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2019.09.10

F.I.N.的新語辞典

第46回| アーティスト・イン・レジデンス

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は、「アーティスト・イン・レジデンス」をご紹介します。

「陸前高田アーティスト・イン・レジデンスプログラム」で行われた、岩手県住田町柿内沢鹿踊保存会とウェールズのダンサーSioned Huwsとのコラボレーションによる新しいダンスの創作。photo:松山隼

アーティスト・イン・レジデンス【あーてぃすと・いん・れじでんす/Artist in Residence】

アーティストが自身の拠点を離れ、他の国や地域に一定期間滞在して行う創作活動の総称。時間、場所、資源(創作費、渡航費や文化資源)を提供することで滞在中の活動を支援するプログラム、あるいはアーティストの移動を促進する国際ネットワーキングなど、アーティスト・イン・レジデンス(AIR)をめぐる活動は多岐にわたります。

 

今回は女子美術大学芸術学部の教授であり、「陸前高田アーティスト・イン・レジデンスプログラム」など複数のAIRでディレクターを務める日沼禎子さんにお聞きしました。

 

「起源は諸説ありますが、フランス王室が17世紀より新進気鋭のアーティストに“ローマ賞”授与し、ローマのヴィラ・メディシス(メディチ家の別荘)に滞在しながら、当時のヨーロッパで最も洗練された芸術の都における芸術の見聞と、最先端の技術を取得する機会を提供したことが始まりといわれています。日本では旅の中で創作活動を行った松尾芭蕉、棟方志功や、日本の民藝運動を牽引した濱田庄司とイギリスの陶芸家バーナード・リーチとの交流など、古くからAIRのモデル、起源はあったと考えられますが、システムとして構築され始めたのは1990年代。地域振興の観点から各自治体が事業者となり、取り組み始めたことが挙げられます。2000年以降は各地の芸術祭とも連携したプログラムや、アーティスト自身がスタジオやゲストハウスを運営するAIRなど多様化が進み、ますます活発になってきています」

 

日本におけるAIRには、いくつかのモデルケースがあるそう。以前、本連載で取り上げた「シェフ・イン・レジデンス」の取り組みで紹介した徳島県名西郡神山町のAIRをはじめとする地域創生、観光産業の視点からの取り組み、若手アーティストが自主的な主体者となり自らの活動を拡張するための取り組み、あるいは陶芸、木版画、手漉き和紙などの伝統工芸の継承・発展を目的とした取り組みなど多岐にわたり、海外アーティストからも注目されているそうですが、「最も日本的なのは、アーティストが地域交流や学校・子どもたちへの教育プログラムを実施するなど、地域に密着した活動にも注力している点」だと日沼さんは考察します。これも、日本には地域創生という観点からスタートしたAIRが多いことが理由なのだそう。

 

「アーティストにとっては、新しい文化と出合い、インスピレーションを受けることで創造力を高め、可能性を広げる大変魅力的な活動です。またホストとなる地域にとっても、それまで目を向けてこなかった自らが暮らす場の価値をアーテイストの創造的活動によって再発見し、そこで暮らすことに誇りを持つことができます。そして、アーティストの創作プロセスに直接的・間接的に触れ、誰もが創造的活動に関わる機会を持てるんです。もとより、人間の生活とはクリエイティヴであり、その力は誰もが持ち得ていること、そして誰もがかけがえのない固有の文化の中で生きているということを体験し実感できることが、一番の面白さではないでしょうか」。日沼さんはAIRの意義、魅力についてそう教えてくれました。

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