グループさんから3名、埼玉県宮代町役場の職員の方7名が参加しました。

毎回15から20名ほどが参加し、数名ずつのチームに分かれてフィールドワークをして、最後に「わたしたちはこの場所で、こんなことをしていきたい」というプランを発表してもらっています。

埼玉県宮代町・杉戸町を舞台に、東武動物公園プロジェクトの推進をテーマにした「暮らしの編集学校の最終発表会の様子。

F.I.N.編集部

プログラムの「軸」のようなものはあるでしょうか。

藤岡さん

開催地によって地域性や地域資源、課題も全く違うので毎回プログラムは異なります。ただ、いつも大切にしている4つのステップがあります。一つ目が「(地域の魅力を)発見する」、二つ目が「つながる」、三つ目が「巻き込まれる」、四つ目が「まちをつかう」です。

まちのこれまでを尊重し、「実は魅力的」を見つけて編み上げる。

F.I.N.編集部

最初の「発見する」というステップは、どのように進めていくのでしょうか。

藤岡さん

まず、「地域のローカルヒーロー」に会ってお話を聴いています。「地域のために何かしたい」と自ら活動している方に、このまちのことや活動内容を話していただいて、地域の情報をインプットします。

次に、フィールドワークです。地域の方と地図を見ながら歩き回って、チームメンバーと個人の感想を共有し合います。例えば「このまちって自転車が多いね」とか、「平日の昼間は人がいないけど、休日になると外から人が来ている感じだね」とか、そんなシンプルな気づきを互いに話し合います。

F.I.N.編集部

遠慮せず訊いてしまいますが、歩き回って地域の魅力って見つかるものですか……?

藤岡さん

もちろんです(笑)! 地域のみなさんの多くは「ここには何もないよ」と謙遜されますが、「よそ者」という立場で見ると、すごく新鮮に感じられることが多いです。埼玉県宮代町でのフィールドワークでは、著名な建築家集団が手掛けたコミュニティセンターと小学校に出逢いましたし、豊かな自然や、農の風景も魅力的でした。都心から1時間ほどで、こんな風景に出会えるということに驚きましたね。

F.I.N.編集部

身近すぎて、住んでいるまちの魅力に気付かないことはありますよね。次の「つながる」はまちの方とつながっていくというイメージですか?

藤岡さん

そうですね。まちの方とお話ししたり、農業のお手伝いなどまちの中での体験を通して、人とのつながりをつくっていきます。三つ目の「巻き込まれる」は、「編集学校」のメンバーが、どの地域でも決まった役割を果たすのではなく、すでに地域に根ざしている活動にまず飛び込もうというステップです。同じく、「まちをつかう」は、新しい魅力を創ろうと躍起になるのではなく、すでにある地域の魅力を、どう編集すれば輝くかを考える段階です。

F.I.N.編集部

「巻き込まれる」という言葉にハッとさせられました。一見すると受け身な言葉ですが、良品計画が目指す「土着して、地域のみなさんと一緒に元気になりたい」というスタンスが込められている気がして。

藤岡さん

ありがとうございます。まず、地域にあるものを知らなければ、編集はできません。まちに来たばかりのチームメンバーが「こんなイベントするので来てください!」と巻き込んでいくスタイルは押し付けになりがちです。すでに地域にあるイベントや会合に混ぜていただくことで、自然な形で住民のみなさんの声に触れることができます。

F.I.N.編集部

その催しなどは、住民の方にお聞きするわけですか? 巻き込まれるにも、情報がないとできないことだと思うのですが。

藤岡さん

そうですね。「編集学校」でつながった人から教えてもらうことが多いですね。「子育てサロンで、お母さんたちが集まってイベントする日があるらしいよ」とか、「ちょうど秋祭りの時期だから、お祭りの運営の皆さんが集まる日があるらしいよ」とか(笑)。無印良品として何かできることがあれば、ゲリラ的に出店してみるとか、そんなことをやったチームもありました。

F.I.N.編集部

とても地道な活動なんですね。地道、だけど着実に地域とつながれる気がします。そういう場で得られた声が「編集学校」の最終発表にも活かされていくのですね。

藤岡さん

おっしゃるとおりです。発表するプランは、まちの魅力を見つけ、まちの人の声を聴いて、まちに近づいていくというステップを経てできたもの。地域ごとの特徴や、そこに生きる人々といったまちの資産をいかしたものになっているはずです。

「編集学校」発のアイデアが、その土地らしい店のベースになる。

F.I.N.編集部

「編集学校」で生まれたアイデアや関係性が、無印良品の店舗運営に生かされているような事例はありますか?

