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2023.09.08

未来定番サロンレポート

第29回| 草木や虫が原料。「新万葉染め」で自然や人にやさしい染色体験。

夏休みに入ったばかりの2023年7月22日(土)、29回目の「未来定番サロン」が開催されました。未来定番サロンは未来の暮らしのヒントやタネを、ゲストと参加者のみなさんが一緒に考え、意見交換する取り組みです。

 

第3回目となる「ヨソオイノカタリバ」のテーマは「染め直し」。近年のファッション業界において、従来の大量消費・大量生産のシステムは、持続可能な方向へ見直しを迫られています。大切なのは「ものを愛して長く使っていくこと」。いま手元にあるものを少しの工夫で長く使えるようにする、一つの手段として「染め直し」に着目したイベントです。

 

講師としてお招きするのは、〈京都 川端商店〉の3代目・川端康夫さん。独自に開発した天然染料による染色技法「新万葉染め」について教えていただくとともに、参加者全員で実際に染色を体験。体験を通じて「染め直し」の可能性を探りながら、5年先の人とファッションの関係性についても考えました 。

 

(文:大芦実穂/写真:西あかり)

未来定番研究所の1階には、川端さんが京都から持ってきた新万葉染めのストールがずらり。なんとここに並んでいるだけでも100色ほどあるのだとか。どれもやさしい色合いで、並んだ様子を見るだけでも心がほっと落ち着きます。それぞれのストールには、「江戸の色」「京の色」といったシリーズ名称が付けられています。「江戸の色」は江戸時代から現代までの東京の風景を、「京の色」は京都の情景や空気感を、色彩豊かに表現したシリーズです。例えば、江戸の色のモスグリーンのような色は「代々木公園・風薫る」、紫色は「亀戸天神社・藤まつり」といった言葉で表現。万葉集から色のヒントを探り、日本の情緒を取り入れた色づくりを心掛けられているそうです。

京都の呉服屋の3代目が

染料について考え直す

お昼を過ぎた頃、新万葉染めのトークセミナーがスタート。「新万葉染め」とは何か、また川端さんが天然染料にたどり着くまでを自己紹介とともに教えていただきました。

川端さんは、京都の呉服屋の3代目として生まれました。高校卒業後は専門学校で京友禅やテキスタイルを専攻。呉服屋を継ぐ者として、染めの技術などを学んでいきます。しかし、川端さん自身はカジュアルなファッションが好み。普段着は、着物よりもっぱらTシャツにジーンズだったとか。そこで、Tシャツプリントの会社へ就職し、10年間勤めて技術を学びます。そして1995年に川端さんの最初の会社〈カワバタプリント〉を起業しました。

 

事業は好調でしたが、次第に従業員や川端さん自身の手が荒れるように。不思議に思った川端さんは、成分を検査する会社に依頼し、使用している薬品をすべてチェックしてもらうことにしました。すると環境ホルモンと化学物質の名前が上がり、それらの薬品にアレルギー反応を起こしていることがわかりました。

さらに追い討ちをかける出来事が。川端さんが服を卸していた子ども服ブランドに、1本の問い合わせが入りました。「子どもが服のプリント部分を食べてしまったが、大丈夫ですか」しかし、誰もそれが安全か答えられません。それまでは材料メーカーに言われた通りに染めていただけでしたが、本当にこれでいいのだろうか、という疑問が湧いてきます。

 

ちょうどその頃、工学博士である木村光雄氏による著書『自然を染める―植物染色の基礎と応用』に出会います。地球や人体に安全な服づくりがしたいと考え始めていた川端さん。これだ!と感銘を受け、すぐに木村先生に染めに関する相談をしたためた手紙を送ったそう。このことをきっかけに木村先生との天然染料を使った染色技法「新万葉染め」の共同開発がスタートしました。

「新万葉染めとは、草木や虫といった自然のものを乾燥させ、微粉砕したものを染料として染める技法です。同じく天然染料の『草木染め』では再現しづらい色彩を再現でき、何度も染め重ねが必要になる濃色も手間をかけずに再現することが可能です。染色による廃水に関しても、自然に還るものを使用することで環境に配慮しています」(川端さん)

100年以上前につくられたフレンチリネンを新万葉染めで染め直したもの。古い布などの染め直しにも最適。

また、公園などで植え替え時に破棄される植物を回収したり、障害者施設でマリーゴールド栽培の委託事業なども行っています。東日本大震災直後の5月には被災した仙台市に赴き、避難所にいる方に向けて染色のワークショップを開催。先の見えない避難生活のなか、少しでもストレスを和らげて楽しんでほしいという想いからでした。こうして、さまざまな場所や人と連携することで、天然染料の素晴らしさを広めてきた川端さん。

 

天然染料に対する川端さんの想いや活動、「新万葉染め」を生み出すに至った経緯を伺った上で、いよいよ体験会が始まります。今回は特別に未来定番研究所内に新万葉染め体験工房を再現していただきました。

2色の天然染料で作る

グラデーションストール

今回、新万葉染めをするのは綿のストール。2色を使いグラデーションに染めていきます。まずは参加者それぞれが色見本から染めたい色を決めます。

新万葉染めの色見本。穏やかな色合いが特徴。

どの組み合わせにしようか迷ってしまいます。

色を決めたら、川端さんが粉末状の染料を準備してくれます。染料はティーバッグのような紙の袋に入れられ、そこに各自少しずつお湯をかけながら色を出していきます。十分に色が出たところで、水の入った桶に流し入れます。2色分つくったところで染めの準備は完了です。

スカーフは2色にするため、まずは端から中央までを1色で染めます。その際にも濃淡のグラデーションを意識して、染液につけてはあげて、つけてはあげてを少しずつ繰り返していきます。中央まで染色液につけたら、今度は色を布に固定するための媒染剤に浸して、よく絞ります。もう1色も同様に染めていきます。

媒染剤につけると、化学変化でパッと色が変わるものもあって、思わぬ色にあちこちで感嘆の声が。「思っていたよりも明るくて爽やか!」「濃すぎちゃったかな、どうしよう」など、実際に染色してみると、参加者のさまざまな感想が聞こえてきます。

すべて染まったら、最後の仕上げにオリーブ石鹸でよく洗います。余分な染料を落とし、布に色を定着させていきます。この作業は川端さんが慣れた手つきでやってくださいました。

よく絞って乾かしたら完成です。どれも参加者の個性が出ていて素敵な仕上がり。川端さんからも「この組み合わせは夏らしくていいね」「ここはうまくグラデーションになったね」などお褒めの言葉をいただきました。

 

ワークショップを終えてからも、〈京都 川端商店〉のスカーフや新万葉染め体験キットを求めて、川端さんの周りに集まる参加者のみなさん。細かな質問にも真摯に答えてくれる姿が印象的でした。環境にも人間にも優しい天然染料。普段何気なく着ている服ですが、どのような工程で作られ、染められているのか、今一度考えるための良いきっかけになりました。もし着古して色褪せたり、シミがついたり、元の色に飽きてしまった服を、新万葉染めで染め直せば、新しい使い道が生まれそうです。

Profile

川端康夫さん

1959年、京都出身。〈京都 川端商店〉代表。京都の呉服屋の3代目長男として出生し、友禅工程とテキスタイルを学ぶ。1995年に独立し、〈カワバタプリント〉を開業。2007年、工学博士の木村光雄氏との出会いをきっかけに天然染料を使った独自の染色技法「新万葉染め」を共同開発。新万葉染めを広めるため、さまざまな場所で講演会やワークショップを行っている。

https://kawabata-shoten.com/

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