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2024.04.10
未来定番サロンレポート
春分の日の2024年3月20日午後、33回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来の暮らしのヒントやタネを、ゲストと参加者のみなさんが一緒に考え、意見交換する取り組みです。
この日は、「これからの文化循環のかたち」をテーマに、映像作家でミュージシャンの桑原宙(くわばら・そら)さんをお招きし、地方創生や関係人口の創出のためには何が必要か、一緒に考えました。ご自身が監督・撮影・編集・制作を手がけ、「横濱インディペンデント・フィルム・フェスティバル」(2022)のドキュメンタリー部門で最優秀賞を受賞した作品『想像と循環』の上映と、舞台となった島根県津和野町など映画の舞台となった地域についてお話を聞きました。
(文:大芦実穂/写真:武石早代)
過疎化の進む津和野町で
文化醸成に取り組むアーティスト
春の雨があがった午後2時、ミュージシャン兼映像クリエイターの桑原宙さんによるトークイベントがスタート。会場となった未来定番研究所には、すでにたくさんの参加者の姿が。桑原さんの音楽のファンだという方もいれば、映画に少し出演されている方も。あちこちで話が弾み、朗らかな空気の中、いよいよ桑原さんの登場です。
東京都生まれの桑原さんは、高校卒業と同時に渡米。ニューヨークへの留学をきっかけに、音楽と映像制作の仕事を開始しました。その後はアメリカと日本を行き来しながら、テレビ番組や映画への楽曲提供などをしてきました。2018年からは島根県津和野町に移住し、まちの活性化のためアートスクールやワークショップ、映画祭開催など、地元の人や津和野町を訪れた人が文化に触れられる場の提供を行っています。
そして、桑原さんが企画から撮影、編集、制作、とすべてを手がけたドキュメンタリー映画『想像と循環』(2022)の上映を開始。部屋の明かりが落ち、島根県津和野町の人々が映し出されます。
【あらすじ】 ※HPより抜粋
「想像し」実行する事の大切さを訴えた、文化循環の活性を目指す農村ドキュメンタリー。島根県津和野町木部地区の農村地帯。過疎化が進み翳りゆく文化と人の営み。賑わいを取り戻すための力強い取り組みの軌跡を記録。
農業とアート、そのエネルギッシュな取り組みは「シアター」再建に向かう。文化面における顕著な取り組みが「循環」となり農村の営みや存続につながる事を願った作品です。そしてどの町にもキーパーソンなる人物が存在し農村の行く末を案じている。農、政、芸、それぞれの立場から農村を支え文化芸術や賑わいを少しでも取り戻すべく奮闘している姿を追った農村ドキュメンタリー。
桑原さんが映画を制作しようと思い立ったのは、2020年のコロナ禍真っ只中。2018年に島根県津和野町木部地区に移住して、約2年後のことでした。
「移住のきっかけは、祖父母がかつて住んでいた家が空き家として残っていたから。小さい頃から、この木部地区にはよく遊びに来ていましたが、空き家になってからは、音楽活動のツアーや映像撮影で全国をまわるときの拠点にしていました。当時は東京に住んでいたのですが、ツアー中は2〜3カ月に1回くらいしか家に帰らない。果たして東京の家って必要なんだろうか、そう思ってここに越してきたのが2018年です」
津和野町に引っ越した桑原さんがまず驚いたのは、地域の過疎化や産業衰退の現実でした。これは何かしなければと、切迫感に駆られたといいます。当時は新型コロナウイルス感染症の波が世界を襲い、桑原さんが所属する「ソラトラベリング楽団」の出演が決まっていた国内外のライブの予定が軒並みキャンセルに。さて、何をしようかと考えた末、桑原さんは、木部地区の文化を醸成するための取り組みを始めることにしました。
「人口が減少していく木部地区で、何かをしなければならない。クリエイターである僕がもし種を撒くとしたら、それは自分らしいものでありたいなと思いました」
もともと津和野町は、鎌倉時代から江戸時代にかけて炭鉱で栄えた場所でした。銅がたくさん採れ、おかげでまちも隆興しましたが、電気インフラが整備されるにつれ産業は衰退。銅価格の低迷と公害問題などで昭和46年には完全に閉山となりました。坑夫たちは津和野町を去り、じわじわと人口が減少していきました。
「地域を見ていて、文化芸術の乏しさを感じました。とくに木部地区には観光資源もほとんどなく、飲食店は1つもありません。子供たちが自分を表現できる場所もない。すると文化へお金を払うという価値観も育まれない。『なんで映画に1,000円も払うの?』ということにも繋がりかねません。やはり表現者としてそれは寂しいし、今後アーティストが訪れてもここに住んで活動しようとは思わなくなってしまう。だからこそ、文化を循環させることが必要だと感じました」
文化を体感する場所が必要。
かつての劇場を再建し、アップデート
木部地区では、子供の数が減ったことにより、廃校が増えていきました。その廃校を使って何かできないかと始めたのが、旧木部中学校を利用したフリースクール〈木部の杜〉です。また、自宅のアートスクール〈ワルツ座〉では、桑原さんの特技を生かして、楽器や映像制作、パートナーでありバンド「ソラトラベリング楽団」メンバーでもあるアカネさんがパーカッションやシナリオライティングなどを教えています。(※現在は〈木部の杜ワルツ座〉に統合)
