F.I.N.的新語辞典
2023.07.21
目利きたちの「時間」
時間に「効率」を求めがちな一方で、アウトドアやキャンプなど「非効率」とも言えることが流行している昨今。人によってその価値観はさまざまですが、目利きたちは時間をどう捉えているのでしょうか。今回ご登場いただくのは、メンバーの7割がZ世代の〈僕と私と株式会社〉のCEOであり、自身もZ世代として多くのメディアに出演する今瀧健登さん。「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視するとも言われているZ世代の時間の価値観とは? そして経営者として忙しく過ごす今瀧さん自身の時間の使い方とは? 時間にまつわる12の質問を今瀧さんに投げかけます。
(文:船橋麻貴/写真:武石早代)
今瀧健登さん(いまたき・けんと)
〈僕と私と株式会社〉CEO。1997年大阪府生まれ。横浜国立大学教育人間科学部在学中に起業。2020年、大学卒業後に教育コンサルティング会社に就職。同年、企画会社「僕と私と」を設立し、Z世代向けのマーケティング事業を展開する。メンズも通えるネイルサロン「KANGOL NAIL」、食べられるお茶「咲茶」などを企画する。Z世代の代表として多数のメディアに出演。著書に『エモ消費 世代を超えたヒットの新ルール』(クロスメディア・パブリッシング)。
Twitter:@k_hanarida
Q1.どんなスケジュールで1日を過ごしていますか?
経営者ということもあって、平日も休日もそこまで変わりません。ただ、平日はオンラインのミーティングが、1日にだいたい15本以上はあります。朝8時に起きて数分後にはミーティングが始まって、仕事が終わるのは19時ごろ。そこから社内のメンバーや友人たちと飲みに行って、23時ごろに帰宅。そこからまた仕事を3〜4時までして、就寝するのは5時くらいですね。
ちゃんとした食事を取るのは、夜の1回のみ。それを2年以上やっています。食生活が破綻しているように見えるかもしれませんが、大学が家庭科だったこともあって、食べるものには結構こだわりがあります。添加物をなるべく避け、サプリやプロテインを取ることで栄養バランスを意識しています。最近ジム通いも始めましたし、普段は効率的に筋肉量を増やすとされている早歩きで移動。不健康そうな生活をしているようで、実は健康をめちゃくちゃ意識しているんです。
Q2.大切にしている時間はなんですか?
大切にしている時間は、3つあります。1つ目は社内メンバーや友人と飲みに行くこと。それから2つ目が自然を見ること、3つ目が仕事です。特に飲みの時間は、何よりも優先順位が高いです。一般的に経営者はいろいろな世代と交流を深めることが大事とされていますが、僕の場合は同世代と飲みに行くことが大多数。それは僕自身が愛想を振りまくのが苦手な性格というのもあるんですが、会社としても営業をしたことがないというのが理由の1つにあるかもしれません。ご一緒したクライアントさんが別の会社さんを紹介してくださって、仕事自体は結構先まで埋まっているので、会食の必要性を今のところ感じていません。それに僕たちの会社はZ世代へのマーケティングを行っているので、同世代と飲むことはチェック作業にもなっていて。企画の草案を話した時の相手のリアクションがフィードバックになるんです。
とは言いましたが、僕が同世代と飲みに行く一番の理由は、自分のモチベーションになるからです。コミュニケーションこそが、モチベーションの源泉と言っていいくらい。今これだけ仕事をやれているのも、この飲みの時間があるからだと思います。
Q3.その時間を、どうやってつくっていますか?
基本的に19時以降は仕事を入れないようにしているので、飲みの時間をつくるのは全く大変ではありません。僕自身は土日も仕事をしていますが、それは自分が好きでやっているだけなので、社内のメンバーには求めていません。〈僕と私と株式会社〉は全員リモートワークで、時間ではなく業務軸で働いています。だから、そもそも残業や時間外労働といった概念も存在しません。その裁量は個人に任せていますが、19時以降も働いているメンバーがいたら「もう仕事終わりにして帰ってください」と言っちゃいますね。自分にとって大切な時間のために働く。社内メンバーも自分も、その本質を見失わないようにしたいですね。
Q4.〈僕と私と株式会社〉さんでは、全社員オンラインフルリモートワークで仕事をされています。こうした働き方を採用されたのはなぜですか?
〈僕と私と株式会社〉は、Z世代向けの商品のリブランディングやSNS運用などを行う会社なので、業種的にどこにいても仕事が成り立つからです。そもそもZ世代はデジタルネイティブ世代で、オンラインでの生活に慣れています。それに僕自身が2020年卒業で、社会に出た瞬間にコロナ禍に突入し、強制的にオンラインでのリモートワークが始まりました。オンラインでの効率的な働き方が当たり前だし、世界のどこにいても働けるから弊害として感じることが少ない。反対に、オフラインでの働き方の方が、移動の時間やお金など弊害になるものが多いと感じてしまいます。
Q5.「タイパ」のために、取り入れている仕事術はありますか?
