もくじ

2023.01.09

目利きたちの、目が離せないアカウント。

第2回| 稀人ハンター・川内イオさんが選ぶ、未来の農業を変えるかもしれない農家アカウント。

普段から目にするSNSのなかには、陰ながら応援したくなる人、刺激を与えてくれる人がたくさんいます。目利きたちは一体どんな人をフォローしているのか、いま注目しているアカウントを教えていただく連載です。

 

第2回目の目利きは、稀人ハンターの川内イオさん。国内外の「規格外な稀な人」を発掘し、取材を続けています。川内さんはとある農家の方の取材がきっかけで、農業にビジネスとしてのポテンシャルを感じさまざまな農家の取材をはじめました。その記録をまとめた著書『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』、『農業フロンティア 越境するネクストファーマーズ』(ともに文春新書)、農家を含む「食」に携わる人たちの新たな取り組みを取材した『稀食満面 – そこにしかない「食の可能性」を巡る旅』を上梓しています。

 

今回、川内さんに挙げていただいたのは新しい取り組みで、日本の農業の明るい未来を感じさせる農家のアカウントです。

 

(文:宮原沙紀/イラスト:sanaenvy)

Profile

川内イオさん(かわうち・いお)

フリーライター、稀人ハンター。

広告代理店勤務を経て、2003年にライターとして活動を開始。サッカーやビジネスなどの記事を手掛けてきた。2013年頃からジャンルを問わず各地で活躍する「稀な人」を追う稀人ハンターとして、規格外な人々を紹介し、仕事や生き方の多様性を伝えている。最新著書に、食を通して地域の可能性を拡げる人々を紹介する『稀食満面-そこにしかない「食の可能性」を巡る旅-』(主婦の友社)がある。

http://iokawauchi.com/

5Kと言われた農業に起こりつつある革命。

農業はきつい、汚い、かっこわるい、稼げない、結婚できない。いわゆる「5K」というイメージを持たれています。実際、後継者不足や耕作放棄地の問題など、多くの課題が山積していることは事実。しかし僕は稀人ハンターとして、たくさんの人を取材してきたなかで農業に対するイメージが変わった経験があります。それは、2018年に静岡県浜松市のピーナッツバターメーカー「杉山ナッツ」を取材したとき。代表の杉山孝尚さんはアメリカで会計士をしていましたが、故郷に戻り落花生の栽培からピーナッツバターの製造までひとりではじめました。創業から数年で年間3万個のピーナッツバターを売り上げ、かつ日々の生活にも満足している様子を見て、「農業には想像以上の可能性があるのかもしれない」と感じたんです。その後も農業の取材を続けていたら、全国各地に面白い人がたくさんいました。他業種から就農し新しい取り組みをはじめた人もどんどん増えていて、従来の農業とは違う動きが出てきているんです。今、僕が注目している農家の方のアカウントを紹介します。

農福連携のパイオニア、京丸園。

まずは、静岡県浜松市の京丸園。水耕栽培によるミニサイズのネギや、みつばなどオリジナル商品「京丸姫シリーズ」を生産しています。農業では今「農福連携」という言葉が注目されています。農福連携とは、障害を持っている人が農業に従事することで生きがいを持って社会に参画していく取り組み。一方、農業の現場では働き手が不足しています。高齢化も深刻化していて、従事者の平均年齢は67.9歳。農業と福祉が連携すれば双方の課題解決につながるのではないかと考えられているのです。1997年から障害者の雇用を始め、今ではさまざまな障害を持つ20名以上の人が働く京丸園は「ユニバーサル農業」という言葉を掲げ、この25年で売り上げを6倍以上に伸ばしました。そのポイントは、京丸園の代表、鈴木厚志さんが、障害を持つ人にできることをやってもらうという発想ではなく、彼らの得意なことを生かせるよう作業のシステムを変えてきたこと。例えば、動作がゆっくりであるほど虫が取れる機械を開発し農薬を使わなくても良くなった事例など、多様な人が集まるからこそ浮かんだアイデアを形にした成功例がたくさん。そんな環境でおいしい野菜をつくり続け、売り上げを伸ばしています。Instagramでは、農園の様子や野菜を使ったレシピも紹介しています。

