地元の見る目を変えた47人。
2023.04.06
つくる
暮らしを豊かにするために、また時には、地域や社会の課題を解決するために、人々が集い、考え、学び、何かをつくり出す場所があります。
今回は「つくる」をテーマに、ユニークなワークショップやプロジェクトを開催し、地域の「つくりたい」をキャッチする3つの施設にお聞きします。
デザイン・クリエイティブセンター神戸、山口情報芸術センター、せんだいメディアテークにインタビューを行いました。前後篇にわたり「つくる」を考察していきます。
(文:三國寛美)
ものづくりワークショップ/デザイン・クリエイティブセンター神戸
お答えいただいたのは・・・
企画部門広報 大泉愛子さん
ーーーデザイン・クリエイティブセンター神戸(以下 KIITO)で2013年から続く「ものづくりワークショップ」は、どのようなプログラムなのでしょうか?
KIITOでは、アートやデザインを採り入れ、より豊かに生きることを活動のコンセプトに掲げて、展覧会、ワークショップ、トークイベント、プロジェクトなどを展開しています。
ものだけではなく、ことのデザインにも企画を通して取り組んでいるのですが、その中で、「ものづくりワークショップ」は「もの」のデザインを知る、学ぶプログラムです。
家や職場など、私たちは沢山のものに囲まれて生活していますが、それらはすべて誰かによってつくられています。目に入るものすべてがそうだと言えるのではないでしょうか。
「ものづくりワークショップ」では、「出来上がるまでのプロセスを、技と知識に触れながら自らの手で辿ること」「ものの価値やつくり手の想いを体感すること」「ものづくりの背景を知ることで、ものの見方や価値観を提案すること」を目指し、2013年よりシリーズで実施しています。
作るものは食べ物から伝統工芸までさまざまで、これまでに、みそ、ペーパーコードの座編みスツール、コートラック、藍染め、シャツ、テーブル、フラワーベース、棕櫚箒(しゅろほうき)、バブーシュ、めがね作りなどを行いました。
参照: つくる PROJECT https://kiito.jp/project/make/
ーーー暮らしの中で、すぐに使えるものばかりですね。参加者の反応はいかがでしたか?
ものづくりに関しては、出来上がるまでのプロセスや歴史や文化、作り手の思いや考えなどは、本や映像で知ることはできますよね。でも、どのくらい時間や手間がかかっているのか、実際に自分の手でつくってみることで、わかる部分もあるのではないでしょうか。
これまでに参加した方からは、「シャツを1枚作ることがこんなに大変だと思いませんでした。もう2,000円ではシャツは買えないです。」というような感想をいただいたりします。手作りのものって決して安くはないと思います。けれど、そこまでにかかる手間暇や労力を知るとその値段が何を意味するのか、視点が変わるんですよね。
それに、やはり自分でつくり上げたものは皆さんとても大事に使われていらっしゃって。「ワークショップで作ったスツールを今でもメンテナンスしながら使っています。」といった声をいただいています。手軽に買えるから、壊れたから買い替えるというのではなく、手入れしながら大事に使う。それは、ワークショップでの経験によりもたらされた消費に対する考え方なのだと思います。
ーーー各回の「つくるもの」は、どのように決めているのでしょうか?
大きくは、ものづくりに対する思いです。
関西を中心とした作り手の方とご一緒することが多いのですが、卓越した技術やつくられているものの美しさだけではなく、ものづくりについての考えや姿勢など、その熱量に惹かれてご相談をすることが多いです。
ーーー「ものづくりワークショップ」では、どのような場になることを目指していますか?
普段使っている身の回りにあるものは、誰がどのようにつくっているのか。その背景にある想いや考えなどを実際に聞き、手を動かすことによって、それが一時的なものではなく、参加した方の中に経験として蓄積されていくことが重要だと思っています。
つくって体験して良かった、で終わらない、つくることを通して得た経験や実感が、視点や思考を耕すことに繋がっていけば豊かですよね。
デザイン・クリエイティブセンター神戸
神戸市がユネスコ創造都市ネットワークのデザイン都市に認定されたことから、その創造の拠点として2012年にオープン。神戸市・三宮の海側に位置し、旧生糸検査所を改修した建物で、愛称 KIITO(キイト)として親しまれている。
meet the artist メディアとしての空間をつくる
/山口情報芸術センター[YCAM]
お答えいただいたのは・・・
アーキビスト/ドキュメントコーディネーターの渡邉朋也さん
ーーー山口情報芸術センター(以下YCAM) では、これまでどのような取り組みをされてきたのでしょうか?
