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2018.05.20

F.I.N.的新語辞典

第5回| 一器多用

毎週一つ、F.I.N.編集部が未来の定番になると予想する言葉を取り上げて、その言葉に精通するプロの見解と合わせながら、新しい未来の考え方を紐解いていきます。今回紹介する言葉は、ものの愛用の仕方を考える「一器多用」です。

一器多用【いっきたよう/ikki-tayo

 限られたスペースを広く活用するために、用途が限定されないものを選ぶこと。

これは、オリジナル家具や木製の生活用品の販売し、コミュニティーサロンを展開する〈モノ・モノ〉の創設者、工業デザイナーの秋岡芳夫さんが1970年代から提唱していた考え方です。

〈モノ・モノ〉の4代目代表である菅村大全さんは、一器多用の象徴は蕎麦猪口だといいます。「把手が付いていないから、お茶も飲めるし小鉢にもなります。さらに、スタッキング(重ね)が効くので、数個重ねて持てる上に、置いた時の安定も抜群です。多様な用途に加え、収納機能も持ち備えている優れた焼き物なんです」。

秋岡さんが提案していたミニマムライフに20代の頃から共感している菅村さん。普段から食器の選び方で大切にしていることがあるとのこと。「まず、包容力のある器を選ぶ。不思議と何を入れても様になり、和・洋・中、どんな中身でもうまく調和し、魅力的に見せてくれます。次に、気に入ったものだけを購入する。値段ではなく使用量で考え、すぐに買い換えたくなるものより、使うほど愛着がわきそうなものを買います。自分が良いと思うものを数少なく持って、すっきりした空間で毎日気分良く使いたいですね」。

用途を限らずに使うのは、家具も同じなのだそう。「食卓を、くつろぎの場や創造の場、勉強の場など、多目的な場にするというコンセプトで、そこに置くダイニングテーブルや椅子はどんなのだろう、ソファを本当に置く必要があるのか、と考えていくんです」。

長年、秋岡さんが口にしていた「消費者から愛用者に」という合言葉の通り、使い方を自分仕様にすることで、より愛着を深めていくのではないでしょうか。

「良いものを所有する時代から、一手間加えて自分だけのものにしていく流れがきている気がします。これから先、愛用のあり方にまで自作が加わっていったらいいですね」と菅村さん。一器多用には、ものにあふれる暮らしを見つめ直すヒントがありそうです。

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