2020.09.11

ハッシュタグで認知を広めた葉山町。 町の活性化はSNSから始まる時代。

さまざまなSNSが存在するいま、公共団体でもSNSを使った声の上げ方をしています。なかでも先駆けでもありフォロワー数が多い自治体のSNSとして知られる神奈川県葉山町の公式インスタグラム・アカウント(@hayama_official)のフォロワーは、3万人超。自治体の公式アカウントとしては異例の多さを誇っています。「#葉山歩き」というハッシュタグを設けて、一般ユーザーにも葉山町の魅力が伝わる写真の投稿を促すことで、町の発信力を強めています。そんな葉山町役場でインスタグラム投稿を担当している葉山町政策財政部政策課の碇野陽基さんと河野香織さんに、SNS を利用するメリットや町民からの反響、町の変化など、これからの時代の声の上げ方についてお話を伺います。

少子高齢化・人口減少を解決するために

スタートした、SNSの取り組み

F.I.N編集部

インスタグラムを始めたきっかけや目的について教えてください。

碇野陽基さん(以下、碇野さん)

SNS自体、ツイッターやフェイスブックはすでに活用していましたが、インスタグラムは2015年に立ち上げました。ちょうど少子高齢化に伴う人口減少問題に対する広報の取り組みに悩んでいたとき、若い職員が「最近では何を調べるにもSNSでキーワード検索して調べている」と話したことをきっかけに、SNSを活用した取り組みをもっと進めてみようということに。葉山町は、若者の転出が多い反面、海も山もある穏やかな環境を求めて転入してくる子育て世代が多い町でもあります。そういう強みを生かしながらも、若手の転出をできるだけ抑えたいという課題がありました。

F.I.N編集部

インスタグラムを始めてすぐの反響はいかがでしたか?

碇野さん

最初は、いい写真を投稿していればファンはつくかなと思い、1日1投稿を目標にやっていました。しかし、役場がインスタグラムの取り組みをしていることを話しても、町民からの認知度は低く、フォロワー数も伸び悩み、さっそく壁にぶち当たりました。そこで、実際にインスタグラムをやっている人たちや見てもらう対象の人たちに、どんな写真や投稿が魅力的なのか直接聞いてみるためにオフ会を催したんです。具体的には、インスタグラムで「#葉山歩き」をつけて素敵な写真を投稿していた方に声をかけて、町民の皆さんに「写真のコツ」や「葉山のおすすめ写真スポット」を発表してもらいました。

リアルな繋がりが生まれる

オフ会の開催

F.I.N編集部

オフ会後、どんな反響がありましたか?

河野香織さん(以下、河野さん)

オフ会後のアンケートで、「職員の人が、職員っぽくなくフランクで親近感があって良かった」などの声が多くありました。インスタグラムでなかなか伝わっていなかった「親近感」ですが、オフ会では「親近感」があって良かったと言ってもらえました。そこで、それまでの投稿は行政らしい文体でしたが、「タメ口投稿」といった「親近感」のある文体に変えることで、フォロワーも「いいね」数もどんどん増えていきました。

F.I.N編集部

これまで、他にどのようなオフ会を開催されたのでしょうか?

河野さん

オフ会は、交流はもちろんですが、1つの課題をみなさんと一緒に解決するということを目的に開催しています。これまで5回催しましたが、5回目では#葉山歩きの写真をまとめた「HAYAMA NOTE」の2冊目を制作するにあたり、アイディアを募りました。特に参考になったのは、サイズです。“葉山歩き”というだけあって持ち歩きやすいサイズがいいという意見が多く寄せられました。女性はバッグが小さい人が多いし、ズボンのポケットにも入るようなサイズ感にこだわりました。またノートぺージも増やして、思い出を書き込んだり、次に行きたいスポットなどを書き込んだりできるようにしました。

葉山らしさをちりばめた

生活が垣間見える投稿写真

F.I.N編集部

フォロワーの方もご自身の写真が「HAYAMA NOTE」に選ばれると嬉しいですね。葉山町側の投稿写真はどのような点に気をつけていますか?

