2022.03.25

つながり

人とのつながりが面倒なのはなぜ? 困窮者支援を30年間行う〈NPO法人抱樸〉奥田さんが考える「これからのつながり」。

私たちはさまざまな人と関係を結ぶ中で、「人はひとりでは生きていけない」と実感するものです。一方で、人間関係の“断捨離”や“リスクヘッジ”の言葉に象徴されるように、人とのつながりに対してわずらわしさを感じたり、損得勘定が働いてしまったりすることも。

 

コロナ禍で人と人とのつながりが希薄な今だからこそ考えたい「これからの人のつながり」とはーー。

 

絶対的な答えのない問いと向き合うため、お話を伺ったのは北九州を中心に30年以上にわたって生活困窮者の支援を続けている牧師の奥田知志さんです。奥田さんはホームレスの自立支援のほか、子どもや障害者の支援など「ひとりにしない支援」に注力。一連の活動は食事や住まいなどを提供する「問題解決型支援」と同時に、「つながっている」ことが支えとなる「伴走型支援」との両輪で行っています。奥田さんの言葉から、これからの時代に求められるつながりのかたちのヒントを探っていきます。

 

(文:南澤悠佳/イラスト:光家有作)

なぜ、つながりにわずらわしさを感じるのか

本来、誰かとつながることはいい面ばかりじゃありません。なぜなら関係の構築は相互性で成り立っているから。つまり相手に何かをしてもらうのと同時に、必然的に自分も相手に何かをする立場に身を置くことになるわけです。

 

2010年に起きた「タイガーマスク運動」をご存知でしょうか? 児童養護施設に「伊達直人」名義でランドセルが贈られたことをきっかけに、全国で「伊達直人」を名乗る人が続出し、寄附が連鎖した出来事のことです。

 

美談として語り継がれていますが、そもそもなぜ当時の人々はちゃんと名乗らなかったのでしょうか。それは「つながることが怖かった」からだと思うんです。匿名にすれば一方的に渡すだけで済みますが、名前や顔を明らかにして子どもたちと関係を結べば、「ランドセル以外にもこれが欲しい」「これは欲しくない」と次から次へと要望が出てくるかもしれない。こうした「つながりによるリスク」を避けたかったのでは、と私は思います。

 

つながることへのわずらわしさや恐怖心が生まれる原因のひとつには、日本社会に蔓延する強烈な自己責任論も挙げられます。何かを引き受けたのなら、それを選んだ本人が責任を全部引き受けないといけないと思わされてしまう。「0か100か」の風潮が強いですよね。

日本の家族観がもたらす、つながりへの強迫観念

こうした風潮が生まれやすい理由は、身内主義的な考え方の根強さも関係していると思います。日本では何か問題が起きたとき、本人が解決できないなら家族が引き受けろというスタンスが強い。

 

その典型的な社会問題が「8050問題(※)」です。全国で高齢の親の死体遺棄事件が頻発していますが、なぜ子どもたちは親が亡くなったことを届け出ないのか。そこには2つの問題があると思います。1つは親の年金で生活しているから、死亡届を出して年金が止まったら生きていけなくなってしまうこと。もう1 つは子どもが長年ひきこもっていて、親が亡くなった際にどうしたらいいのか相談する人がいないこと。

 

ちなみに、以前精神科医の斉藤環さんから、日本のひきこもりは独特な現象で、ローマ字で『HIKIKOMORI』と表現されていると聞いて驚きました。海外でも同じ状態の子どもはいるものの、家庭で生活のすべてを引き受けようとするのは日本特有らしいです。

 

強すぎるつながりは、一度関係がこじれると「二度と会いたくない」と極端な恨みにも発展しやすい。現に私が出会ったホームレスの方たちは、亡くなっても 9 割は家族がお葬式に来ません。「0か100」の人間関係は、どちらに振り切ったとしてもリスクが大きいわけです。

 

また、子どもたちもつながりにまつわる苦悩を抱えています。2020年に自殺した児童生徒の数は499人で過去最多。そのほとんどが原因不明とされ、ある日突然亡くなっているんです。「助けて」の言葉もなく……。

 

こうした痛ましい出来事はなぜ起きてしまうのか。それは助けを求められる相手とつながれていないからで、助けを求められない原因は、やはり大人社会の強烈な自己責任論です。

 

人に迷惑をかけてはいけないし、それが良しとされている。それを子どもたちは察知して「誰にも頼らずひとりで生きて行くのが立派な人間だ」と思ってしまうわけですよ。つまり子どもが助けてと言わないのは、大人が助けてと言わないから。大人がつながりを失っているのだから、子どもだって同じです。

 

