2021.02.19

未来定番サロンレポート

Vol.19 インドのものづくりが教えてくれた、これからの価値観とは。

想像力で、どこへでも行ける

未来定番世界旅行。

1日中雨天で冷え込んだ2021年1月23日。19回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと参加者のみなさんで一緒に考え、意見交換する取り組みです。

想像力で、どこへでも行ける

未来定番世界旅行。

コロナ禍にともなう移動制限によって、これまでは自由に行けた海外旅行も、現在ではなかなか難しいものになってしまいました。しかし、リアルな旅ができない今だからこそ、人の想像力とテクノロジーを活用して、異国を訪れたかのような体験をお届けしたい。そんな思いで、旅をテーマにしたイベント「持ち帰れたインド展」を開催しました。

「旅」とは、知らない場所を知る喜びを与え、知的好奇心を満たす体験です。今回は、昨年別々の記事でF.I.N.にご登場された2組をお招きし、未来定番サロンを通じてご共演いただきました。インドにまつわるガイドブックなどを制作されている企画・編集ユニット〈KAILAS〉の松岡宏大さんと野瀬奈津子さん、そして廃棄物のアップサイクルで新しい価値を生み出すものづくりを手掛ける〈retela〉の大越敦子さん。2組の共通項であるインドの文化や、現地で出会った人々とのふれあいについてお話しいただきました。会場では8名、オンラインでは約70名の方々が参加される大盛況のイベントとなりました。

〈KAILAS〉の松岡宏大さん。

〈KAILAS〉が出合った

インドのものづくりとその背景

 

まずは、南インド・チェンナイの小さな出版社〈タラブックス〉について、〈KAILAS〉のお2人によるトーク。『タラブックス ちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』(玄光社)で紹介された〈タラブックス〉が手掛ける本の魅力や想い、制作の背景についてのお話は、普段なかなか聞けない内容で、参加者も興味津々の様子でした。

 

また、〈タラブックス〉のロングセラーである『夜の木』の舞台であるパタンカル村や、先住民族による絵画様式のゴンド画についても、松岡さんが現地で撮影された写真とともにご紹介。〈タラブックス〉の書籍でイラストを手がけるゴンド画作家バジューとの出会いのエピソードや、バジューと松岡さんによる共著『オリジンズ オブ アート』についての制作秘話も伺いました。

〈KAILAS〉の野瀬奈津子さん。

南インド・チェンナイから

リアルタイムで生中継

今回のイベントでの大きな試みの1つが、オンラインのコミュニケーションツール「zoom」を使って、インドの〈タラブックス〉とリアルタイムで繋がることでした。インドからご参加いただいたのは、書籍のデザインを担当するラギニさんとロヒニさん。今のインドや〈タラブックス〉の状況をはじめ、制作において大切にされていること、大変だったことなどについてお話しいただきました。参加者からの質問にもお答えいただき、貴重な時間を共有することができました。

最後にはお2人からのメッセージも。「5、6年前の板橋での展示を皮切りに、毎日1人は新しい方が来てくれているんじゃないか、と感じるほどたくさんの日本人が〈タラブックス〉を訪れてくれました。最初はすごく驚きましたが、小さな出版社にとって、そういう地道なサポートが唯一の生き残る道なので、感謝しています。いつもありがとうございます」。

会場には、松岡さんがインドから持ち帰った、貴重な伝統工芸やゴンド画の原画なども展示。

世界に1つだけの

テキスタイルが生まれる場所

2015年にスタートした〈retela〉は、誰からも見向きもされない廃棄される「もの」や、手仕事の息づかいにフォーカスするアパレルブランド。バッグやエプロン、スリッパといったライフスタイル雑貨や、日常の暮らしを楽しくする衣料品のデザインと生産を行っています。

 

