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2023.03.02
地元の見る目を変えた47人。
「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。
第10回にご登場いただくのは、栃木県佐野市の〈関塚農場〉代表・関塚学さん。豊かな自然が残る山間の地域で、米や大豆、麦などの有機農業と、平飼い養鶏などを行っています。また、地域おこしの「あきやま有機農村未来塾」を立ち上げ、ヤマブドウのワインをつくる会や、酒米の田植え、お茶づくりイベントなどを企画。
地元ではない、栃木県に居を構えた理由とは?20代の頃、ワーキングホリデーで行った、オーストラリアでの生活にカギがありました。そして、20年近く地域のために活動を続けてきた関塚さんが今思うことなども伺いました。
(文:大芦実穂)
関塚学さん(せきづか・まなぶ)
〈関塚農場〉代表。
その他、日本有機農業研究会 理事、あきやま有機農村未来塾 事務局長、下秋山町会 産業部長なども務める。1973年、埼玉県生まれ。1997年、ワーキングホリデー制度を活用し、オーストラリアに1年間滞在。オーストラリアでのファームステイの経験や環境NGOへの参加などから有機農業に目覚める。2002年、栃木県佐野市秋山町で新規就農。著書に『有機農業という最高の仕事』(コモンズ)。
縁もゆかりもない土地に、
20代後半で新規就農。
関東平野が終わり、本格的な山がはじまるところ――。世帯数84、人口わずか178名(*1)の小さな集落、栃木県佐野市秋山町。行き交う車はほとんどなく、人間よりもシカやイノシシたちのほうが多く暮らす。四方を森に囲まれ、集落を流れるのは、いずれ渡瀬川や利根川に合流する河川・秋山川。そんな場所に、関塚さんのファームはありました。
*12021 佐野市統計
https://www.city.sano.lg.jp/material/files/group/2/sanoshitoukeisho.pdf
ここでは、米や大豆、麦の有機栽培をはじめ、鶏の平飼い、農業研修やファームステイなどを行っています。関塚さんが暮らすのは、父親と一緒に建てた、ハーフビルドの木と漆喰の家。自然エネルギーを取り入れられるよう、薪ストーブや五右衛門風呂、囲炉裏、炭ごたつ、かまどなどを活用しているそうです。
この町に住んで約20年。埼玉県の都市部の出身で、栃木県には縁もゆかりもなかったと言う関塚さんが、ここへ至るまでの道のりを聞きました。
「2002年、29歳のときに、有機農業で独立したいと思いこの地へ引っ越してきました。親は地方公務員で、非農家。私は長男で家を継がなくちゃいけない雰囲気だったのですが、『自分は農業をやる!』と飛び出してしまった。でも、北海道や九州など、実家からあまりにも遠い場所だと両親に申し訳ないし、車ですぐ帰れる場所ならいいだろうと。そんななか、土地を探しに車を走らせると、関東平野が終わり山がはじまるこの地域を見つけました」
そうして、この土地で新規就農。夢だった有機農業をスタートさせます。秋山町の人々は、外から来た関塚さんに対して、意外にも歓迎モード。ここでのびのびとやりたいことを実現させていきます。
オーストラリアのワーホリで、
有機農業と田舎暮らしに出会う。
有機農業とは、大まかにいうと、農薬、化学肥料、遺伝子組み換え技術を使用しないこと。
関塚さんが有機農業に興味を持ったのは、24歳のときにワーキングホリデー制度を利用して訪れたオーストラリアでのファームステイがきっかけでした。
「ワーキングホリデーで行ったオーストラリアでは、有機農場で働いていました。仕事が終わると、みんなで暖炉の前に集まって、火を見ながら今日のできごとなどを話し合うんです。こんな暮らしがしたいなと田舎暮らしに憧れてしまって、日本に帰ったら農業をやろうと決めていましたね」
オーストラリアで生活したからこそ、日本の土地の素晴らしさにも気がついたと関塚さん。
