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2023.11.07
二十四節気新・定番。
「二十四節気」とは、古代中国で生まれ、日本でも古来親しまれてきた暦です。めぐる季節の変化に寄り添い、田植えや稲刈りの頃合いを告げる農事暦でもありました。今でも折々の季節を表す言葉として愛されています。「F.I.N.」では、季節の変化を感じ取りにくくなった今だからこそ、改めて二十四節気に着目する潮流が生まれ、季節の楽しみ方の新定番が出てくるのではと考えました。
第7回目に話を伺ったのは、京都の老舗和菓子店〈亀屋良長〉8代目店主の吉村良和さん。若手職人の育成のために、社内で「かめや和菓子部」を発足し、二十四節気をテーマにした和菓子を提案しています。季節のお菓子が、人間と自然のバランスについて考えるきっかけになると言います。
(文:大芦実穂)
若手チーム「かめや和菓子部」で
二十四節気のお菓子を企画
2019年から、40代以下の若手社員が中心となって「かめや和菓子部」を結成し、二十四節気に合わせたお菓子を企画しています。商品化が決まったお菓子は、期間限定で店頭でのみ販売しています。現在は地・水・火・風・空の五大要素を冠した4〜5チームの約20名で活動。各チームには職人だけでなく、事務や販売担当も入れて、1セクションごとに企画・制作・販売まで担ってもらっています。
11月8日の立冬には、この時期に咲く「寒菊」をイメージしたお菓子を販売予定。
立冬とは、ぐっと気温が下がり、いよいよ冬が始まるという頃。
木枯らしが吹き、早いところでは初雪の知らせが届きます。
今回は、霜が降りる時期に咲く「寒菊」をモチーフに、
旬の「ゆりね」を使ってきんとんを作りました。
表面には霜をイメージした氷餅をあしらいました。
彩りが少なくなる寒い季節に可憐に花開き、
見る者の目と心を潤してくれる姿を表しています。
ゆりねは、ユリの根の部分に養分が貯蔵されているので、
栄養豊富で漢方薬としても用いられています。
ほくほくとした食感があり、あんこと合わさることで、
とてもしっとりとした味わいに仕上がりました。
中は、丹波大納言の粒あんを包んでいます。
菓銘は「霜見草(しもみぐさ)」。
菊には様々な別名がありますが、
こちらは、冬に花開く寒菊の別名となります。
職人たちのやりがいを引き出す
社内の部活動としてスタート
発足する前は、若い職人の育成について課題を抱えていました。いわゆるミレニアム世代、Z世代と言われる方たちは、僕らの世代と違って、スパルタ教育では続かない。僕たちの世代だと、下積みが5年といったことは当たり前。10年続けて、ようやく自分のやりたいお菓子を作らせてもらえる、そんな時代でした。それでも辞めない人がほとんどでしたが、今の若い子たちに同じように接していたら、続かないんです。それから、職人仕事には練習がつきものですが、勤務時間外に練習する習慣がないし、なかなか技術が向上しない。僕は後継ぎというのもあって、若いうちから好きなお菓子を企画させてもらっていたので、お菓子作りの楽しさを知っていたんです。そこで、今の職人たちにも、10年も修行するのではなく、早めの段階でお菓子の企画に携わって、やりがいみたいなものを感じてくれたらと思い、「かめや和菓子部」を発足しました。
今年で5年目になりますが、季節のお菓子として定番化したものもあります。例えば、大暑(7月23日頃)をテーマとして制作した「ひと涼み」という名のお菓子。和菓子で伝統的なイチョウ型をスイカに見立てたもので、こちらは夏の定番になりました。
お菓子を作る際、チームのみんなに伝えていることは、そろばん勘定で考えないこと。最初から原価を計算していたら、良いものはできません。まずはお金のことは気にせず、おいしいものを作る。できたものから引き算すれば良くて、中途半端にはやらないこと。良いものができたら、値段を上げたって良いと思っています。
それから、技術的な面では、食べ物なので、おいしそうに見えること。ハロウィンなどでよく見られる、目玉や血を模したような見た目のものは、食べようと思わないので作らないようにしています。また、季節の色は、自然の移り変わりを表現すること。それ以外は基本的には自由な発想でやってもらっています。
季節の移ろいを知ることで
自然に生かされていると気づく
「かめや和菓子部」が取り組むテーマとして、二十四節気を選んだのは、和菓子の世界では基本的な事柄だからです。日本の文化では、季節の移ろいというものをすごく大事にしますよね。「かめや和菓子部」の取り組みを通して、二十四節気について知ることは、今後和菓子の世界で生きていく上で必ず役に立つと思っています。本店の休憩室には二十四節気七十二候についての本が置いてあって、休み時間などに自由に読めるようにしてあります。
僕としては、デジタル社会になったことで、季節が身近になったんじゃないかと思っているんです。SNSを見ていると、「中秋の名月」や「ひな祭り」などのキーワードが毎回トレンド入りしますし、今は世界中で撮られた美しい写真がいつでも見られるので、意外と季節に対して敏感になっているように感じます。そうしたメディアや僕たちの作るお菓子を通じて、自然に思いを馳せることで、僕ら人間が大自然の中で生かされている存在であると気づく。そうした気づきのきっかけを与えてくれるのが、二十四節気なんじゃないかと思います。
吉村良和さん(よしむら・よしかず)
1803年創業の京菓子店〈亀屋良長〉8代目店主。36歳で病気を患ったことをきっかけに、ヨガと瞑想をはじめる。2016年に本店をリニューアルし、新ブランドの立ち上げやコラボ商品の企画、ホテルや喫茶店のお菓子の開発なども積極的に取り組んでいる。
【編集後記】
200年以上続くブランドの伝統と、時代に即した柔軟な取り組みを両立されていることに感動しました。亀屋良長さんとして長い歴史の中で変えないところと変えるところを明確に持っていらっしゃるのは、吉村さんが日々季節や時間の移ろいを感じているからなのかもしれません。毎日のなかでの微かな変化とともに、普遍的なことにも目を向けて大切にしていきたいと感じました。
(未来定番研究所 中島)
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