大越さんとインドの繋がりは、〈retela〉のテキスタイルづくりがきっかけでした。インドの伝統的なプリント技法であるブロックプリント*1を行う際に、アップサイクルしたインド布を下敷き用の布として採用。テキスタイルに木版を押す際に、はみ出したり、裏うつりしたりすることで柄や色が重なり合い、予測不可能な世界に1つのテキスタイルを生み出しました。

 

*1ブロックプリント

手彫りの木版を使って、布にインクを押し付けていくプリント技法。

〈retela〉のデザイナー大越敦子さん。この日着ているエプロンも〈retela〉のもの。

ブロックプリントの作業が行われる工房や、実際に手作業でプリントしている様子など、映像を観ながら解説。ものづくりの原点でもある、手仕事のぬくもりや職人の息づかいを感じられる時間になりました。

会場では、〈retela〉の作品を展示販売。

来場者で、〈retela〉のブロックプリントを体験。

ワークショップで

ブロックプリントを体験

最後は、大越さんによるワークショップ。大越さんお手製のカディコットン*2を使ったマスクに、映像でも観たブロックプリントを施す体験をしました。木版は、インド・ジャンプールから大越さんが持ち帰ったもの。アンティークショップで購入したり、オリジナルで作ってもらったりしたという手彫りの木版は、驚くほど細かく、見ているとほっこりした気持ちになる絵柄で、手仕事ならではのぬくもりを感じます。

 

*2カディコットン
インド大陸で生産されている手紡ぎ(カディ)・手織りの布

参加者が作ったマスク。カラフルだったりシックな色合いだったり、個性豊かな仕上がりに。

ものづくりから見る

未来の定番とは?

イベントの最後には、ゲストの3名にそれぞれ「未来の定番とは?」という問いを投げかけました。

 

「コロナ禍で大変な方もたくさんいらっしゃる状況ですが、私はこれまでよりも個の時間が増えたこともあり、自分について掘り下げてみました。すると、これからやりたいことがたくさん浮かんできたんです。私だけでなく、同じように自分について考えられた方も多いのではないでしょうか。これからはもっと、人の目を気にせず、自分らしく生きることができる時代、それが当たり前になる未来になるのではないかなと感じています」(大越さん)

 

「ものづくりに携わる上で、常に10年先にも持ち続けてもらえるものを、という思いで作ってはいますが、すべては諸行無常。永遠に残るものはないとも思っています。だからこそ、最終的にずっと残るものって“脳みそ”、つまり“思考”だと思います。思考や思想があれば、それはものづくりにもあらわれるし、物を選んだり、買い物をしたりするのも思考です。自分の思想に合わないものは買わないですよね。こうしてすべてに“思考”は反映されるものだし、自分の子どもへも受け継がれるものでもあるなと考えています」(野瀬さん)

 

「物として残るものは、“歪んでいるもの”なのかなと最近考えています。〈retela〉も〈タラブックス〉も、人が作っているがゆえに、ひとつとして同じものがない。ハンドメイド本で言えば、紙の厚さが違うとかシワがついているとか。人の手で作られたものは、手にするとどんどん愛着がわいてきて、永く使いたくなるんです。そんな“歪んでいるもの”へ愛情を持つことが、未来の定番になるような気がしています。私もそういうものを自然と選んでいますね。イタリアの“時間とは何か”を説いた本には、時間とは“経験”であると書かれていました。たとえ、もの自体が壊れたり消えてしまったりしても、愛情を持って永く使った“経験”はそこに残ります。決してなくなることのない“経験”を求めて、私たちは“歪んでいるもの”を選ぶのではないでしょうか」(松岡さん)

 

見て、聞いて、体験してと盛りだくさんとなったイベントも、無事に終了。インドの伝統工芸やゴンド画の原画、現地の風景を撮影した写真パネルの展示に加えて、〈タラブックス〉の本や〈retela〉の洋服・雑貨の展示販売も実施しました。

今後も未来定番研究所では、さまざまな視点で「これからの旅」を探っていきます。

もくじ

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