「オーストラリアは乾燥していて水が少ないけれど、日本は水資源が豊富。だからこそお米も作れる。秋山地区は水が綺麗なことも特徴ですね。
それから、環境問題についても当時から関心があったので、なるべく自然エネルギーを使って暮らしたいとも考えていました。今は『天ぷらカー』と言って、自家用車を天ぷら油の廃油で走らせることもしています」
鳥獣被害対策がきっかけで、
地域おこしの未来塾を創設。
秋山地区は、イノシシやシカ、サルやハクビシンなどが多く生息する地域。関塚さん自身も2005年頃より鳥獣被害対策に励んできましたが、2010年から栃木県の鳥獣被害対策モデル地区として、東京農工大学や宇都宮大学、それから地域の方たちと連携し、さまざまな対策を行うように。たとえば、外部からボランティアを募って、地域の人々と一緒に草刈りをしたり、竹の伐採、山と畑の間にフェンスを設置するなどしてきました。
これらの活動が評価され、2015年に地域おこしとして「あきやま有機農村未来塾」を立ち上げることになりました。
「秋山地区では、ほかの農村地域の例に漏れず、住民の高齢化、過疎化が進んでいます。地域の問題や課題を共有し、地元の方々が生きがいを持って生活できるような地域にすること、農業体験イベントなどを企画し、都市住民と地元住民の交流や、移住者の促進を図ることなどを目的にスタートしました。
こう聞くとなにやら難しそうですが、中身はもっとシンプルで楽しいもの。簡単に言えば、地域住民の手で特産品をつくろうという取り組みです。たとえば、手もみ茶をつくるイベントの開催、ヤマブドウでワインづくり、酒米を植えて地酒づくりなどです」
これまで、田植え稲刈り、ヤマブドウの植樹祭などさまざまなイベントを企画。なかでも、手もみ茶づくりは大盛況。長野県や群馬県、茨城県など、県外からもたくさんの人々が参加してくれたのだとか。
「イベント終了後に、参加者のみなさんに感想を尋ねると、『景色がいい』とか、『空気がおいしい』『地元の人が優しい』などと言ってくださる方が多くて、この地域の良さみたいなものを再認識できた気がします。地元の方も、外の方にそう言ってもらえるのって、すごくうれしいし、やっぱり誇らしいですよね」
有機農業を軸に、
地域へ貢献していきたい。
ここ数年はコロナ禍もあり、未来塾の活動はやや低迷気味だったそうですが、「今年こそ、ヤマブドウのワインを完成させてみたい」と関塚さん。これからの目標についても伺いました。
「この20数年、未来塾や鳥獣被害対策の活動に突っ走ってきました。最近はもう少し自分たちの経営のことを考えなきゃと思っています(笑)。栽培している大豆などを使って、味噌や納豆などのオリジナルプロダクツの販売も始めました。今度、宇都宮のお豆腐屋さんからうちの大豆を使用した豆腐が出るんです。卵も、東京都北千住のレストランが使ってくれたり、妻がお弁当屋さんをはじめたので、そこにも使ってもらったり。自分たちが育てたものが、いろいろなかたちになって広まっていくのはうれしいですよ」
最後に、農業の魅力はなんですか?と聞くと、次のように話してくれました。
「自分が育てたものを口にできるって、とても幸せなことだと思います。空気もおいしいし、何よりも体を動かすのが好きなので、たくさん動いてお腹が空いて、疲れて眠る。こんな幸せなこと、ほかにはありません。農業研修やファームステイも行っているので、ぜひ有機農業に興味のある方は、体験しに来てみて、そしてこの地域の良さを知ってほしいです」
【編集後記】
海外生活から有機農業の素晴らしさや日本の自然の豊かさに気づき、自ら行動している関塚さんのバイタリティは、地元の方にも伝わり、地域の変革に繋がっているようです。
ワインづくりや加工品づくりなど、地域の良さを見出している関塚さんのさまざまな挑戦が、地域の外にも広がっています、今後の活動が楽しみです。
(未来定番研究所 窪)
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