地元の見る目を変えた47人。
2022.02.22
つながり
スマホを開けば情報が溢れ、タイムラインが絶え間なく流れるSNSにも疲弊……。「新しいつながり」を考えるF.I.N編集部では、むやみやたらに人と「つながらない」選択が大事なのかもしれないという考えに行き着きました。そこで今後私たちが大切にすべき「人とのつながり」のヒントを探るため、かつて“SNSの伝道師“と呼ばれながらも、2018年にSNSと訣別した作家でコメンテーターの安藤美冬さんの元を訪れます。
(文:船橋麻貴/写真:大崎あゆみ)
SNSの女王・安藤さんがSNSと決別した理由。
FacebookやTwitterなどの“自分メディア”を使い、これからの若者の生き方や働き方を発信してきた安藤美冬さん。たくさんのフォロワーを獲得し、人とつながることで仕事を生み出していた安藤さんがSNSを手放すことを考え始めたのは、今から5年以上前。世の中はまさにSNS全盛期に向かって走り出していた時期でした。
「私がSNSを始めたのは、2010年1月。世間的にも、これからの21世紀のインフラはSNSに変わる、という時期でした。SNSという“自分メディア”で発信することで、雑誌やWEBメディアで連載を抱えたり、講演をしたり、テレビ番組のコメンテーターとして呼んでいただいたりと、ただの会社員だった私の人生が大きく変わりました。
だけど、2016年頃、“このままでいいのかな?”という、違和感が生まれてしまって。SNSから少し距離を置いてみようと思ったんです」
世間での認知と流行が上昇曲線を描く一方で、安藤さんの中で下降曲線を辿っていったSNS。そこで抱いた違和感とは?
「まずは自分の時間が減ったことですね。当時は1日5、6時間もSNSに目を向けていて、生活の中心がSNSになってしまっていました。それもそのはず、SNSって人間が依存するように作られているんですよね。現在、ベストセラーになっている『スマホ脳』(新潮社)では、そうした仕組みがわかっているスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツらIT起業家は、自分の子供にはデジタルデバイスのアクセス時間を厳しく制限したと書かれています。そういった事実もありますし、SNSは依存性が高い。私も多くの時間を費やしてしまっていました。
そしてもう一つは、メンタルの面。“パワーのある個人になることが大事”と標榜していた当時の私にとってSNSは、自分のアイデンティティそのものでしたし、武器でもありました。だから、仕事でもプライベートでも常にSNSのことが頭の片隅にあって、フォロワーからの反応が少ないと落ち込んだりと、投稿一つで一喜一憂してしまうようになっていて。最初は自分の思いや考えを素直に発信していたのに、いつの間にか自由に発信することができなくなっていたんですよね。もうここに自分の時間とエネルギーを注ぎたくない。そう思って、SNSを段階的に辞める方向にシフトしていきました」
SNSでつながらないことで、本当につながりたい相手がわかる。
就寝前や起床後のスマホいじりをやめたりと、少しずつSNSとの距離を置いていったという安藤さん。ですが、SNSまみれだった生活を改善するのは並大抵のことではなかったと振り返ります。
「友人や編集さんなど身近な人には、2年かけてSNSを辞めることを宣言していました。1日1時間SNSに触れる時間を減らしてみたり、スマホを持たずに近くのコンビニや本屋さんに行ってみたり。少しずつSNSから離れることを実践していきましたが、ダイエットと同じで、制限をかけると何かの拍子に爆発しちゃってSNSの世界に引き戻される。必ずリバウンドが起きるんですよね。最初の数カ月はSNSの世界を離れたり、戻ったりの連続で自己嫌悪を感じて苦しかったんですが、SNSに触れない時間が増えた半年経った頃、SNSの存在自体が気にならなくなりました」
2018年、安藤さんはすべてのアカウントを削除し、SNSと決別。それは同時に、SNSでつながっていた人との別れも意味します。
「ネットだけでつながっていた人は、私の生活からほぼ全員いなくなりました。だけど裏を返せば、SNS抜きに会いたい人、本当につながりたい人とだけつながれるということ。SNSがなくたって、メールやLINE、電話で連絡が取れるし、連絡先がわからなければ共通の友人を介して連絡が取り合えますから」
さらに、自分のアイデンティティでも武器でもあったSNSを手放したことで、たくさんの気づきがあったそう。
「SNS全盛期中にみんながつながる輪から外れたことで、世の中が俯瞰して見られるようになった気がします。というのも、大抵の人の会話は、SNSにまつわることが多い。あの人が結婚した、転職した、旅行に行ったとか、SNS上で知った情報を発端に相手の進捗を知った上で会話がスタートするんですよね。だけど、これって異常なことだと気づいたんです。
SNSが当たり前な世の中になる前は、『最近どう? 元気してた?』というリアルな情報を本人から聞いて、会話が広がっていったじゃないですか。それがSNSから離れてみると、そうしたSNSで発せられた情報じゃなく、リアルに会える面前の相手にすごく興味関心が湧いて。これって人とコミュニケーションを取るうえで最も大切なこと。かつてSNSに依存していた私も変でしたけど(笑)、やっぱり、リアル以外の場所で得た相手の情報を知っていること、自分の情報を知られていることは普通ではないと思うんです」
