もくじ

2020.12.11

F.I.N.的新語辞典

第76回| パブリック・ハック

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「パブリック・ハック」をご紹介します。

写真提供:笹尾和宏さん

パブリック・ハック【ぱぶりっくはっく/PUBLIC HACK】

公園や路上、河川などの公共空間において、個人が好きなように過ごせる状態のこと。「スケートボード禁止」などのルールや、オープンカフェのような商業的空間が増え過ぎると、街は次第に窮屈になってしまう。そうではなく、公園のベンチでコーヒーを淹れたり、広場で楽器を演奏したりと、公共空間を私的に自由に使えるようになる状態を目指す考え方。

 

「誰からの許可もなく川にゴムボートを浮かべてもいいって、ご存知でしたか?」そう話すのは、パブリック・ハックの提唱者であり、『PUBLIC HACK 私的に自由にまちを使う』(学芸出版社)の著者である笹尾和宏さん。

「私たち生活者は、マルシェなどのイベントの時にしか外の広場を使えないと思いがち。しかしながら、実は日本の法律上では、屋外での私的活動の多くは違反になりません。公園での食事はもちろん、川にボートで漕ぎ出でることも可能です。ただ実際には、そのように振る舞う人は多くはありませんが」。

人々が公共空間で自由に過ごせなくなったのには2つの理由がある、と笹尾さん。1つ目は、商業施設や店舗のホスピタリティが高まり、生活者が消費者として思考停止的にそちらへ吸い寄せられてしまっていること。2つ目は、生活者が互いを監視するようになり、自分の常識に反する人を放っておくことができなくなっていることだと言います。

「街を私的に使う人が現れたとき、周りの人や警備員などの管理者には、それが過分な迷惑や危険を伴わないのであれば、制止せずに受け容れる寛容な姿勢が求められます。立場ごとでいろいろな課題がありますが、まずは自分から生活に関する姿勢を変えることが大切です。例えば、たった一人でも街を自由に使う人がいれば、それを見た人の意識が変わって、同様に好きなことをし始めるかもしれません。家の前の歩道にテーブルとイスを出してお昼を食べている家族がいたり、ダンスをしている人がいたり、楽器を演奏している人がいたら、街がすごく楽しくなると思いませんか? 魅力的な街というのは、行政がつくるものではなく、その街にいる人が楽しんで生活することで自然とつくられていくものだと思います。近い将来、そんな街が増えたら嬉しいですね」。

もくじ

関連する記事を見る