二十四節気新・定番。
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2023.03.10
5年後の答え合わせ
2017年に「Future Is Now」を立ち上げてから早5年。目利きのみなさんに、「5年後の定番は?」、「5年先の未来はどうなっているのか」など、さまざまな質問を投げかけてきました。本連載では、その回答の答え合わせを行っていきます。
第4回にご登場いただくのは、「料理人が自ら食材を採りに行く」と答えてくださった、吉岡秀治さん・知子さん夫婦からなる料理ユニット・OKAZ DESIGNさん。5年たった今、自分の足で食材を揃える料理人が増え、農家の近くで料理を始める人も多くなったように感じます。お二人の当時の思いを振り返りながら、料理人や食の未来を伺います。
(文:船橋麻貴/写真:峰岡歩未)
■5年前のOKAZ DESIGNさんのご回答
Q.あなただけが気づいている、5年後には定番になっている「もの」や「こと」は何ですか?
料理人が、より良い食材を求めてもっと自然の中に入っていくようになると思います。今は、自ら畑に足を運び、食材を揃える料理人が増えてきていて、次は少しずつ森にも足を運んで、山菜やキノコ、木の実を採る料理人が増えるのではないでしょうか。東京だけで暮らしていた時は、自分の中に料理のイメージがあり、それに食材を沿わせるところがありました。でも、岡山県の蒜山にもうひとつの生活の拠点を設けたことがきっかけで、身の回りにあるたくさんの食材を無駄にしないように生かすことや、今が旬のものを生かすというように、食材主体で料理を考えるようになったんです。森で食材を採ることは、体力的にも簡単ではないですし、きちんと知識を持たなければ危険でもあります。しかし、自然の湧き水やとれたての食材を使って料理することは、田舎の人たちにとっては当たり前のことでも、東京の人たちはそのおいしさに本当に驚きます。料理人にとって自然がより身近になっていけばいくほど、世の中の人たちの食に対する考え方も良い方向に変わるのではないでしょうか。
料理人がさらに学び、食はもっと健やかに。
F.I.N.編集部
5年前、5年後の定番として、「料理人が自ら食材を採りに行く」とご回答くださいました。改めて、なぜこの答えに行き着いたのか教えてください。
知子さん
すでに自分たちが東京と、岡山県蒜山(ひるぜん)の森の中で二拠点生活を始めていたことが、その理由として大きいですね。当時から蒜山と東京都杉並区にある店〈カモシカ〉を2週間ごとに行ったり来たりしていて。毎回車で8時間かけて現地まで行くのですが目的は、その土地の湧水、森の中の山菜やキノコ、猟師さんからいただくイノシシやシカの肉などの現地の食材。これらを持ち帰って、〈カモシカ〉 で料理してお客さんに提供していたんです。その時からそういう暮らしをしていたので、この回答にたどり着いたのはごくごく自然な流れでした。
秀治さん
当時、料理人に必要だと感じていたのは、現地の生産者のお手伝いしたりして、そこで得た食材を使って料理をすることでした。なぜなら、それほど鮮度のいい旬のものはおいしいからです。僕たち自身も蒜山の水に出会って、素材の持つ力に驚いていたんです。蒜山の水を使って出汁を取るだけでも旨味の引き出され方が全く違う。純粋においしいものをお客さんに提供したいという気持ちが料理人にあるから、「料理人自ら食材を採りに行く」のは当たり前になると考えていました。
F.I.N.編集部
5年たった今、自ら食材を採りに行く料理人が増えたという実感はありますか?
知子さん
確実に増えましたね。先日熊本に行き、レストランのシェフが自分たちで作った野菜で料理をされていて、「週一しか畑に行けないのが悩み」とおっしゃっているのが印象的でした。つまりお店が休みの日は畑に行っているわけです。それでも「全然疲れないし、畑に行くことが喜び」とも話していて。当たり前にこう言える料理人が増えてきたなぁと感じています。
秀治さん
そうそう。それを聞いて、おいしさをより求めると、自分の生き方も自然とそこにリンクしていくのが面白いなぁって。料理人と産地の距離が近ければいいというわけではなく、よい食材を使いたいという気持ちがそうさせるんだと。
F.I.N.編集部
そういう料理人が増えたのはなぜでしょうか?