藤岡さん

出店が決まったタイミングで、「編集学校」で発表されたプランが実現に至ったケースがあります。2020年夏から、新潟県上越市、山形県酒田市の中山間地域でスタートした移動販売はその一例です。直近の例でお話しすると、埼玉県宮代での「編集学校」の実施を経て「無印良品 東武動物公園駅前」がオープンしました。そのお店は「店舗スタッフが本業とは別に、自分の得意をいかせる仕組みをつくろう」と決めて採用を行ったんです。これは「編集学校」発のアイデアです。

F.I.N.編集部

得意を活かせる仕組み、気になります。

藤岡さん

「無印良品 東武動物公園駅前」には、誰もが自由に利用できるレンタルスペース「Open MUJI 学び舎」をつくっています。

藤岡さん

店舗のスタッフは、お店の仕事もしながらスペースを活用し、自分のスキルや好きなことをいかして活躍できるようにシフトを組んでいます。この取り組みは地域コミュニティづくりにも役立っていて、保育士の資格を持つスタッフによる週一回の読み聞かせをきっかけに、自然とお母さん同士のコミュニティが生まれたりしています。

F.I.N.編集部

素敵なシステムですね。ところで、「得意」なことをお持ちのスタッフがいてこその運営方法だと思うのですが、どのようにスタッフを集めたのかも気になります。

藤岡さん

「無印良品 東武動物公園駅前」をオープンする際、通常の採用サイトとは違うサイトを立ち上げたんです。そこでは、この店舗で必要としている人、つまり「自分の得意なことがある人を募集したいのだ」ということが伝わるページにしました。わざわざ採用サイトを作るというアイデアも、実は「編集学校」から生まれたもので、無印良品としてはこのような採用の告知はしたことがないと思います。

F.I.N.編集部

「編集学校」で生まれたアイデアや関係性によって、無印良品のお店自体も個性を持つようになっているんですね。

藤岡さん

「編集学校」では、まちを歩いて、まちの人と話して、まちの人と交流を深めます。「編集学校」のメンバーが、現地の店舗運営に携わることができればベストですが、そうでなかったとしても「編集学校」で見つけた地域の魅力は浮かび上がっていますし、地域の人とのつながりは残ります。

地域のみなさんに愛していただけるベースがつくりやすいですし、そのベースをいかして、より地域の方の声を反映しやすくなる。自然と「金太郎飴的なお店」ではなくなっていくのだと思います。

フラットな立場で、自然なつながりを生み出す編集者に。

F.I.N.編集部

「暮らしの編集者」やコミュニティマネージャーといった存在は、地域との交流や地域の方からの相談事も多いと思いますが、藤岡さんは「暮らしの編集者」としてどんなことを大事にされていますか?

藤岡さん

フラットな場をつくることを心がけています。よそ者視点で見ると、地域で活動されている方は、例えば「地元の人に笑顔になってほしい」など、同じ想いを持っていることが多いんです。でも、活動内容が違うので、それぞれが心の中で抱いている想いに気づけない。

そんなとき、「無印良品 東武動物公園駅前」にできた「みんなの広場」のような開かれた場所があれば、ある時、思いを同じくする人たちが出会い、一緒にプロジェクトに取り組むことになる……みたいなことが起きるのではと思っています。

藤岡さん

まちのみなさんの声を、無理やりひとまとめにする必要はないと思っています。例えば、誰でも気軽に参加できそうなイベントを企画して、来てくださった地域のみなさんが交流することでつながるところはつながる。そんな自然な編集を目指していますね。

F.I.N.編集部

では、最後に無印良品の「ありたい姿」を教えていただけますか?

藤岡さん

会社としてというよりは私の想いになりますが、地域の生活に根ざした「当たり前の存在」をこれからも目指していきたいです。そんなお店になるには、「暮らしの編集者」はもちろん、お店の店長、スタッフといった、その場所に立つ人の存在が本当に大事です。時間をかけて地域のみなさんとの信頼関係を築き、「商品がほしい」というだけでなく、「お店のスタッフに会いたい」と感じていただけるお店になっていくことが、会社が目指す「土着化」にもつながるのではないかと思っています。

【編集後記】

地域を外から見るのではなく、入り込みお邪魔させてもらう。

そんな思いがあるからこそ、地域のローカルヒーローから広がる人とのつながりに「巻き込まれる」事が出来るのだと感じました。

そこから人と人との繋げ役になるのではなく、自然と交流が生まれる拠点づくりをしていく。

普段のコミュニケーションでも初対面からパーソナルスペースに迫られると不快な気分になる人は多いはずです。

規模は違えど、地域の魅力を発見・編集する際にもコミュニケーションの大切なポイントは変わらないことに気が付きました。

 

(未来定番研究所 小林)