碇野さん

写真のコンセプトは、「葉山の町に住んでいたら見ることができる風景」です。インスタグラムは外へ向けて移住や定住を促進したいという取り組みでもあるので、例えば、物陰からのぞいた時に見える景色だったり、町民のみなさんの生活風景や散歩している様子だったり、住んでいる人のエピソードや生活スタイルが感じられるような写真を心がけています。ポイントは、露骨にここが葉山とわかる写真ではなく、山や海、空など葉山らしい風景をさりげなく入れること。また、インスタグラムは1つの写真で完結するのではなく、これまでの投稿写真が並んだ状態でも見られます。それぞれの写真に、葉山らしさをちりばめて、色の寒暖が偏らないようにすることでそうするといろいろな表情が感じられて、明るく賑やかな印象になります。

F.I.N編集部

町民やフォロワーからはどんな声が寄せられていますか?

碇野さん

葉山町のインスタグラムのいいところは、オフ会などを通して“顔が見える関係”が作れていることだと思います。投稿に対して温かいメッセージをくれたり、その場所とご自身の思い出エピソードをコメントしてくれたり、時には写真に対してもっとこうするといいのではと愛のあるご指摘も。距離感が近く、メッセージのやりとりをしているのに近い感覚。結びつきの強いファンの定着に繋がっていると思っています。葉山町の公式インスタグラムではこれまでに約1,500枚の写真を投稿していますが、「#葉山歩き」を付けた一般の皆さんによる投稿は、82,000件を超えています。これによって、行政が一方的に発信する魅力だけでなく、町民や外から訪れたみなさんが発掘した魅力が広く発信されているので、とても良い仕組みだなと思います。一緒に葉山町の魅力をみつけていく感覚ですね。

F.I.N編集部

インスタグラムをはじめてから、人口などに具体的な変化がありましたか?

碇野さん

インスタグラムの影響だけではないと思っていますが、社会増減は増えています。統計では、はじめたタイミングでかなりプラスに転じているのは事実です。インスタグラムの強みは、口コミでどんどん広まって、人へどんどん伝染していくことだと思っています。実際に葉山町に転入した方にきっかけを尋ねると、人からの口コミと答える人が多いんです。そう考えると、インスタグラムのように口コミに寄与するような取り組みは、今後も一番大事になると考えています。

声を上げやすい環境づくりが

よりよい町づくりに

F.I.N編集部

現在感じている課題はどのようなことでしょうか?

碇野さん

インスタグラムの活用が下火というわけではありませんが、時代に合わせたより良いPRの仕方が今後の課題です。数年前にインスタグラムにストーリー機能が導入されたことで、当初静止画がメインだったのが動画に移ってきています。活用の仕方が時代に合わせてめまぐるしく変わっているし、写真で満足していたのが動画でないと満足できなくなってきている傾向もあります。しかし、自治体で動画を投稿していくのはなかなか簡単なことではなく、より企画力も必要になると思っています。その中でも何をどう活用してうまく発信していくかが課題だと思っています。

F.I.N編集部

5年先の未来について、どのように考えていますか?

碇野さん

SNSができてから、人の声が格段にあげやすくなっていて、各自治体も全国に向けて声を届けやすくなりました。その一方で声のあげ方や人の巻き込み方がより大事な仕掛けになってくるなと思っています。そのためには、同じSNSでもその時々の時代に合わせて、使い方や活用方法をしっかり研究して使っていく必要があると感じています。

河野さん

最近では、町民の方からは「インスタグラム見たよ」と声をかけてもらえるようにもなり、役場を身近に感じてもらえるようにもなっています。SNSを通じてリアルな繋がりも強まっていますし、行政だけでなく町民からの声も上がりやすい環境や雰囲気を作っていくことが、よりよい町づくりにも繋がっていくのではないかと思っています。

葉山町役場 政策課

住所:神奈川県三浦郡葉山町堀内2135

電話番号:046-876-1111

Instagram:@hayama_official

編集後記

私は、今回の取材を機に初めて葉山を歩きました。海辺の真っ白な家、裸足で歩いている親子、サーフボードを抱えて歩いている初老の男性。町の広報担当でなくても、この良さを周りに伝えたい、と思わせるような景色にたくさん出会いました。そんな葉山の魅力を伝えるためにインスタグラムを活用した葉山町役場の取り組みは、まるでSNS活用のお手本のようです。この文章を書きながら、また葉山町を訪ねたくなりました。(未来定番研究所 富田)