谷中日記
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2021.04.30
未来定番サロンレポート
2021年3月27日、20回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来のくらしのヒントやタネを、ゲストと参加者のみなさんが一緒に考え、意見交換する取り組みです。今回は「コンポスト」に焦点を当てながら、企業や大きな団体ではなく、私たち個人が取り組む意義や、現代の暮らしへの取り入れ方、コンポストのある未来の暮らしについて考えました。
オフラインで5 名、オンラインで約70名の方にご参加いただいた今回のイベント。なかには海外からの参加者も。世界中でコンポストへの関心が高まっていることが感じられます。
日本の暮らしに根付いていた
コンポストによる循環型生活
「サステナビリティ=持続可能性」という言葉を耳にする機会もますます増え、興味関心が高まっている近年、「サーキュラーエコノミー」「循環」「ゼロウェイスト」など、極力廃棄物を出さない経済活動や消費の仕方に注目が集まっています。例えば、リサイクルされた素材を使うことはもちろん、製造の段階で将来再生可能な素材を使うなど、先を見据えた取り組みを始めている企業も増えています。「資源→生産→消費→廃棄」という一方通行ではなく、消費からまた資源へ循環させることは、大きな規模の話のように聞こえますが、私たちのもっと身近なところでも、取り入れることができるのではないでしょうか。
そこで今回ゲストスピーカーとしてお招きしたのが、福岡県を拠点にコンポストを広める活動を続けている〈ローカルフードサイクリング株式会社〉代表取締役のたいら由以子さんと、サトウキビストローを扱う〈株式会社4Nature〉の代表を務める平間亮太さんです。平間さんは、東京にある〈COMMUNE 表参道〉を拠点に、サトウキビストローやコンポストを回収し、そこで熟成させ、野菜や植物を栽培するコミュニティも運営しています。
今回のテーマである「コンポスト」とは、「堆肥(compost)」や「堆肥をつくる容器(composter)」のこと。家庭から出る生ごみなどの有機物を、微生物の働きを活用して発酵・分解させて堆肥に変えます。実は、これは日本で昔から取り入れられていた暮らしの知恵。人と自然が共生する循環型の生活を送っていた江戸時代、稲作が発達した日本では、生ごみや糞尿などを自作で肥料(堆肥)にして、田畑へ散布していたといいます。
各家庭にコンポストを。
都市で実践する意義とは
お父様の病気がきっかけで、コンポストの活動をスタートしたというたいらさん。看病を通じて、人にとって食事がどれだけ大事なのか、気づかされたそうです。また同時に、無農薬野菜や土、自然が置かれている厳しい状況、それを作る社会の仕組みに不安と怒りを覚えたと言います。こんな世の中で、子どもたちは何を食べて育ち、将来、どのように子育てをするのだろう、暮らしを支えている資源はどこから来ているのだろう。そんな疑問から循環型社会について、学び始めたといいます。
そしてイラストや資料を交えながら、コンポストの歴史や海や生命体の誕生、そこから緑や海藻、酸素、土が生まれた背景、人によって侵されている自然の現状など、お話しいただきました。
「ごみを出さない生活は、田舎でしかできないという印象を持つ方も多いと思いますが、人口の80%が都市部に住んでいることを考えると、都市で何をするかを考えることが大事。各家庭で、生ごみをコンポストに入れて混ぜるという1プロセスを取り入れるだけで、訪れる未来が変わってきます。自然サイクルの一部を切り取ったコンポストをベランダで実践することで、自然が身近に感じられ、普段の過ごし方を見直すきっかけにも繋がります。何よりコンポストが生み出す自然の循環のおかげで、おいしい野菜ができあがる。そしてそれは、私たちの健康にも繋がっていくんです」。そんなたいらさんのお話に、参加者のみなさんも真剣に耳を傾けている様子でした。
