2023.02.16

目利きたちの、目が離せないアカウント。

第3回| アートプロデューサー・トモコスガさんが選ぶ、Twitterで活躍する写真家アカウント。

普段から目にするSNSのなかには、陰ながら応援したくなる人、刺激を与えてくれる人がたくさんいます。目利きたちは一体どんな人をフォローしているのか、いま注目しているアカウントを教えていただく連載です。

 

第3回目の目利きは、アートプロデューサーのトモコスガさん。これまで国内外での展覧会のキュレーションや、写真集の編集などを手がけてきました。数多くの写真作品を見てきたトモさんは、SNSで写真をアップする人が増え、そこで活躍する写真家も登場したことに注目しています。今回、挙げていただいたのはTwitterで作品を発表している写真家のアカウントです。

 

(文:宮原沙紀/イラスト:sanaenvy)

Profile

トモコスガ

アートプロデューサー。雑誌の編集を経て独立。フリーランスのアートプロデューサーとして展覧会のキュレーションなどを手掛ける。2014年に写真家の故・深瀬昌久の作品を管理する「深瀬昌久アーカイブス」を創設し、ディレクターに就任。2018年からはオランダのアムステルダムに移住して活動を開始。2019 年に開設したYouTubeチャンネル「トモコスガ言葉なき対話」では、写真表現の現在について発信している。2023年3月3日から東京都写真美術館で開催される写真展「深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ」の制作やカタログ編集にも携わった。

https://www.youtube.com/@tomo_kosuga

https://twitter.com/tomo_kosuga

写真を見る場の変化によって、テクニックや表現の幅が拡大。

独立する前は雑誌の編集者をしていたのもあって、私はかねてより独自のテーマを写真で表現する写真作家たちに興味を抱いてきました。彼らがどんな視点からこの時代を見て表現しているのかを、写真展や写真集、あるいは実際に彼らと会って話すなどの機会を通して追い続けてきたんです。しかしこのところ、SNSを舞台に写真を発表する人たちが増えてきたことに気づきました。どうやらSNS写真家たちというのは、従来の写真作家とはだいぶ勝手が違うようだと。インターネット上にはその場のルールがあって、独自の表現が生まれている。それに気づいてからSNS写真家にも注目するようになりました。

 

SNS写真の特徴のひとつとして、これまでの写真では失敗とされてきたテクニックや考え方がむしろ有効になることが挙げられます。一例を出すなら“太陽の逆光”ですね。

Twitterのタイムライン上では、写真画像がサムネイルとして流れてきます。それをクリックすることで写真は大きく表示されるわけですが、鑑賞者がその動作に至るまで、要はとても小さなサムネイルの形で眺められる。これは、これまで展覧会などで大きなスケールで出力された写真作品を見てきた私にとっては真逆の鑑賞プロセスでした。この点に着目した結果、SNS写真家たちは、ひとつに太陽の逆光をうまく活用することから、小さなサムネイルとしての写真に宝石的な要素を見出しているのではないかと考えました。

一般的に太陽の逆光とは、フレアが発生してしまったり、肝心な被写体が暗くなってしまうことから、フレームに入れるのを避けられがちな現象です。しかし写真のスケールが小さくなることで、今度は青空から太陽にかけてのグラデーションがまるで宝石の輝きかなにかのように見えて、それ自体もひとつの被写体として捉えることができるんですよね。いわゆる“映え”の作品活用とも言える。実際、逆光の輝きをうまく利用して撮った写真で多くのバズを獲得している人は多いです。

 

今さまざまなSNSがあるなかで、写真投稿の代表格とされているInstagramではなく、Twitterを活動の場としている人たちがとりわけ面白いなと感じています。Instagramは写真前提の投稿で、テキストだけでは成立しない一方、Twitterではそれが成立します。また前者は写真の下にテキストが表示されますが、後者はテキストの下に写真がくる。Twitter特有の字数制限も絶妙で、短冊だからこそ素直でインスタントな考えが読める。そうしたことから、自然と投稿者の人となりが伝わり、ひいては今という時代が見えてくるんです。

写真家といえば、写真ひとつで勝負するものだと思いがちですが、私は彼らがなにを考えて撮っているのかについても興味があるので、いつもTwitterに張りついています(笑)。