メディアテクノロジーを用いた芸術表現の分野を軸に、教育や地域コミュニティにも取り組んできました。芸術表現においては、主にインスタレーション作品や、ダンスや演劇などのパフォーミングアーツ作品の制作を行ってきました。ここで得られた成果をもとに教育プログラムの開発を行ったり、企業や研究機関の連携などを進めています。
ーーーダンスや演劇をはじめ、子ども向けに続く『コロガル公園シリーズ』もそうですが、身体性を重視した取り組みも多く企画されています。
身体は、人間が世界を捉える時の基本的な単位です。老若男女問わず、性質の違いこそあれ、身体を持たない人間はいません。しかし、最先端の科学をもってしても未知の部分が多い概念でもあります。メディアテクノロジーや芸術表現を介して、身体に対する新しい洞察をもたらすことが、自分自身をはじめとする人間への理解はもとより、社会に対する理解やアップデートへと繋がると考えています。
空き家をゆっくりと解体しながら、更地になるまで続く。
ーーー山口市内の空き家を使ったプロジェクト『meet the artist メディアとしての空間をつくる』についてお聞かせください。
モチーフは「空間」で、YCAMの近隣にある古民家をベースに一時的な文化施設をつくろうとしています。具体的には、通常の30分の1程度のペースで、建物をゆっくりと解体しながら、そこでイベントを開催するということをひたすら繰り返しています。10代から70代まで幅広い層がおよそ70名ほど参加しています。
ーーー家をゆっくりと解体する・・・通常ではできない経験ですね。
ゆっくりと壊すことで、家とは異なる状態が生まれたり、内と外が溶け合った状態が生まれます。そうした状態を読み込みながらYCAMがこれまで培ってきた公演や展覧会などのイベント制作のノウハウや、クリエイターとのネットワークを駆使して、多種多様なイベントを開催してきました。最終的に更地になるまで、プロジェクトを続けていきます。
ーーー「メディアとしての空間をつくる」とありますが、2004年の開館時から11年まで続いていたプロジェクト『meet the artist』と接続しているのですね。
『meet the artist』は、いわゆる「市民メディア」の立ち上げと運用を、アーティストなどの実践者と市民が一体となって1年間かけて行うものです。美学者の吉岡洋さんを迎えて雑誌をつくったり、演出家の高山明さんと市街劇をつくったりしました。2011年度にメディア論研究者の桂英史さんを迎えて、コミュニティラジオ局をつくりましたが、2012年から『コロガル公園シリーズ』に力点を移していたこともあり、その後はしばらく実施していませんでした。
2022年、コロナ禍により、なし崩し的にコミュニケーションのあり方の変化を迫られるなかで、いわゆる「場」が持つ力、空間を介したコミュニケーションのあり様を、公共文化施設としていま一度捉え直す必要があるだろうと考え、実施するに至りました。
参考リンク:meet the artist https://www.ycam.jp/projects/meet-the-artist-2022/
ーーーどのような方たちが、どのような思いで参加されたのでしょうか?
モチーフは「空間」ですが、素材となっているのは空き家であるとはいえ、ごくごく一般的な住宅です。言うまでもなく住宅は、私たちにとってとても身近な装置です。しかし近年、法改正などや環境意識の高まりもあり、高い断熱性能や耐震性能を持つ住宅が増え、そのこと自体は歓迎すべきことではありますが、一方でかつての在来工法でできた住宅のように、住む人が自分の力でつくり替えるような糊代は少なくなってしまいました。強い言葉で言い換えればブラックボックス化していると言えるでしょうか。
少なくない生活者にもこの流れに対する実感はあるようで、住宅という身近な装置を通じて、その裏側にある仕組みや、改変可能性をじっくりと紐解こうというマインドをお持ちの方は多く、そうした方が参加されています。
また山口は全国的な平均に比べて空き家率が高く、大きな課題になっています。中高年以上の市民の中には身近な場所に親類縁者の空き家があり、その処遇に困っているという方など、今後の利活用のヒントを求めて参加される方も多いです。もちろん文化的なイベント全般の企画・制作・運営に関心を持つ方も多く参加されており、数多くのイベントを通じてプロジェクトメンバーは増えていったと思います。
ーーー参加者からは、どのような感想が寄せられましたか?
一概に語ることはできませんが、地域の中に人が集まる場所をゼロからつくる機会はなかなかあるものではありませんから、プロジェクトを進める中でさまざまな利害調整が発生します。そうした過程を通じて、公共施設や文化施設と言われるものの成り立ちを知ることができた、協働のためのノウハウが得られたなどの感想がありました。
山口情報芸術センター [YCAM]
2003年、山口県山口市に開館したアートセンター。市立図書館が併設され、展覧会やダンスや演劇などの公演、映画上映もコンスタントに行われている。2012年より取り組む子ども向けの『コロガル公園シリーズ』には、3ヶ月の会期中に約5万人が訪れたことも。「ともにつくり、ともに学ぶ」を掲げ、「共創」を通じた山口市の文化的基盤の向上や人材育成を目指し、そこから生み出された作品やプロジェクト、教育プログラムなどを世界に向けて発信している。
ワケあり雑がみ部/せんだいメディアテーク
お答えいただいたのは・・・
企画・活動支援室長 清水有さん
ーーー2017年より、アーティストの藤浩志さんと「部活動」として取り組まれている「ワケあり雑がみ部」は、どのような活動なのでしょうか?