また、コンポストの種類や、オンライン参加者から寄せられたコンポストに対する不安や疑問などにも回答いただき、興味はあるもののなかなか始められないという方の背中を押してくれました。
半径2kmではじめる
循環をつくるコミュニティ
次は、平間さんの活動についてお話しいただきました。サトウキビストローを飲食店向けに製造販売をしている平間さんは、一部を変えるだけではなくその先を見据えた活動をしたいと、都内のお店を中心に、サトウキビストローを回収して、土にして野菜を作り、その野菜をまた飲食店に卸すという循環を作っています。
そしてさらに、コンポストは都心で継続しづらい、土を使う場が少ない、虫や匂いが心配で1歩踏み出せないといった声が多いため、解決できる場を提供しようと、〈COMMUNE 表参道〉を拠点にコミュニティを立ち上げました。
〈COMMUNE 表参道〉には共同コンポストがあり、半径2kmに在住または勤務している人は、たいらさんが販売している家庭でできるコンポスト〈LFCコンポストセット〉で作った堆肥をそこに入れることができます。家庭の小さなコンポストを集めて、さらに分解を進め、その堆肥を使って屋上にある畑で野菜を栽培しています。ここでは循環の大きな枠組みを作ることが目的で、みんなで堆肥にまつわるさまざまなことを体験しながら学び、共有しているのです。
ご自身のコミュニティの事例や世界で取り入れられている仕組みを伺ったことで、都市でコンポストを実践することがより身近に感じられました。
コンポスト体験からみえる、
循環で実現するくらし
続いて、LFCバッグを使って参加者がコンポストを体験! 用意したのは、みかんの皮や卵の殻、肉の骨、野菜の皮など、普段どの家庭でも出るような一般的な生ごみです。
参加者が一人ひとり、クイズ形式で分解されると思う生ごみを順にコンポストに入れていき、かき混ぜる体験をしました。どなたも間違えることなく、無事にコンポストへ入れることができました。用意した生ごみの中で、貝殻だけは分解されにくいので、コンポストには入れず処理しました。
また、今回はたいらさんが運営する福岡県のコミュニティガーデンとオンラインで繋がりました。現地からスタッフにガーデンを案内していただきながら、普段どんな活動をしているのか、どんな施設があるのかなど、楽しくお聞きしました。
2000平米もあるコミュニティガーデンでは、周辺で暮らす住民が会員になり、みんなで堆肥を作って無農薬野菜を育て、それを分け合うという活動をしています。広い敷地にはピザ窯もあり、楽しい時間を過ごしながら交流する場にもなっています。
5年先の未来における、
コンポストのある暮らしとは。
最後に、お二人にコンポストが未来の暮らしにどのような影響を与えるのかを伺いました。
「地域で安全な野菜が食べられるようになること。現在ごみ処理におおよそ2兆円が使われていますが、そのうち1兆円が生ごみの処理に充てられています。生ごみを焼却せず野菜に変える仕組みをもっと作っていけたらと思います」とたいらさん。
平間さんは「どうなるかというより、自分たちがどうするかが大事。廃棄物の処理方法の選択ができる世の中になって欲しいと思っています。廃棄物自体が出ないゼロウェイストの社会になればいいですよね。その方法の1つがコンポストです。そうすると循環ができて、いろいろな人との繋がりも強くなっていく。そういう社会にしたいと思っています」とのこと。
イベント終了後、お二人へさらに未来の「暮らし方」についてお話を伺いました。
コンポストからはじまる、
捨てずに資源にするデザインの暮らし。
たいらさん
今は、生ごみを焼却するデザインの暮らしになっているので、捨てずに資源にするデザインの暮らしに変わっていくといいと思っています。例えば、マンションや住宅も、野菜を育てやすい設計になるとか。
F.I.N.編集部
現在、コンポストや畑つきのマンションはあるのでしょうか?