僕たちの会社では基本的にミーティングは30分単位、長くても60分です。1カ月に200本くらいミーティングを行っていますが、時間超過するのは3カ月に一度あるかないかくらい。なぜ時間通りに終わるかと言うと、アジェンダを事前に共有し、会議ではその確認と意思決定のみを行っているからです。雑談は冒頭の3分くらい。コミュニケーション不足というご指摘をいただきそうですが、僕たちの会社は働く場所が自由なだけであって、メンバー同士の交流は盛ん。会社で契約しているシェアラウンジで一緒に働いたりもしますし、宿泊費と食事代などは会社持ちのワーケーションも月1回行っています。ワーケーションでは日中は各々で自由に働き、夜ごはんを一緒に食べたりと、海外や地方にいるメンバーともしっかりとコミュニケーションは取れています。
Q6.効率的な働き方について、影響を受けたり、参考にしたりした人はいますか?
思想的には、フィンランドの経営を参考にしています。フィンランドは幸福度の高い国として知られていますが、その要因は、ワークライフバランスやウェルビーイングを重視していることがあると思います。
一方、時間のつくり方は、行動経済学にまつわる書籍の影響が大きいと思います。よく言われることですが、人間の集中力が切れるのは45分を超えたあたりから。そういった論理を自分なりに解釈して、ミーティングなどの時間デザインに落とし込んでいる感じです。
Q7.経営者としてさまざまな世代の方と接している今瀧さん。時間の感覚にギャップを感じることはありますか?
大手企業さんですと、ミーティングの時間を最初から1〜2時間で設定されることが多いですね。しかし、僕たちの会社の考えやスタンスをお伝えするとご理解いただけます。なかには、「その時間のデザイン方法、参考になります」とおっしゃっていただいたこともありますね。
Q8.タイパを重視する世代とも言われるZ世代。なぜ今、時間対効果を求めていると思いますか?
Z世代は、タイパを重視している世代ではなく、タイパを重視せざるを得ない世代なんだと思います。タイパという概念自体はずっと前からあるものですしね。ではなぜZ世代がタイパを重視していると言われるか。それは、ITの進化によって時間をコントロールできるようになってしまったから。大学の授業もオンラインで受けられるし、動画や音声メディアは倍速で楽しめるようになった。秒数単位で時間を調整できるから、タイパを意識せざるを得なくなってしまったんです。
そしてその要因はもう一つ、平均寿命が延びたこと。人生100年時代と言われる今の時代は、長く生きる分、細かく時間設計をしておかないといけない。Z世代が特殊なわけでなく、時代や環境の変化が著しい時代に生きているから、その影響を大きく受けているんだと思います。
Q9.一方でキャンプやサウナなども流行しています。Z世代が日常に「非効率」なことを求めるのはなぜでしょうか。
便利さが加速する世の中だからこそ、時間や手間のかかる不便なことに価値を見出そうとする「不便益」という考え方に注目が集まっているんだと思います。Z世代で言うと、「写ルンです」が最たる例。スマホで写真が簡単に撮れるのに、フィルム写真にノスタルジーさや不便さを求めているんです。
Q10.Z世代とSNSは切っても切り離せない関係。忙しない日常の中で、SNSをするのはなぜでしょうか?
なぜやるのかというより、すべての行動にSNSが紐づいているからです。これまでは料理やテレビといった娯楽の選択肢の一つに、SNSがありました。しかしZ世代は、料理をするにもテレビを観るにも、そのファーストアクションにSNSがあるんです。つまり、SNSが生活とシームレスに繋がっている。SNSは娯楽の選択肢の一つではなく、自分の生活の一部であり、もっと言えば自分自身そのものでもあるのでしょうね。
Q11.SNSネイティブでもあるZ世代における、時間の価値の傾向はありますか?
「TikTok」は1分どころか、数十秒のコンテンツがたくさん発信されているので、時間を細かく見るようになっています。そうなると、長期的な視点が失われてしまうんです。僕自身もそうですが、Z世代は今日明日の短期的な時間の設計が得意な反面、10、20年後の時間を設計する力が弱い気がします。ITの進化やコロナ禍などを経て、目まぐるしく移り変わる時代を生きているから、ずっと先の未来に続く時間を想像しにくい傾向にあると思います。
Q12.5年後、時間の価値観はどのように変化していると思いますか?
続々と投じられる情報に時間を奪われていることに気づいてか、最近、僕の周りでもスマホからガラケーに変える人が増えてきました。そういったことも踏まえて、5年後は時間と上手に距離を置く人が増える気がします。時間を意識せざるを得ない時代だから、タイパを意識しながらも、時間を忘れる時間をつくる。そんな未来が待っているかもしれません。
【編集後記】
とても忙しい日々を過ごしながらも、19時以降は絶対に仕事のスケジュールを入れないという今瀧さんは、「時間」のコントロールがとても上手なのだと感じました。
しかもそれが全く無理をしている様子ではなく、自然体であることが印象に残っています。その背景には、ご本人のなかで明確な順位付けがされているからこそなのでしょう。
そして「効率性」を求めるばかりではなく、「不便益」も楽しむ。
そこを含めてメリハリのある時間管理や心の持ち方が、これからの情報過多の社会で充実感を得るために必要なことなのかもしれません。
(未来定番研究所 榎)
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