知子さん
コロナの存在が非常に大きいと思います。とくにコロナ禍1年目の2020年は、飲食店の休業などが続き、料理人は自分と向き合う時間ができました。コロナ自体は大変なことだし、うちのお店も打撃を受けましたが、料理人が「食」に真摯に向き合うきっかけになった。本質的なことをより求めるようになったのは、とてもいい流れだと思っています。
F.I.N.編集部
では、この5年間、OKAZ DESIGNさんの変化はありますか?
知子さん
お店を休業したり、テイクアウトメニューを出したり、席数を減らしたりと、コロナ禍に入っていろいろなことを行いました。当時は蒜山との二拠点生活がままならない状況だったので、蒜山以外の食材にも目を向けるようにもなりました。東京をはじめとした関東近郊の農家さんとも親しくなって、新たに食の豊かさに気づいたりもしましたね。
秀治さん
それから、庭栽培にも力を入れるようになったんです。マスタードやニンニクなどを育てたんですが、なかでも成功したのがルッコラ。今では自然に生えるようになって、それを採ってスタッフみんなで賄いに食べたりして。
知子さん
あとは生活者側の方々の変化も感じていて、コロナ禍以降、「癒される」と口にされるお客さんが増えたんです。これまでは仕事しているのが当たり前で疲れている自覚がなかったけれど、コロナ禍を経て自分のことに敏感になったのではと思います。コロナ禍が強制的に生活に余白を与えたから、そういう忙しいのが当たり前という価値観から徐々に解放され始めているのでしょうね。
F.I.N.編集部
OKAZ DESIGNさんの料理に癒される人も多そうですね。
知子さん
私たちの料理はどちらかというと地味で静かな感じですが、食べているお客さんはお風呂に入っているような表情を浮かべてくれるんです。どこかほっとしているような。食はエンターテインメント要素もありますが、私たちはほっと落ち着く料理を届けていきたい。だから、誰かの癒しになれるのはとても嬉しいですね。
F.I.N.編集部
次の5年間でどんな「もの」や「こと」が定番になっていると思いますか?
秀治さん
引き続き、地方に目を向ける料理人は増えていくと思います。その土地の酒蔵やワイナリーの元に、料理人やベイカーが集まって料理イベントをしたりと、新しいつながりが生まれています。だから、もっともっと地方が面白くなっていくと確信しています。
知子さん
コロナ禍で料理をする人が増え、今では料理好きな方とプロの料理人の差がそんなになくなったような気がします。そうした中で食を追求する料理人は、料理以外のことも学び始めるのではないでしょうか。大学に入り直してもう一度栄養学を学んだり、薬膳の研究をして自分のレストランに持ち帰ったり。そんな風に食を暮らしまで掘り下げる方向が進み、おいしさはもちろん、より体にいいものを提供する傾向になっていくのでは、と。この料理人の食事を味わうと元気になる、健やかになる。自分に向き合うことができるようになった今、料理人は体が求める本来のおいしさを追求していくと思います。
OKAZ DESIGN
2000年に吉岡秀治さんと吉岡知子さんによって結成された夫婦ユニット。「時間がおいしくしてくれるもの」をテーマに、シンプルで普遍的なもの作りを目指す。書籍や広告のレシピ制作・器の開発・映画やドラマの料理監修などを手がける。2008年より東京都杉並区にて、器と料理の店〈カモシカ〉を月に一度オープン。映像では映画『食堂かたつむり』、NHK朝の連続テレビ小説『てっぱん』『半分、青い。』『ちむどんどん』の料理の制作に携わる。著書は『沖縄食堂ごはん』(オレンジページ)、『二菜弁当』(成美堂出版)、『マリネ』(主婦と生活社刊)など多数。
【編集後記】
コロナ禍を経たことで、人の癒しに対する欲求が顕在化したと言われていますが、食の追求を通じて癒しを与えていらっしゃる吉岡さん夫婦や料理家の方々は素敵だなと思いました。
またこの取材で、お二人は「次の5年でもっともっと地方が面白くなっていく」と教えてくださいました。今まで地方は東京の良いところを真似して…という時代もあったようですが、最近は方向転換し、独自の特徴を強調することが増えてきていると思います。結果的に、その地域に魅力を感じた人たちが集まってくることで、個性豊かな場所が増加し、地域ごとに活気ある良い未来が待っているのではないかと感じる取材となりました。
(未来定番研究所 榎)
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