京丸園のSNSアカウント

農業の課題解決をする若きエキスパート、佐川友彦さん。

次に紹介するのは、ファームサイド株式会社代表の佐川友彦さん。東京大学を卒業し外資系化学メーカーで研究開発に従事したあと、栃木県宇都宮市の阿部梨園にインターンとして参画しました。昔ながらの農家では、現場や経理などの内部の作業もアナログなやり方がそのまま続いている場所が多いようです。ITを活用したスマート農業という言葉も出ていますが、それらを取り入れる以前の段階であることもしばしば。注文はFAXで受け付け、勤怠も手書きといった方法が続いている場所がたくさんあります。阿部梨園も同じような課題を抱えていました。佐川さんはインターンの期間中に70件以上の経営改善、業務改善いわゆる「カイゼン」を実行。いきなり最先端のITを取り入れましょうといったものではなく、梨の木全てにIDを振って管理しやすくすることや、従業員の作業時間を集計し、可視化することで業務の効率化を図るなど、目の前の課題を一つひとつ解消していきます。インターンを終了した後は、阿部梨園に入社し総計500件ものカイゼンを実施。売り上げは大幅にアップしました。そのノウハウをまとめた本『東大卒、農家の右腕になる。』(ダイヤモンド社)は、農家の方々のテキストのような存在になっています。今は独立し、農業のコンサルタントとして全国での講演に飛び回っています。Twitterでは、彼の近況を知ることができます。

佐川友彦さんのSNSアカウント

牛肉の生産過程をリアルに発信、田中畜産。

最後に、牛飼いのリアルをYouTubeで発信する田中畜産。YouTube、Instagram、TwitterなどのSNSをフル活用していて、全部で7万人以上のフォロワーがいます。代表の田中一馬さんは北海道酪農学園大学を卒業し、2002年に田中畜産を設立。兵庫県で但馬牛というブランド和牛を生産しています。肉牛を扱う畜産農家は分業制で、牛に子を産ませ、その子牛を3歳くらいまで育てるのが繁殖農家、その後子牛を引き取って育て、肉にするのが肥育農家。肉を販売するのは精肉店と役割が明確に分かれています。田中さんは繁殖農家ですが、自分たちで肉の販売も行っていてこれはとても珍しいことです。まだクラウドファンディングという言葉もない頃から、放牧を使った牛肉生産をはじめるために支援を募り支援者限定で牛肉を販売したり、経営が厳しかった頃に牛の爪を切る削蹄師の資格をとったりと、さまざまなことに挑戦し続けてきました。ブログやSNSでありのままを発信する姿にファンがつき、オンラインで350人前の肉を売ると告知したときも、販売してすぐに完売してしまいました。Youtubeでは、放牧していた牛が怪我をしてしまったなど、トラブルも包み隠さずオープンにしています。僕たちが日常的に食べている牛肉ですが、それが作られる過程をほとんど知らないというのも事実。彼のSNSを見ることで、牛肉ができるまでの背景をより深く知ることができると思います。

田中畜産のSNSアカウント

僕が取材してきた農家の方々に共通するのは、新しい視点を持っていること。既存の仕組みを壊すというよりは、別の考え方を取り入れるというイメージです。「出る杭は打たれる」なんて言葉があります。農業の現場にも少し前までは新しいことに挑戦しようとすると、釘を刺されるということもあったようです。しかし農業に従事する人がどんどん高齢化していってしまっている今、衰退していく現場を見て寂しく思っている人も多く、新しい農業を応援してくれる人も増えてきてチャレンジしやすい環境になっているといいます。他業種からの新規就労も増えている農業、今後は若い人にとっても魅力的な職業になっていくんだと感じています。これからもこの分野のイノベーションに注目していきたいです。

【編集後記】

農業に山積する課題に対して重要なのは、抜本的に改革するということではなく、大切にすべきことは残しつつ「こんなやり方もありなのでは?」と新しい視点を増やすということかもしれません。まさに今、良くないイメージの5Kとして捉えられていた農業が、魅力的なかっこいい産業というイメージに変わってきているのだと思いました。

(未来定番研究所 小林)

目利きたちの、目が離せないアカウント。

第2回| 稀人ハンター・川内イオさんが選ぶ、未来の農業を変えるかもしれない農家アカウント。