もくじ

2023.10.04

地元の見る目を変えた47人。

第17回| 大事にしているのは、住む人が楽しめるまちづくり。〈たじみDMO〉COO・小口英二さん。

「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。

 

第17回にご登場いただくのは、岐阜県多治見市のまちづくりを行う〈たじみDMO〉で COOを務める小口英二さん。美濃焼やタイルなどの工芸品で知られる多治見市で、まちづくりをしています。2019年、商店街にあった老舗のビル一棟をリニューアルして、書店や喫茶店が入った〈ヒラクビル〉をオープン。商店街に活気が出たと、地元の人からも喜ばれています。〈ヒラクビル〉に続くように多治見の街には新しいお店もいくつかできていて、この地域を楽しくしたいと活動する人が増えているそうです。小口さんはどのようにまちづくりに関わるようになり、どんな思いで多治見市を拠点に仕事をしているのか伺いました。

 

(文:宮原沙紀)

Profile

小口英二さん(おぐち・えいじ)

長野県岡谷市生まれ。大学進学のために石川県金沢市へ移住後、まちづくりを行う会社〈金沢商業活性化センター〉に入社。その後、市町村の行政計画を策定する会社でコンサルタント業務に就く。2009年から岐阜県多治見市に拠点を移し、〈多治見まちづくり株式会社〉(現たじみDMO)に入社。2010年多治見のやきものを使った〈カフェ温土〉をオープン。2020年にCOOへ就任。2019年に〈ながせ商店街〉内のビルをリノベーションし、〈ヒラクビル〉をオープンさせた。

金沢ではじめて経験した

まちづくりの仕事

岐阜県多治見市のまちづくりに、2009年から携わる〈たじみDMO〉COOの小口英二さん。まちづくりに関わり始めたきっかけは、大学進学のために移住した石川県金沢市での出会いでした。

 

「大学進学のために金沢に住んでいました。勉強よりもバイトを頑張っているような不真面目な学生で、ホテルのバーや、飲食店などで働いていました。あまりにもバイトに力を入れすぎて、ある時飲食店のオーナーから『小さな店を開くから、そこをやってみてはどうか』と言われたんです。同年代のバイトの同僚と2人で店を任せてもらえることになりました。小さな店だったので、売り上げや集客を上げるために悪戦苦闘。街に出てビラ配りもしました。店に人が来ないわけではなくて、街に人がいないということをその時にはじめて知ったんです。この状況をどうにかしたいと思うきっかけになる出来事でした」

 

飲食店の運営に奮闘し、一生懸命働く日々。そんなある日、小口さんの運命を変える出会いがありました。

 

「金沢の商店街の皆さんが、イベントの打ち上げで私の店に来てくれたことがありました。その時、旧知の先輩と偶然再会。その人がまちづくりの仕事をしていたんです。『バイトをしているんだったら、うちの会社で働かないか』と声をかけていただきました」

 

尊敬するメンターに出会い、まちづくりの業界へと飛び込みました。

 

「大学の最後の年で就職も決まったので、大学を辞めて会社に通うように。最初は、声をかけてくれた先輩の仕事についてまわっていました。仕事の内容は、まちづくりのためにいろんなお店や社長のところに行ってお金を集めるなどの調整業務。先輩が地元の錚々たる社長さんたちと渡り合っている姿がとてもかっこよく見えて、この人みたいになりたいという思いが大きくなっていきました。そしてこの仕事の楽しさにハマっていったんです」

 

金沢でまちづくりの面白さを知った小口さん。4年ほどの月日をその会社で過ごします。

 

「自分なりに、地域内に人脈ができてきたことが嬉しかったです。しかしどんな仕事でもうまくいく時も、いかない時もあります。一度仕事が上手くいかなかったタイミングがあり、金沢の会社を辞めました。その後、それでもやっぱり地域に関わる仕事がしたいと思い、都市の計画づくりをするコンサルタントの会社に就職。全国をまわりながら、さまざまな自治体の計画づくりをしていました」

多治見の街に感じた

頑張る人を応援する空気

コンサルタントの仕事はやりがいがありましたが、もっと地域の現場に携わりたいという思いが強くなりました。そんな時、多治見でまちづくりの仕事があるという情報を手に入れたんです。

 

「当時30歳だった私は、子どもが生まれたばかりだったので移住について妻に相談しました。『やりたい仕事をやってほしい』と背中を押してもらい、一度下見がてら、多治見を訪れました。現地の人とも会うなかで『ぜひあなたにやってほしい』と声をかけていただき、多治見の会社に入社することになりました」

