もくじ

2020.05.19

目利きたちに聞いた、これからの暮らしのマイルール。<全2回>

後篇| 横町健さん、辻愛沙子さん、山下貴嗣さんの場合

春になると、気持ちも新たに暮らしへの向き合いかたも整えたくなるもの。これから1年間、新たに自分の習慣にしたい、挑戦してみたいルールを、各ジャンルで積極的にあたらしいことへの挑戦を続けている6人の目利きたちに伺いました。みなさんの回答から、未来につながるあたらしい暮らしの片鱗を覗けるかも?今回お招きしたのは、カフェ「anea café」、塊根植物ブランド「BOTANIZE」代表の横町健さん、株式会社arca代表、クリエイティブディレクターの辻愛沙子さん、クラフトチョコレートブランド「Minimal」代表の山下貴嗣さん。この3名に、春から実践したい暮らしのマイルールについて伺いました。

「anea café」「BOTANIZE」代表 横町健さんの場合

<暮らしのマイルール>

「とりあえず」という言葉は使わない

僕の根源には、「人を喜ばせたい、驚かせたい、感動させたい」という願望があるんです。今やっている飲食店や植物の仕事でも、どうすればお客さんがワクワクしてくれるだろうと考えるのが楽しくて。商品でも空間でも、何か“語れるストーリー”という付加価値をつけてあげることで、人の少し先を行き、いい意味で期待を裏切りたいんです。

 

そのためにも、日々常にアンテナを張っています。携帯を2つ持っていて、自分の興味があることを同時進行でずっと調べています。毎朝家を出る直前まで携帯を充電しているけど、1時間くらいで充電が切れるんです(笑)。自分の「好き」に妥協せず、調べたり学んだりして、それをアウトプットすることで人に喜んでもらいたいと思っています。マイルールは「とりあえず」という言葉は使わないこと。「とりあえず、これを買おう」とか「とりあえず、これを勉強しよう」だと、本心ではない気がして。好きなことは最初から本質を追求したいんです。やっぱりビジネスとして成立させるということも大事だし、必要です。でもそこには必ず「好き」が根底にあります。「好き」をとことん追求するからこそ、ビジネスに繋げられているのかもしれません。やりたいと思ったら徹底的に調べて、迷わず時間を作って専門学校に通ったり、その場所に行ってとことん学びます。先に繋がるのかを考えて迷って結局行かない人も多いけど、僕はまずはやってみます。ビジネスになるかどうかは、やってみてから考えます。自分が好きでやるだけなら、会社にもリスクはないじゃないですか。仕事での決定に関しては、結構慎重なんですけどね。

 

「好き」は、ポジティブなエネルギー。いいマインドや近い価値観の人が近づいてきてくれるので、自然となんでもうまくいくんです。飲食が好きなので、これからももっと広げていきたいと思っています。

Profile

横町健

2008 年にデザイン事務所「anea design」を立ち上げ、現在は3店舗を運営。2012 年に塊根植物と出会いコレクターに。2016 年末、代官山に「BASE ANEA BOTANIZE」をオープン。2017 年UNITED ARROWS(六本木)/BEAMS(横浜)/THE CONRAN SHOP(新宿本店)で「BASE ANEA BOTANIZE」POP-UP ショップを開催。2019年には、代官山に弁当屋「TOKYO BENTO STAND」をオープンするなど、数々の飲食店やイベントなどの企画・プロデュースを手がける。

株式会社arca代表、クリエイティブディレクター 辻愛沙子さんの場合

<暮らしのマイルール>

頭の中をあえて“カオス”にしておく。

これまでクリエイティブディレクターとして、広告や新規ブランドなどの企画仕事を主軸に活動してきましたが、最近ではクリエイターという枠から一歩踏み出し、newszeroのコメンテーターなど出役の仕事をする機会が増えています。「越境」という言葉をよく使うのですが、私だけでなくまわりの人たちも、本業や自身の枠に捉われず、それを越えて活動し始めているように感じています。

 

企画を考える時にも「越境」はキーワードになっています。よくアウトプットする時の思考について尋ねられるのですが、私の頭の中はいつも“カオス”状態なんです。全然結びつかないようなものやことで溢れていて、その中からテーマに合わせて選び取って一つの企画にするイメージです。整理された引き出しというよりは、ドラえもんの四次元ポケットのようなイメージです(笑)。頭をつっこむと、多次元的なところがあって、「これだ!」と思って取り出すこともあれば、なんとなく目についたものを、つなぎ合わせていくことも。机に座っていきなり本番を書き始めるのではなく、画像を集めて貼り付けてみたり、思い浮かばない時は資料や雑誌をなんとなく見てみたり。最初からホームランを狙わないで、一旦アイディアの元をバーっと出していく感じです。くよくよ悩まずにとにかく打席に立って打つ!という姿勢を大事にしています。あえて頭の中をカオスにしておくことで、思いがけない「越境」が生まれることも。昨年、自身が推進しているプロジェクト「Ladyknows」で、結婚式場で健康診断のポップアップイベントを開催したんです。20代〜30代女性の婦人科検診の未受診率の高さを解消したくて企画しました。企業にはマーケティングの場として捉えてもらい、イベントへの協賛金から婦人科検診の費用を捻出。通常約1〜3万円かかる検診費用をワンコインで受けられるようにしました。医療業界だけ、広告業界だけで解決するのは難しい課題も、越境したからこそ実現できたのかなと思っています。