オールデトックスはしなくていい。SNSとの心地いい距離感の見つけ方。
私たちがSNS疲れを起こしているとはいえ、安藤さんのようにキッパリとSNSを辞めたり、SNSと距離を置いたりするのは至難の技のような気がします。そこで安藤さんは、「重要なのは、自分にとっての心地いい距離感を見つけること」と語ります。
「SNS自体は悪でも善でもないですし、どう使うのも個人の自由。私は白黒はっきりつけなきゃ気が済まない性格だったので、SNSを辞めるという選択をしましたが、みんながみんなオールデトックスする必要はありません。もしSNSに疲れているなら、まずはそのストレスの根源と向き合うことが大事です。例えば、SNSをダラダラ見続けることに罪悪感があるならSNSに使っている時間を可視化してみたり、SNS上に自分の感情を逆撫でする投稿をする人がいるならその人を非表示にしてみたり。
それでもやっぱり気になって見ちゃうなら、スマホからSNSのアプリを削除するのが最強に効果を発揮します。この方法ではパソコンからは見られるので、SNSをやりたい気持ちに無理に蓋をすることなく、SNSといい距離感を保てるかもしれません」
■SNSとのいい距離感を見つける方法
(1)自分が1日にどのくらいの時間をSNSに使っているかを知る
(2)SNSで感じるストレスの根源と向き合う
(3)スマホからSNSのアプリを削除する
タイムラインが流れ続ける今、情報は目に見えないからこそ、整理する必要があると安藤さんは続けます。
「家の中がもので散らかっていれば片付けようと思いますが、情報は矢のように浴び続けているにもかかわらず、目に見えないから整理しづらい。自分にとって他人が流す情報はどのくらい必要なのか。本当に意識的に整理整頓しないと減らせないんですよね。情報を浴び続けて疲れとストレスが溜まっている今、むやみやたらに情報や人とつながらない練習が必要なのかもと感じています」
必要なのはSNS映えではなく、大切な人と自分がつながること。
ここ数年で定番化したSNS上でのつながり。向こう5年ほどでそのつながりのあり方に変化が訪れると安藤さんは言います。
「みんながSNS疲れを起こしているというのもありますし、結局SNSは誰かが作ったトレンドでしかないんですよね。そういう作られた虚像の世界に気づいた人たちが、本当のつながりを求めてSNSから出ていくと思います。オンラインサロンよりもっと小さいコミュニティに、リアルなつながりを求める人が流れていく気がしています」
つながりすぎをやめてから5年弱。安藤さん自身は、自己に対しての解像度が上がり、新たな夢への一歩を踏み出しているそう。
「今、すごくワクワクすることが見つかって。10代の頃になりたかった脚本家の夢にチャレンジしているんです。SNSから離れて自分を見つめ直したら、ずっと忘れていた夢を思い出して。昨年からスクールにも通っていて、大学生や主婦の方と一緒になって学ぶことがとても新鮮です。
これまでもフリーランスとして色々なお仕事をして楽しく過ごしてきましたが、今回のワクワクは違う次元なんですよね。なんていうか、朝起きた瞬間から心が満たされていて幸せで。別に脚本家になれたわけでも、賞を取れたわけでもないし、まだまだ下手なんですけど、朝起きる度に今までとは違う自分に感動するんです。
SNS映えを意識した写真なんかじゃ表せない、自分とつながるこの新しい感覚。SNSを辞めることで仕事が減ったり、インフルエンサーじゃなくなったりするんじゃないかという不安や心配がどうでもよくなるくらい、今、大切な人と自分自身とつながることの幸福度を噛み締めています」
安藤美冬さん
作家、コメンテーター。旅と仕事と学びのオンラインサロン『Meetup Lounge』オーナー。
1980年生まれ、東京育ち。慶應義塾大学在学中にオランダ・アムステルダム大学に交換留学を経験し、ワークシェアに代表される働き方の最先端をいく現地で大きな影響を受ける。新卒で集英社に入社、7年目に独立。本やコラムの執筆をしながら、パソコンとスマートフォンひとつでどこでも働ける自由なノマドワークスタイルを実践し、新しいフリーランス・起業の形をつくった働き方のパイオニアに。最新刊に『売れる個人のつくり方』(clover出版)、『新しい世界へ』(光文社)がある。
【編集後記】
便利になりすぎたデジタル社会に、気がつくと私も些か疲弊しているなと気が付きました。iPhoneのスクリーンタイムを見ると、ため息が出ます、、。(笑)
24時間つながっていられるSNSと距離を少し置いてみて、本当につながりたい人とつながる。そして自分の心と向き合う時間が増え、自己に対しての解像度も上がる。
いつでもつながるから、つながれるけどつながらない。こんなフェーズに移ってきているんだと実感しました。
(未来定番研究所 小林)
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