この活動は、仙台市のごみ分別区分の一つである「雑がみ」(紙箱、紙袋、包装紙など)をテーマとした、市民参加型の部活動です。
部活では「雑がみ」を収集・分別した後、工作・展示するなど利活用をしながら、紙への理解を深めたり、造形の楽しさを感じたりしています。
参考リンク:ワケあり雑がみ部 https://artnode.smt.jp/project/zatsugami
ーーー部員のみなさんは、どのような作品をつくられていますか?
みなさん、大変ユニークな作品を残していただいています。
こちらは佐藤ちかさんの作品です。普段お店でもらうような紙袋の取っ手部分をカットし、それをほぐして裂き、つなぎ合わせ、紙の糸玉を作ります。それらを素材に、植物や動物をモチーフにかぎ針で編み上げる方法で作品を制作しています。
適度によれた取っ手が作品に風合いを与えていて、毛糸には見られない素朴な質感がとても素敵です。「素材」自体を新たに生かしていく表現に昇華している作品が本当にユニークだと思います。
ーーー最近では、1940年代の貴重な包装紙が、雑がみ部に届けられたそうですね。公開されている記録映像には、東京の百貨店の包装紙もありました。仙台の商業史をたどる、貴重な資料とのことでしたが。
そうなんです。「大丸」や「高島屋」のものなどもありました。その中でも一番多かったのが仙台の老舗デパート「藤崎」のものでした。1940年代といえば戦中戦後の時代ですよね。
この貴重な包装紙は元藤崎社員だった女性がお持ちだったものです。女性の家族が「雑がみ部」にお持ちくださったのですが、終戦直後に使われた藤崎の包装紙約180枚がありましたので、これは貴重な、仙台の戦後商業史を伝える活きた資料であると、「藤崎」へ寄贈を提案しました。
そのご高齢の女性にとってはこの包装紙は、ご自身の勤務された記念であり、懐かしい心の思い出だったのでしょう。
ーーー「雑がみ部」では、どのような方たちが、どのような思いで、つくっているのでしょうか?
部員のみなさんは、主婦の方や学生さん、お母さんに連れられた子どもたち、リタイアされたシニアの方々など様々ですね。その中に、アーティストや、ワークショップをやってきた方などもいらっしゃいました。みなさん、それまでの経験が作品によく表れています。
作品に没頭し、「つくる」ことが楽しいというのはもちろんのこと、「つくる」という行為を起点として、思ってもみなかった人とつながること、つくる「素材」を通じて社会を知り、新たな学び・視点を得ることなど、さまざまな方向に可能性が広がっていることに、みなさんは魅力を感じているのではないでしょうか。
ーーーそして、部活動で生まれた作品を個展形式で紹介する「展示で雑がみ部」も登場しています。
時間をかけ、アート作品のような出来栄えを持つ作品なども、たくさんできてきたのですが、7階の雑がみ部の活動エリアにまで来てもらわないと、見ることができなかった。
それで、メディアテークのすぐ目の前の大通りである「定禅寺通り」から見えるところに、ショーウィンドウのような展示場所を設置し、多くの方々に見ていただくようにしました。
ーーーさらには館外でのワークショップや、コロナ禍で始まったオンラインでの試み「おうちで雑がみ部」など、活動の場を広げながら続いています。この「ワケあり雑がみ部」が続いているのは、どのような理由からだと思いますか?
まずこのプログラムが、多くの人に無条件に愛されている理由には、誰でも、いつでも、どこでも「つくる」ことができるということ。
そして、おりしも「環境問題」への意識の高まりが、一般の人にも浸透し、何かしら関わってみたいという興味関心にヒットしていること。
そして今のところ「雑がみ」という材料は、無限にあり、それを使って「つくる=手を動かす」という行為が、表現に繋がり、つくる「場」をつくってきて、そこには笑顔があったということだと思います。
せんだいメディアテーク
2001年、仙台市に開館した公共文化施設。建築家・伊東豊雄の代表作の一つとしても知られ、街のランドマークとなっている。仏語で棚などを意味するテーク(theque)とメディア(media)の合成語で、さまざまなメディアを利用して、市民の知的な活動を支援するという思いが込められている。図書館、市民ギャラリー、16・35ミリフィルムを含む多様な映像メディアに対応するスタジオシアター、広場のようなオープンスクエアなどを有し、展覧会、上映会、ワークショップなどを開催。また、市民やアーティストとの協働により東日本大震災の記録にも取り組んでおり、そのアーカイブは映像音響ライブラリーで一部公開されている。
せんだいメディアテークの「雑がみ部」の活動から見えてきた「つくる」の広がりは、後篇へと続きます。さらにKIITOとYCAMにも、「つくる」から広がる未来についてお聞きします。(後篇はこちら)
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