 

商品の訴求だけではなく、自分は社会課題に対して意味のあるアウトプットをしていきたい。また、さまざまな業界の人がそれぞれのフィールドで何ができるかを考えていけるような社会になるといいですね。

Profile

辻愛沙子

1995年生まれ。中高時代をイギリス・スイス・アメリカで過ごし、大学入学を期に帰国後、慶應大学SFCに入学。2017年4月株式会社エードット(カラス)に入社。現在はarcaのCEO/クリエイティブディレクターとして、「社会派クリエイティブ」を掲げ商品企画、空間演出、広告コミュニケーションなど、F0/F1層を得意としながらも幅広い領域で活躍している。女性の生き方や働き方をアップデートすることを目指したプロジェクト「Ladyknows」も推進中。

〈Minimal – Bean to Bar Chocolate – 〉代表の山下貴嗣さんの場合

<暮らしのマイルール>

毎朝、豆から挽いてコーヒーを淹れる

今とてもおもしろい時代に生きているなと感じています。立場による情報の格差がなくなっている世の中において、情報に溺れていくリスクもあるけれど、逆に好きを発信することによって好きがちゃんと届きやすくなっていると思うんです。発信できる最初の一人になる人もいれば、それをフォローしてコミュニティを盛り上げるフォロワー、両者ともが成り立つ時代。フォロワーの時代になっていくんじゃないかと思っています。

 

一方で、webでなんでも情報を得られる時代だからこそ、経験や体験すること、手触り感や人が介在した温もりを感じられるものの価値はどんどん高まっていくと思います。ちなみにですが、僕はコーヒーが大好きで、朝、豆を挽いて、ドリップするのがルーティンになっています。コーヒーの味には、その日のコンディションがとても影響します。何かに追われて焦っている時はうまくいかなかったり、逆においしく淹れられると「今日は調子がいいな」とテンションが上がったり。どんなに忙しくても、自分でコーヒーを淹れて、テーブルに座ってゆっくり飲む。この5〜10分があるだけで、1日のはじまりのスイッチになるし、自分のコンディションを整えるためのいい習慣になっています。コーヒー屋さんに行くのも好きで、豆の種類や焙煎方法、それぞれの豆に合う淹れ方を聞いて、自分で試しています。なんでもwebで情報が得られて買い物もできますが、わざわざ足を運ぶというのは“体験”という価値があると思うんです。もちろん、ネットでも淹れ方を調べて試します。リアルと非リアルの両方の情報が得られるいい時代だからこそ、自分の“好き”の琴線に触れることにも出会いやすく、情報を気軽に得られる。自分の手を動かして暮らしの中に取り入ると、ちょっとクラフティッドな時間も過ごせますよね。あえて何もない無駄な余白の時間やルールを持つことが、自分自身を取り戻したり、切り替えになったり、リラックスやリフレッシュできたり。自分の人生が少しだけ豊かになる気がしています。

Profile

山下貴嗣

bean to barのチョコレートを製造・販売するクラフトチョコレートブランド〈Minimal – Bean to Bar Chocolate – 〉代表。慶應義塾大学商学部卒業後、経営コンサルティング会社を経て、2014年12月にショップ兼工房のMinimalを立ち上げる。「インターナショナル チョコレートアワード 世界大会2017」出品部門で、日本ブランドとして初の部門別最高賞の「ゴールド(金賞)」を受賞。2017年度グッドデザイン賞ベスト100及び特別賞にも輝いた。

編集後記

春は、誰もが新しいステップに立つ大切な時期。
特に今年は、ちょっと特別な春になりました。
そんな今、実践したい暮らしのマイルールについて、前編・後編合わせて6名の方々にうかがいました。
皆さんから教えていただいたのは、「自分を認めてあげる」から始めようという、前向きなスタンスではないでしょうか。
何から手をつけていくべきか躊躇し、悩んだり自己否定をしがちな時期。
だからこそ、自分を信じて好きなことから始めるというルールは、簡単そうにみえて今一番大切なことかもしれません。
どなたのお話も、心に染み入る言葉で満ちていました。
(未来定番研究所 富田)

目利きたちに聞いた、これからの暮らしのマイルール。<全2回>

後篇| 横町健さん、辻愛沙子さん、山下貴嗣さんの場合