平間さん
地方ではありますし、コンポストの機械を導入したマンションもあるんです。でもまだ時代がついてきていなかったということもあり、コンポストに生ごみを入れるだけという機械的な作業になってしまい、自分たちの生活に落とし込めている感覚がなく、定着しなかったようです。
F.I.N.編集部
お二人もお話しされていたように、楽しみながらやるというのが、大事なポイントになってくるのですね。自分ごととして考えられて、自分でやっている実感がある方が続けたいと思うでしょうし、そこから環境への関心も広がりそうですね。
平間さん
そうですね。私たち表参道のコミュニティでは、人と人とがコミュニケーションをとって、お互いにケアできるような仕組みになっています。一方通行ではなく、みんなで意見を出したり、情報を共有したり、1つの町のようなコミュニティです。お隣さんとコンポストを見せ合うような。
F.I.N.編集部
最近の技術で簡単にできるようになったコンポストを使うだけでなく、同時に人との繋がりを大切にできる未来はいいですね。ご近所付き合いの定番がコンポストになると面白いです。
たいらさん
そうですね。AIが進めば進むほど、顔が見える活動も発展しないと、バランスが悪くなります。これからもっと人との繋がりは重要になってくると思います。
一人ひとりが百姓になる。
生産者に近づくこれからの働き方
平間さん
これからの働き方を、よく「百姓になる」と言っています。資本主義では効率化が求められて、生産者は生産者、消費者は消費者といったように専業の文化になっていました。そうすると効率はいいけど、人との付き合いは分断されてしまう。そこに世の中の人たちが違和感を感じ始めています。そして、コロナ禍で働き方がより自由になってきたこともあり、自分たちも何か作ることをしてみたいと、クラフトの文化になってきています。
F.I.N.編集部
確かに、おうち時間が増えて、手を動かして何かを作ることの良さを再確認した人は多いかもしれません。
平間さん
僕の中では、コンポストは生産者に近いと思っています。消費者が生産者になるための手段なんです。自分で土を作るだけでなく、農家さんにパスしたり、または自分で野菜を作るようになる。さまざまなレイヤーの中で生産者に近づくことができるようになるのかなと思っています。
F.I.N.編集部
平間さんのコミュニティにはどんな方がいらっしゃいますか?
平間さん
2km圏内に在住の方か、働いている方が所属していますが、若い方から年配までさまざまです。とにかくコミュニティの熱量がすごいんです。日を追うごとに熱量が上がっていて、それこそ発酵していますね。2kmという距離感がポイントだと思います。
循環から生まれる
未来の贅沢の形
F.I.N.編集部
発酵して熱量のあるコミュニティっていいですね。自分が食べたもので、堆肥を作って、それでまたおいしい野菜が作れる。とても贅沢なことですよね。
たいらさん
未来の新しい贅沢の形だと思います。コンポストを始めると、スーパーで野菜を見る感覚も変わりますよ。それに分解されることを前提とした商品がもっと増えるといいですよね。消費者がそれを選ぶことで、もっと広まっていくはずです。
平間さん
そういうものが売れる世の中になるといいですよね。農家さんから直接買うというのはとても豊かなことなので、ぜひマーケットにも足を運んでください。土を作ることで、CO2の削減にもなるし、何よりも心が豊かになります。土を求めて移住しなくても、都市部で土に触れることができるんです。
たいらさん
この5年で何をするかで、地球の寿命が100年単位で変わると思います。ぜひまわりの人にも声をかけて、自分が中心となって何か始めてみてください。小さなアクションが大きなインパクトに繋がると思います。
たいら 由以子さん
〈ローカルフードサイクリング株式会社〉代表取締役。福岡市生まれ。大学を卒業後、証券会社に勤務。平成9年コンポスト活動開始、平成16年、NPO法人循環生活研究所を設立、国内外にコンポストを普及。生ごみ資源100研究会を主宰、循環生活研究所理事、コンポストトレーナー、NPO法人日本環境ボランティアネットワーク理事など務める。
平間 亮太さん
〈株式会社4Nature〉代表。2018年にサトウキビストローを扱う会社として設立。2020年8月に地域共同でコンポストをつくるプロジェクト「1.2 mile community compost(1.2マイル コミュニティ コンポスト)」を始動。〈COMMUNE 表参道〉を拠点にコンポストを回収し、熟成させ、野菜や植物の栽培を行うコミュニティ。コンポスト作りを学べるワークショップなどを開催し、土を通して人の交流を生むことを目的としている。
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