さらにそこから派生し、かつて木部地区の文化発信地だった〈長野劇場〉の再建にも着手。廃校になった学校からもらってきた廃材などを利用し、すべて手作業で進めていきました。
「1960年代までは、〈長野劇場〉で映画が上映され、坑夫の家族や地域に住む子供たちにとっての娯楽の場になっていました。それから60年以上経って、もう一度木部地区に文化の発信地をつくるなら、やはり劇場の再建がいいだろうと。そこで、廃校や解体する空き家、閉業した建築会社から、建築資材や備品をもらってきて再利用し、地域の人の手を借り、一から建設をしていきました」
そうして2022年、ついにカフェやシアター、ワークショップスペースなどを併設する、〈木部の杜ワルツ座〉が完成しました。ここでは、主に近代や現代のアートを伝えていきたいと桑原さん。
「津和野町にも伝統文化はあって、例えば神楽や太鼓、流鏑馬(やぶさめ)など。でも僕がやりたいのは、いわゆるポップスのようなもの。以前、廃校でフリースクールをやっていた時に、ギターを見たことも触ったこともない高校生がたくさんいて驚いたんです。僕は都市育ちなのもありますが、40年以上前からギターなどの楽器は身近にありました。ここには演劇や映画を観るところや、レコードショップや楽器屋さんなんかもない。もちろん田舎にしかないものもありますし、将来、僕みたいなミュージシャンになった方がいいと言ってるわけじゃない。でも、子供たちにとって、たくさんの選択肢やチャンスがあることは大切なんじゃないかと。文化がない地域では、やはり芸術家は育ちにくいとも思います」
さらに桑原さんは、「経験より体感することの方が重要だ」と続けます。
「楽器を弾いてみることも大事ですが、それよりもホールでピアノのコンサートを観るとか、何かを体感することが重要だなと思いますね。例えばオーケストラを観て、『私クラリネットをやってみたい!』とか、映画を観て『僕も映画を撮ってみたい』となるかもしれません。そうした体験がないと、視野は広がりにくくなってしまうと思います。だからこそ〈木部の杜ワルツ座〉をつくって、さまざまなアートや音楽、食事などを体験してほしいと思い活動を続けています」
面白い人がいるから、遊びに行く。
地方に必要な人材とは?
今、地方に必要なのは、「キーパーソン」だと桑原さんは話します。
「全国をツアーでまわっていると、文化促進に成功している市町村もある。放棄された土地を開拓してフェスを開催したり、エコビレッジにしたり……さまざまな例を見てきました。そういう時に大事なのが、求心力かなと思います。つまり人を呼べるかってことですよね。観光スポットじゃなくても、面白い人がいるからその場所に行くこともあると思います」
実際、桑原さんも地域のキーパーソンになっています。地域の様子を映画にし、フィルムフェスティバルで賞を取ったことで、津和野町が人々の知るところとなりました。
「映画を上映すると、トークショーもセットでお願いされることがあり、すると津和野町のことを話しますよね。これもPR活動になっているのではないかなと感じています」
桑原さんの文化を木部地区に手渡し、そして地域の文化を桑原さんが受け取ることで、文化循環が生まれています。現在、〈木部の杜ワルツ座〉には、地元の人だけでなく、県外からも来場者がたくさん訪れていて、着実に地域の文化醸成の場として育っています。
最後に、未来の木部地区を見据えて活動してきた桑原さんに、5年先、10年先の展望についても伺いました。
「津和野町を飛び出し、他県や東京も跨いで活動をしていきたいですね。これからも音楽や映画をつくって、木部地区の名前をどんどん出していきたいです。地方創生や犯罪撲滅など、何か人のためになるテーマを掲げ、ドキュメンタリーかドラマ作品を撮ろうと思案しています。楽しみにしていてください」
桑原さんを含めて、町のキーパーソンの人物は、それぞれに農村の行く末を案じています。 農、政、芸、それぞれの立場から、農村を支え、文化芸術や賑わいを少しでも取り戻すための取り組みである文化循環の大切さについてお話しいただきました。また、参加者の中には津和野町のお隣・益田町が地元だという方も。上映後のトークセッションでは、津和野町の魅力など、参加者各々に思うことをお話いただき、双方の理解を深めました。津和野町に桑原さんがいる限り、楽しいことが起きるに違いないと感じた2時間でした。
桑原宙さん(くわばら・そら)
シアターラウンジ〈木部の杜ワルツ座〉代表、映像クリエイター、ソラトラベリング楽団フロントマン。東京生まれ。18歳で渡米、ニューヨーク留学と同時に映像、音楽制作を始める。日本とアメリカで制作活動を続け、現在は島根県津和野町に移住し〈木部の杜ワルツ座〉を設立。カフェ、アートスクール、ワークショップ、コンサート、映画祭開催など文化芸術促進の場を田舎町から発信し続けている。映画『想像と循環』で「横濱インディペンデント・フィルム・フェスティバル」ドキュメンタリー最優秀作品賞を受賞。映画祭や劇場公開、講演会、ソラトラベリング楽団のコンサートを含め全国ツアー中。
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F.I.N.的新語辞典
ジェネレーションZ世代の今。<全2回>
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谷中日記
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