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2021.02.03

F.I.N.的新語辞典

第80回 不便益

隔週でひとつ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回は「不便益」をご紹介します。

提供:不便益システム研究所 川上浩司さん

不便益【ふべんえき/benefit of inconvenience】

不便のなかに益があるという考え方。「不・便益」ではなく、「不便・益」。効率的な業務遂行を目指す目的思考ではなく、手間そのものを楽しむプロセス思考で得られる益。効率化を追求してきた社会に一石を投じる考え方として、情報学に留まらず、工学や教育、芸術の分野からも注目されている。

 

今回お話を伺ったのは、京都大学情報学研究科特定教授で〈不便益システム研究所〉代表の川上浩司(かわかみ・ひろし)さん。まずは、不便の益としてわかりやすい事例を教えていただきました。

「『遠足のおやつ300円』の経験がある人は多いと思います。300円という金額制限があるからこそ、選ぶことが楽しくなる。また、もし富士山の頂上まで行けるエスカレーターがあったらどうでしょう? 頂上を目指すからといって、エスカレーターで行ってしまっては山登りの意味がなくなってしまいます」

不便益には、「主体性が持てる」「工夫できる」「発見がある」「対象が理解できる」「安心・信頼できる」「習熟できる」「特別感が得られる」「能力低下を防ぐ」の8つのメリットがある、と川上さん。例えば、山口県山口市にあるデイサービスセンターでは、バリアフリーならぬ“バリアアリー”を取り入れています。施設内にあえて障害物を置くことで、身体能力の低下を防ぐ効果があるそう。川上さん自身も、 “不便”を日常に取り入れています。

「私は携帯電話を持ったことがないので、出張などで初めての場所に行く際は、あらかじめ駅からホテルまでの道を頭にたたき込んでおきます。それでも迷ってしまうのですが、街を見ながらうろうろしているとたくさんの発見があります。スマホのような便利グッズを持っていないからこそ、出張というビジネスがプチ旅行に変わります」。

このように、効率性を考慮しない時が、不便益を得られるチャンスだそう。現代では、効率化が不要な時でさえ、便利なものを使っている、と川上さん。あえて便利なものを捨てて不便にしていくことで、世の中はもっとおもしろくなると言います。

「これからの時代、さまざまなものが自動化され、ますます便利になっていきますが、不便と便利、両方選べる社会になるといいですね」と話してくれました。

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