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2018.07.03

未来を仕掛ける日本全国の47人。

14人目 石川県金沢市 彫金作家・竹俣勇壱さん

毎週、F.I.N.編集部が1都道府県ずつ巡って、未来は世の中の定番になるかもしれない“もの”や“こと”、そしてそれを仕掛ける“人”を見つけていきます。今回向かったのは、石川県の金沢市。〈水金地火木土天冥海〉バイヤーの土村真美さんが教えてくれた、彫金作家の竹俣勇壱さんをご紹介します。

 

この連載企画にご登場いただく47名は、F.I.N.編集部が信頼する、各地にネットワークを持つ方々にご推薦いただき、選出しています。

これまでの常識に捉われず、”自分が美しいと思うものづくり”を追求する人。

生まれ故郷である金沢で、彫金作家として、オーダーメイドジュエリーとカトラリーや茶道具などの生活道具を手がける竹俣さん。昭和風情の残る新竪町商店街の〈KiKU〉、伝統と趣のある東山茶屋街の〈sayuu〉、というふたつのアトリエ兼ショップを軸に、日々創作活動を行っています。推薦してくれた土村さんは「デザインしたカトラリーや茶道具の一部は、日ごろ全く別分野の工業製品のパーツを製作している工場に生産のおおよその工程を依頼し、その後、自分たちの手で仕上げていると聞きました。生産背景に異分野業態との交流があるところに、未来の可能性を感じます」と太鼓判。早速竹俣さんにお話を聞いてみましょう。

F.I.N.編集部

竹俣さん、こんにちは。

竹俣さん

こんにちは、よろしくお願いします。

F.I.N.編集部

梅雨も明け、いよいよ夏到来ですね。

竹俣さん

金沢は湿度が高いので、蒸し暑い夏がやってきます。

F.I.N.編集部

今年も暑くなりそうですね。竹俣さんは、ご出身地である金沢の、どんなところに魅力を感じますか?

竹俣さん

金沢には豊かな食文化があり、昔から残されている建築物が魅力的な土地です。たくさんの自然に囲まれ、それを無意識のうちに感じながらものづくりに向き合えるところが何よりの良いところですね。

F.I.N.編集部

素敵な土地ですね。そもそも、竹俣さんが彫金を始めたのはどんなきっかけだったんですか?

竹俣さん

10代の頃、ファッションジュエリーに興味を持ったのですが、なかなか自分がイメージしたようなもの、自分が欲しいと思うものが見つからなかったんです。自分で作ることができれば理想のものが手に入ると思い、彫金を始めました。

F.I.N.編集部

「欲しいものは自分で作ってしまおう」という発想だったんですね。以来、ジュエリー制作に長らく携わられていますが、2007年からは、カトラリーや茶道具といった生活道具も手がけられていますね。

竹俣さん

当初、カトラリーなどの生活道具は、仕事の範疇で注文があれば制作するというものでした。しかしある時、いざ自分の生活道具を見渡してみると、あまり“自分の使いたいと思うもの”ではないことに気づき、自分用のカトラリーを作ってみたいと思うようになったんです。ちょうどその時期に器を制作している友人が増えていたこともあり、まずはその器に合うカトラリーを作ってみることにしました。

F.I.N.編集部

ジュエリー制作を始めた時と同じ「欲しいものは自分で作ってしまおう」という発想でしょうか。どんなことをフックにして作っていったんですか?

竹俣さん

既製品のカトラリーを見てみると、製造側や販売側の都合でデザインやサイズなどが決められてしまっているように感じました。そういった固定概念から一回離れて考えるべく、古いものから新しいものまであらゆるカトラリーを買い集めて、そのサイズや重量を調べて徹底的に研究するところから始めました。

竹俣さんの手がけたカトラリー。先の方を重く、持ち手を軽くすることで、食べる所作を美しく見えるようにバランスを整えている。

F.I.N.編集部

なるほど。それが、現在の竹俣さんの作り出すカトラリーの礎になっているのですね。茶道具も手がけられていますよね。

竹俣さん

茶道具の制作を始めたのは、輪島塗の塗師・赤木明登さんから注文を受けたことがきっかけです。それ以来、茶道にも興味を持つようになり、今も作り続けています。

F.I.N.編集部

一部の生活道具作りにおいて、土村さんのお話によれば、「日ごろ全く別分野の、工業的パーツを製作している製作工場に生産のおおよその工程を依頼し、その後自分たちの手で仕上げている」とのことでした。何か理由があるんですか?

竹俣さん

金属という素材は手で加工できる範囲が狭く、デザインが制限されてしまうものです。そこで、機械加工と手作業を組み合わせることによって、両者のメリットが生き、これまでにない新しいカタチをつくることができます。当初は、全工程、手作りを貫いていましたが、ある時、食器製造の有名産地である新潟の燕三条市の工場とともに〈ryo〉というシリーズを作った際に、機械加工を取り入れるようになりました。

竹俣さん監修のもと、猿山修さんがデザインを手がけ、新潟・燕三条の田三金属によって製造されたカトラリーシリーズ〈ryo〉。日本に洋食器が輸入され始めた頃の金型を生かして制作されている。

F.I.N.編集部

良いものづくりのための柔軟な姿勢を感じます。さまざまな創作を続ける中で、竹俣さんが一貫して意識していることはありますか?

竹俣さん

僕は、ジュエリーから生活道具、茶道具に至るまで、あらゆる意匠を機能の一つとして考えています。それは、使いやすさを優先するばかりではなく、使う行為自体が心地の良いものになるように制作しているということ。機能性を追求すると、どの道具も同じようなカタチになっていき、その結果、製造工程、材料原価に限界が出てきてしまいます。そうならないように、デザインを考える時には、技法や素材、製造工程などの、デザインに影響を与えてしまいそうな事柄から一度離れるように心がけています。すべての作品を自分の中で「美しい」と思えるカタチに近づけるように作業を進めていく。マーケットを意識せず、自分が欲しいと思えること、「使いやすく」ではなく「使いこなす」道具があってもいいんじゃないかと思っています。

F.I.N.編集部

最後に未来に向けて、竹俣さんの今後の目標を教えてください。

竹俣さん

次は、建築空間の中で足りないものを作りたいんです。例えば、部屋の壁や床の材料には無数の選択肢がありますが、スイッチプレートやコンセントプレートは数種類の選択肢しかありませんよね。そのほかにもテープカッターやトイレットペーパーホルダーなども好みのものはありません。今までは食にまつわる道具が中心でしたが、テーブルの上だけではなくもっと広い範囲でのものづくりに挑戦したいと思っています。実際に今、〈tayo〉というブランドを立ち上げて、制作を始めているのですが、キッチンアイテムやバスアイテムなど、必要なアイテムはまだまだありそうです。新たな実店舗を金沢に準備中で、展示方法も、今までのように、物をただ並べるだけではなく、居住空間のようにディスプレイするなど、暮らし全体として提案できるように工夫していきたいですね。

F.I.N.編集部

既存の枠組みや従来の方法にとらわれず、柔軟な思考を持つことで、ご自身が心から良いと思うものづくり、美しいと思うものづくりを追求できるのですね。新しいお店のオープンも待ち遠しいです。ありがとうございました。

KiKU

〒920-0995 石川県金沢市新竪町3−37

TEL:076-223-2319

営業時間:11時〜20時

定休日:水曜

sayuu

〒920-0831 石川県金沢市東山1—8—18

TEL:076-255-0183

営業時間:10時〜16時(月曜、火曜、木曜)

11時〜18時(金曜、土曜、日曜)

定休日:水曜

https://www.kiku-sayuu.com/

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