※1 80代の親が自宅にひきこもる50代の子どもの生活を支え、経済的にも精神的にも行き詰まってしまう家庭状況。

これからの時代は「家族機能の社会化」で自助の限界を乗り越える

従来の家族は住まいや食事、介護など、相互に支え合う側面がありました。今は非正規雇用化や核家族化が進み、単身者世帯が増えたことで、自助と公的支援のはざまで生活を支えていた家族の機能は脆弱化しています。しかし日本の社会保障は、正規雇用の従業員中心、かつ家族のつながりがあることを前提に、現金給付やサービス給付などを行っています。これでは制度が実態に合っていません。

 

そこで必要になってくるのが、これまで家族が担っていた役割を別の誰かが引き受けていく「家族機能の社会化」です。家族という言葉から強いつながりを連想されるかもしれませんが、そうではなく家族の概念を拡張させることを指しています。

 

かつての日本は親の概念が非常に幅広いものでした。たとえば「生みの親」や「育ての親」「名付け親」、今では聞かなくなりましたが「道親(みちおや)」といった存在。道親とはわが子であってもなくても見守り、親のように受け入れ、支える大人のことです。こうした人たちがいることで、いろんな親がいていいんだと思えますよね。私が子どものころは、隣の家でごはんを食べていたり、ほかの家の子どもがうちのお風呂に入っていたりなんてことも。

 

そう考えると、家族だから全部引き受けなくちゃいけない、なんてことはない。もっと緩やかなつながりであってもいいんですよ。というか実際、家族との時間を振り返ってみると、別に意味もなく何気ない日常を共有しているだけなこともあるわけで。

 

もし、ある子にとって学校や家庭が安心できる居場所ではなかったとしても、家族機能を社会化すれば地域が「ホーム」の役割を果たすこともできます。従来の家族はいわば「強目的的」なつながりでしたが、これからは「弱目的的」なつながりを複数もつことが重要性を増すと思います。

 

最初に話しましたが、つながりにはリスクが伴うもの。でもリスクをひとりで抱え込む必要はありません。リスク分散のために社会が存在するのです。だからこそ、大人も子どもも「ひとりにしない支援」が必要になってくるんです。

 

たとえば、全国に各所で子どもやその親、地域の人々に対し、無料や安価で栄養のある食事や温かなだんらんを提供する「子ども食堂」の取り組みがあります。これで子どもたちの食事をすべてまかなえるわけではありません。それでも取り組むべきだと私は思う。それは食に困っている子どもの問題の解決はもとより、子ども食堂へ行けば「信頼できる大人がいてくれる」「相談に乗ってくれる友達がいる」と感じられる場所を提供しているから。つながりを持てる場所だから必要だと思っています。

コンビニのフリーWi-Fiを使う若者に垣間見る「つながり」への根源的欲求

私は支援活動をしながら夜の街を歩いているときに、コンビニの前でスマホの画面を眺めている人を多く目にします。SNSで誰かとつながるのにも通信費が必要です。でも経済的な問題で、その通信費を払えない。だからコンビニのフリーWi-Fiを使うしかない。人はそうしてでも、誰かとつながりを求める存在なのです。

 

私たちは他者との関わりのなかで言葉を見つけ、自分自身の存在を認識し、生き方の道筋を見出します。作家の高橋源一郎さんと対談したときに、彼は「人はつながりがなくなると、言葉を失う」という主旨の話をしていました。

 

「人はひとりでは生きていけない」という言葉は人間の限界を表しているのではなく、「人は共に生きる」ことを表す希望の言葉です。自己責任論によって家族に負担を強いていては誰だって倒れてしまう。これからの社会においては、家族ならではの「なんとなくその場にいていい」という安心感はありながらも、家族の替わりとなるつながりを複数つくり出し、家族的な機能を社会に開いていく必要があるのではないでしょうか。

Profile

奥田知志

1963年生まれ。NPO法人抱樸理事長、東八幡キリスト教会牧師。 関西学院神学部修士課程、西南学院大学神学部専攻科をそれぞれ卒業。九州大学大学院博士課程後期単位取得。1990年、東八幡キリスト教会牧師として赴任。同時に、学生時代から始めた「ホームレス支援」に北九州でも参加。事務局長等を経て、北九州ホームレス支援機構(現 抱樸)の理事長に就任。これまでに3750人(2022年3月現在)以上のホームレスの人々の自立を支援。

【編集後記】

奥田さんは、コロナ禍で一番恐いのは他者性を考えなくなってしまう「自分病」だと仰っていました。

会社での私/趣味に没頭している私/家での私/友達といる時の私、と人間だれしも置かれているシーンによって“私”が変わり、多面的性を持ち合わせています。それはつまり、つながり方もそれぞれ違うという事を意味しています。

コロナ禍においてリアルで繋がる事が困難になった今、そもそも人とつながるとはどういう事なのか? なぜ大事なのか? 奥田さんのお話を聞いて理解が深まりました。

 

(未来定番研究所 小林)