メイドインジャパンを継ぐ人。
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2023.12.20
地元の見る目を変えた47人。
「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。
第20回にご登場いただくのは、熊本県山都町から発信するアイスクリームブランド〈BLANCO ICE CREAM(ブランコアイスクリーム)〉の代表・吉山龍弥さん。作業療法士として働く傍ら、地元の有機作物を使用した、無添加のオーガニックアイスクリームを製造・販売しています。福祉に携わるなかで見えてきたのは、障がい者や高齢者の雇用問題。そうした社会課題を解決するため、地元にUターンし起業しました。そんな吉山さんの現在地と、これからの展望などを伺いました。
(文:大芦実穂)
吉山龍弥さん(よしやま・りゅうや)
熊本県山都町生まれ。大学卒業後、作業療法士として、児童福祉施設や発達障害児専門クリニック、認知症特化型デイサービスに勤務。地元にUターンし、〈BLANCO ICE CREAM(ブランコアイスクリーム)〉を起業。2021年、グロービス経営大学院卒(MBA取得)。
山都町を全国に届ける
オーガニックアイスクリーム
一度見たら忘れられない、ポップなパッケージに入ったおしゃれなアイスクリーム〈BLANCO ICE CREAM〉は、2021年5月、熊本県山都町出身の30代の男女3名によって創業されました。
特徴は、山都町を中心とする地域で採れた、有機野菜や果物などを原材料としていること。また、製造からパッケージングまで、すべて手作業で行っていることです。フレーバーは、「塩キャラメルミルク」や「天草レモンミルク」などといった定番8種類に加え、料理家のたかはしよしこさんが考案した「エジプト塩」を使った期間限定のコラボレーションなども実施。最近では、アメリカ・ポートランドのコーヒーショップの豆を使ったコーヒーフレーバーも発売されました。
「山都町を全国に届けたいという思いで作っているので、アイスクリームをはじめ、すべてのプロダクトには、どこかに必ず『YAMATO』という文字を入れるようにしています」と話す吉山さんが、山都町に帰ってきたのは数年前のこと。それまでは、熊本市内に住み、作業療法士をしていました。現在も、アイスクリーム業と並行して、平日の日中は作業療法士の仕事をされている吉山さんですが、最初に福祉の世界に足を踏み入れたのは、大学を卒業してすぐの頃でした。
「医療系の大学を出て、山口県にある障がい者福祉施設に就職しました。仕事にやりがいを持って取り組んでいたある日、障がいを持つ子の親御さんから、『この子たちは将来働けるんでしょうか?』と聞かれて、うまく答えることができませんでした。今、僕がやっている作業療法って、本当に彼らの役に立てているのか。疑問を感じるようになりました」
また、作業療法士として勤務する中で、福祉の経営の難しさや施設としてのビジネスと患者さんの病状改善を願う気持ちとの間にジレンマを感じて、吉山さんは揺れていました。社会性と経済性を両立することはできないものかと考え、経営学を学ぶために大学院に入学します。大学院でノウハウを学び、将来障がいを持つ子どもたちが大きくなった時に働きやすいと思える場所を提供したいと、徐々に起業への気持ちが高まっていきました。
大学院卒業後、ソーシャルビジネスで全国にインパクトを与えている企業に身を置きたいと考え、障がい者就労支援などの事業を展開する(株)LITALICOへ転職。その後、地元・山都町で〈BLANCO ICE CREAM〉を起業しました。
「地元で起業したことの大きな目的は、自分の大好きな山都町に何か恩返しができないか?と考えたことがきっかけです。就労や地方の課題も解決していきたいですし、同時に地方創生にも貢献できたらいいなと思っています」
高齢化が進む地元の
課題を解決すべく起業
「起業する前、たまたま山都町の広報誌を見ました。そこには30〜50年後の山都町の人口推移が載っていました。その数値に衝撃と絶望を感じたことを覚えています。何か自分にできることはないか、小さなことでもいいからできることから始めよう!そう感じたことが起業を後押ししました。
お店のある山都町は、東京23区分くらいの広い面積に、人口が1万5000人程度しかおらず、ほとんどが山間部という自然豊かな町です。熊本市内からは車で1時間くらいの場所に位置するのですが、現在は高齢化が進み、人口の約6割が高齢者。戦後は栄えたこともあったようですが、今はほとんどが空き家かシャッター街になっています」