 

その時まで小口さんは多治見に行ったこともなく、地名を知っている程度でした。最初は不安も大きかったそうです。

 

「実際に足を運んでみて、驚いたのは金沢との人口の違い。果たして仕事を依頼してくれるクライアントが見つかるのだろうかという不安は少しありました」

 

しかし、一方で移住の背中を押してくれるような街の雰囲気もあったと言います。

 

「会社の社長が私のことをとても気にかけてくれて、いろんなところに連れて行ってくれました。また地域の方々もすごく関心を持って声をかけてくれたので、すぐにここに馴染むことができました」

 

多治見市には、「地域を良くしよう。その為に頑張ってくれる人を応援しよう」という空気があると語る小口さん。その理由は一体なんでしょうか。

 

「多治見市では〈たじみビジネスプランコンテスト〉という街の活性化のためのビジネスプランを定期的に募集しています。最初にグランプリをとった方がすごく街に貢献してくれていて、また次のグランプリをとった方を育てる動きがあり、そのような成功体験に支援側も勇気づけられています。だから多治見のために何かをしたいと思う人の夢を叶えてあげよう、創業まで一緒に頑張ろうという空気が流れているのではないでしょうか。地域の活性に繋がることであれば、労を惜しまない人がたくさんいるんだという印象がありました」

活動していくなかで感じた

商店街の変化

移住後、小口さんが早速取り組んだのは街の人たちとコミュニケーションを取ること。地域の皆さんに集まっていただいて、膝を突き合わせて街の課題や、やりたいことを話し合う機会を設けました。

 

「コミュニケーションを取るなかで、ここはやきものの街なのだから、やきものに関連するカフェを作ろうというプロジェクト案が出てきました。実は商店街の皆さんがずっとやりたいと思っていた夢だったそうです。しかし自分のお店をやりながらでは、なかなかできない。それを聞いた時に、私は実家も飲食店ですし、金沢でも飲食店をやっていた経験もあり、得意な分野だと思って取り組むことを決めました」

 

2010年の7月に〈カフェ温土〉をオープン。旬の野菜をたっぷりと使い、多治見の器で提供します。

 

「お店に来てくれるお客さまに、サービスを通して多治見の良さを発信することで喜んでいただけています。そして同時に街の皆さんにも『まちづくり会社ってこういうことができるんだ』という実例を見せたかった。空き店舗を店に変えて、人がそこに集まるようになる具体例を示すことができました。それによって行政や街の人たちから、私たちの仕事を理解していただいたという手応えがありました」

人々が楽しい時間を過ごす場所

〈ヒラクビル〉をオープン

2017年から多治見駅の近くの〈ながせ商店街〉にあるビルの再生プロジェクトが始まりました。

 

「商店街の中心にあるビル一棟が空いてしまっていました。そこは2013年に閉店した、地元で愛されていた時計店〈宝石・時計・メガネのワタナベ〉というお店。地元の多くの方が初任給で時計を買った、結婚指輪を買ったなど、たくさんの思い出が詰まっているお店だったんです。そんな話を聞いていたので、なんとかここを再生したいと思いました」

 

このビルのコンセプトは、「過ごす場所を作る」こと。多くの人が楽しい時間を過ごせるような場所づくりが始まりました。

「商店街はなかなか長時間滞在ができる場所ではありませんでした。車が通れる商店街なので、車を店の前に停めて用事を済ませるとすぐに出ていってしまいます。そうではなく、駐車場に車を停めていくつかの店舗を回ってほしい。『過ごす』ことをテーマにテナントも、具体的なアクションも選んでいこうと思いました」

 

そこで考えたのが書店。直営で書店を経営する案もありましたが、地元に昔からある書店〈東文堂〉が協力してくれることになりました。本棚にはやきものに関係する本もたくさん置かれています。

 

「地域の人に読んで欲しい本を仕入れて特色のある書店を作りたいという思いを共有し、全国の書店を東文堂さんと一緒に巡りました。また本が好きな人が増えるようなイベントも一緒に開催しています。YONDAY(ヨンデー)という野外本屋のイベントで、子どもたちへの読み聞かせや、屋外での本の販売、本に出てくるドリンクやフードを楽しめる企画や本棚を作るワークショップなど、本にまつわることをしています。回を重ねるごとに、サポーターで高校生や中学生も入ってきてくれて多世代で運営することができました。」

