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2020.02.03

F.I.N.的新語辞典

第54回| ライブコマース

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「ライブコマース」をご紹介します。

ライブコマース推進委員会は、ライブコマースの本質的な価値を伝えるためのカンファレンスを主催している。写真提供:ライブコマース推進委員会

【ライブコマース/らいぶこまーす・Live commerce】

ライブ配信を組み合わせた新しいECの形。インフルエンサーがライブ動画を配信し、利用者はリアルライムで質問などをしながら商品が購入できる。特に中国で盛り上がりを見せており、淘宝(taobao)などの人気アプリ内で配信しているライブコマースの番組では、1年で約50億円を売り上げたKOL(Key Opinion Leader)も登場している。

 

「ライブコマースは、“配信”を通したコミュニケーションの醸成ツール」だと教えてくれたのは、ライブコマース推進委員会の会長・長尾純平さん。ご自身が代表を務める株式会社LockUPでは、ライブコマースサイト・ライブポータルも運営しています。

 

「誰もがインフルエンサーになれる時代、最も大切なことは情報の透明性を担保することと、フォロワーとのコミュニケーションを上質なものにすることだと考えています。ライブ配信は同じ時間・価値観・体験の共有がコミュニケーションを通して可能になる共感のツールであり、コマースはこの延長線上にある売買契約。信用・安心・信頼からなる副次的な商取引なんです」。

 

「ライブ配信+チャット機能により、商品を生み出した作り手側の情熱がダイレクトに伝わる双方向コミュニケーションであることがライブコマースの大きな魅力」だとする長尾さん。「リアルの対面販売では不可能な1:nのコミュニケーションによる販売が可能な点も魅力ですね。さらに、動画をアーカイブすることにより、民放のCMのように商品PRに多額の費用を割かなくても、配信時の動画がそのままプロモーションツールになる点も魅力であると言えます」。

 

ライブコマースと親和性が高い商品ジャンルは、ファッションやコスメのほか作家作品や一点もの、ライブ配信時のコミュニケーションでカスタマイズ可能なオリジナル商品、作り手の情熱を伝えやすいもの、ライブ配信中の限定商品など。「大量生産された商品より希少性の高いものの方が親和性が高いですね。さらに、ライブ配信時のコンテンツメイキングが、“売れる商品”になるかどうかを左右すると思われます」。

 

中国で盛り上がるライブコマースですが、日本ではまだそれほど浸透していないのが現状。その原因について、長尾さんはこう考察します。「日本人の文化として、ライブ動画を視聴した延長で商取引を行うという行動がスタンダードになっていないため、利用に際しての障壁が高いのではないかと思います。インターネット黎明期、ECサイトがスタートした初期はネットでカード決済を行うのが怖いという心理的障壁により、オンライン決済の浸透に時間がかかった経緯と同様ですね。また導入する企業側も、ライブコマースの本質的な価値を捉えきれず、費用対効果でKPIを設定してしまうのが現状。結果として労力の割に売上の立たないツールとみなされ、継続的な運用がなされないチャレンジ的な企画止まりになっているケースも多いようです」。

 

日本でライブコマースが浸透・発展するためには、「“爆発的に売れる”を理想にするのではなく、プロモーション、ブランディング、ファンコミュニケーションなど、人と人とのコミュニケーションを第一に置いた継続的なコンテンツメイキングで、日本ならではの成功事例を多く生み出すこと」が必要だと長尾さん。ライブコマースで商品を購入することがスタンダードになる未来は、まだもう少し先なのかもれません。

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