高齢者が約6割を占めるため、地域では深刻な後継者不足に直面。さらに追い討ちをかけるのが、移動の問題です。都市のように公共交通機関が発達していないため、住民の移動手段は必然的に車になります。高齢者は免許を返納すべき、と言われますが、返納してしまうと、今度はスーパーや病院にも行けなくなり、自由がなくなってしまうと吉山さんは話します。山都町は元気な高齢者の方々が支えていると実感し、高齢化が進む地域の課題も解決したいと地元にUターンすることにしました。
「山都町は、オーガニックタウンと言われるほど、有機栽培が盛んです。アイスクリームであれば、ほとんどの農作物を材料として使えるのではないかと思ったのが、この業界に絞ったきっかけです。実際に、お店に並ばない規格外の野菜などを直接農家さんから買い取って使用しています。また、高齢化や人手不足から、作物をすべて収穫しきれないといった問題があるのですが、そうした野菜や果物を自分たちで採りに行って、仕入れています。これまでブルーベリーやユズ、イチゴなど収穫してきましたが、農家さんからは『鳥やイノシシの餌になるだけだったからありがたい』と言っていただいています」
山都町で何かを始める
同世代が増えてきた
起業して、丸2年。いい循環が生まれていると吉山さん。
「ここ1年くらいで、山都町でビジネスを始める同世代が増えてきました。最初に〈BLANCO ICE CREAM〉を手伝ってくれていた子も、昨年独立してお店を始めたんです。みんなでまちを盛り上げようという雰囲気があります」
また、「ちょっと頑張らないと来られない山都町に、〈BLANCO ICE CREAM〉を目指して来ていただくことで、まちを知ってもらういい機会になっている」と吉山さん。さらに、地域に住む方にもある変化があったそうです。
「1個100円台のアイスが当たり前の地元で、1個540円のアイスクリームが売れるようになったのは、すごいことだと感じています。山都町で作っているアイスが、全国に届いているということが、まちの人の自信にもなったら嬉しいですね」
耕作放棄地を利用した
ハーブ栽培プロジェクト
最近、山都町の耕作放棄地で、ハーブを栽培するというプロジェクトも始動。ここで作られたハーブを使ってできたのが、オーガニックハーブティー〈TEAPARLOR by BLANCO(ティーパーラー・バイ・ブランコ)〉や、フレグランスブランドの〈SANVA(サンバ)〉です。〈BLANCO ICE CREAM〉の派生として、さまざまな事業が誕生しています。
「耕作放棄地が抱える問題として、害虫や害獣の増加や、ごみの不法投棄などがありました。そうした土地を生かして、何かできないかと考えたのがハーブを使ったプロジェクトです。農家の方を苦しめる元の課題を解決したいと考えています。
また、当初は障がいを持つ方の働き口として、アイスクリームブランドを始めたのですが、クラフトアイスの製造工程がかなり複雑で、工場のように半自動化しない限り、働いてもらうのが難しいという結論も見えてきました。例えば、数分おきに材料を入れる、など簡略化が必要です。その点、農業は福祉と相性がいいので、こちらで雇用を促進したいと思っています」
5年後、10年後、〈BLANCO ICE CREAM〉はどのようになっていたいですか?と聞くと、次のように答えてくれました。
「まずは続けること。10年後も続いていることで、まちの希望になったらいいなと思います。それと同時に、地域の課題を解決することです。インパクトのある活動をしていくために、規模を大きくすることは必要だと思うのですが、〈BLANCO ICE CREAM〉のアイスはハンドメイドなので、量産することが難しく、今はそのバランスを考えているところです。地方活性化の一つのロールモデルとして、将来教科書に載ったらうれしいね、なんて話をしています」
〈BLANCO ICE CREAM〉
【編集後記】
この連載を続けてきて地域への貢献の仕方は本当に様々なかたちがあるのだと感じます。
九州のへそと呼ばれる山都町で雇用創出、規格外野菜の活用、耕作放棄地などいくつもの社会課題に向き合う吉山さんの取り組みが次の地元を盛り上げたいと思う人に繋がっており、とても良い循環が生まれているのだろうと思いました。
また吉山さんは仕事をアイスクリームの製造・販売事業に絞るのではなく、作業療法士としてのキャリアを続けながら、副業のようなかたちで事業を展開しています。この柔軟なアプローチは、起業する際のハードルを下げており、他の多くの人々にとって参考になるのではないでしょうか。
(未来定番研究所 榎)
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第20回| 障がい者・高齢者の雇用のため、アイスクリームから始める。〈BLANCO ICE CREAM〉代表・吉山龍弥さん。
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