 

書店のほかに、読書ができる喫茶店「喫茶わに」やレンタルスペース、シェアオフィスなどが入ることが決まりました。〈ヒラクビル〉のプロジェクトがはじまってから、商店街にも変化が出てきたと言います。

 

「ビルを作っている最中、商店街の皆さんと『〈ヒラクビル〉が完成したら商店街に来る人が増えるから、自分たちの店にもお客さまが来てくれることを考えましょう』と一緒に勉強をしながら過ごしていました。そこでお客さまに向けた情報誌を作ろうというアイデアが出て、委員会ができあがりました。施工中は、リノベーションの現場に来て壁塗りや掃除を手伝ってくださる方もいました。多くの方に楽しみにしていただいて、力を貸していただいたんです。のちのち自分の店を持ちたいという夢を持つ創業前の人たちも結構来てくれていたようです。次のプレイヤーたちも集まってくれる現場になったことを嬉しく思います」

 

街の人のやる気も刺激した〈ヒラクビル〉。2019年の開店は多くの人に歓迎されました。地元に住む人も多く訪れて、ビルの完成を喜んでくれたといいます。

 

「街の人の思い出が詰まっている場所ですし、造りも立派だったので残せる建築は残すようにリノベーションをしています。表にある世界時計は、街の皆さんに親しまれていたのでそのままに。ある日、多治見市内に物件を所有している高齢の方が見に来てくれました。その方が『こんなふうに生まれ変わるなら、ぜひ私の物件も君に任せたい』と言ってくださって。とても嬉しかったです」

多治見市を

若い世代が活躍できる街に

〈ヒラクビル〉のオープンした2019年には、前年に比べ〈ながせ商店街〉の通行量が倍増。他の地域から訪ねて来る人も増えています。

 

「〈ヒラクビル〉のオープンと同じ年に、築50年の空きビルを改装した〈新町ビル〉ができました。セレクトショップやギャラリーが入っていて、とても人気があります。多治見を訪れた方が回遊できるようなお店が増え続けているんです。お客さまも増えていますが、訪れる先のお店も年々増加。そしてお店同士の交流も活発で、私も〈ヒラクビル〉のスタッフも〈新町ビル〉の方や他のお店の方ともつながりを持ち、お互いのお店をお客さまに紹介しています。そんな様子が楽しそうに見えて、自分もやってみたいと思う方も増えているのかもしれません」

 

今後もイベントを企画し、ますます街を盛り上げていきたいという小口さん。

 

「これからは〈ヒラクビル〉をしっかり育てていくことはもちろん、面白いお店があればテナントに入ってもらうなどリニューアルもしていく予定。どんどん形態を変えながらも、『人が過ごす場所で、人が集まる場所』であり続けたいと思っています。そして今後は宿泊の事業をやりたい。多治見の素材を使い、この場所の良さを感じられるような宿を作ることが目標です」

 

さまざまな活動をしていくなかでも、小口さんには一貫したポリシーがあります。

 

「私は一番に、地元の人たちの暮らしを楽しくしようと思っています。商店街の皆さんが楽しんでいれば、そこに人が集まると思います。まずは地域の皆さんに楽しんでいただく。そういった姿は拡散されますし、地元の人たちが良いと思ったところは、違う地域から来た人に『多治見に来たらここにいかなきゃ』と紹介したくなります。その連鎖が必要です」

 

次の5年後、10年後、小口さんは多治見の街の未来をどのように描いているのでしょうか。

 

「また次の世代の新しいプレイヤーが出てきて、ますます街が活気づいているといいですね。今実際そういう子たちが増えている。私はもちろんここに住んで活動していきますが、たくさんの人たちと一緒に多治見市を楽しくしていきたいです」

〈ヒラクビル〉

住所:〒507-0033 岐阜県多治見市本町3-25

HP:https://hiraku-bldg.com/

Instagram: @hiraku_bldg

【編集後記】

「まずは地元の人々の暮らしを楽しくする」というポリシーが、結果的に来街者にとって魅力的なまちになっているというお話に感銘を受けました。

このポリシーがまちにいくつもの良い連鎖反応を生むきっかけとなり、多治見市は、今後も地元の関係者が協力し合いながら、より魅力的な場所へと発展していくのではないでしょうか。情熱的な個人の取り組みと地域コミュニティの結束が、地域の明るい未来を築くカギとなることを感じました。

(未来定番研究所 榎)

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