普遍的なテーマを、明快に表現する。

まずは、川原和之さんを紹介させて下さい。ご自身の家族をテーマにしています。家族は普遍的なテーマだからこそ、作品として仕上げるのがとても難しい。だけど川原さんは構図やモチーフが見る人に与える作用もよく考えていて、思わずグッとくる写真がたくさんあります。

例えば「いってらっしゃいの記録」という投稿では、自身のお子さんを学校まで送る場面の繰り返しを見せている。ガラス越しに撮ることで、撮影対象の子どもの姿はもちろん、ガラスに反射して映る川原さんの姿も写り込んでいますよね。一枚の写真のなかで、親子の別れ際の重なり合いとその切なさが視覚的によく表されている。そこまで考えずになんとなく眺めても、感覚的にそうしたことが捉えられる写真ならではの面白さがふんだんで。だからカズさんの家族写真は多くの反応を得ているんじゃないかと思います。

自分の言葉を持っている方でもあるため、写真に添えられる言葉もいつも絶妙なんですよね。日々の投稿を淡々と追うだけでも心を温めてくれる方です。

川原和之さんのSNSアカウント

SNSという場の特性を、最大限に生かす。

続いて紹介したいのが、Ken Tanahashiさん。街の風景といった日常スナップを撮っている方です。いわゆる非日常的な空間やきれいなものを強調する「映え」という視点に対するカウンター精神を持たれていて、些細な日常がふと面白く見えるような瞬間や角度から撮った写真を見せてくれています。

Twitterの1投稿における写真表示は最大4枚ですが、上のようにサムネイルがグリッド状に表示されますよね。Kenさんを筆頭としたSNS写真家たちは、1枚1枚になにが写っているかという細部よりもまず、4枚がサムネイルで並んだときに浮かび上がる幾何学的なバランスや構図を計算しているのでしょう。いかに大きく印象的に見せるかが問われがちな従来の物質的なプリントとしての写真とは真逆に、小さなサムネイルで鑑賞されるSNSならではの着眼点で、とても面白いと感じます。

またKenさんは、どのようにしたら写真を撮る人たちがSNSという場を生かせるのかを早い段階から考えて実践してきた人でもあって。誰もが自分を表現することに夢中なSNSでは、自分のことを発信する以上にまず周りに関心を抱くことが肝要。同じような写真を撮る人がいたら、彼らの写真をRTしたりコミュニケーションを取ることから始めようと日頃言っています。SNSの拡散力を有効活用していて、これも従来の作家活動とは異なる発想だと言えます。

Ken TanahashiさんのSNSアカウント

人の眼に映るものが全てではないと教えてくれる。

3人目は、眼遊さん。サイエンスやテクノロジーこそよっぽど現代アートだなと思わされることが日常のなかで少なくないのですが、眼遊さんの作品はまさにそれだなと。光源に紫外線を使って生物を撮っている方です。

上の4枚は、一般的なライトを当てて撮った写真と、紫外線を当てて撮った写真のわかりやすい比較ですが、色も模様もまるで違うことに驚かされます。海面下の生き物が、光の届かない世界をどのように見ているのかを教えてくれるかのよう。

また時には、撮影対象にグッと寄ったクローズアップの写真を見せて、これはなんの生き物でしょう?とツイートでクイズを出している。たとえその答えが、誰もが知る生き物だとしても、眼遊さんの視点が絶妙なので、当てるのはとても難しい。写真を巡る人間の主観と客観の面白さをとても愉快に活用されている方だなと思います。

表現というのは時に、普段とは違う見方ができるのではないかという挑戦でもあると思うんですが、眼遊さんの写真はそうしたことを、誰もが理解できて楽しめる角度から見せてくれるので、いつもツイートが楽しみな1人です。

眼遊さんのSNSアカウント

写真界に現れた、規格外の大物。

*正しい制作年は、2021年。

最後に紹介する遠藤文香さんは、私がここまで話してきたSNS特有のルールをことごとく覆している点で、規格外と言える大型新人です。2021年に大学院を卒業したばかりですが、ファッションの撮影をしたり、写真の公募「写真新世紀2021」の佳作に選ばれたりと、既に活躍しています。

彼女がすごいなと思ったのは、大学の卒業制作の写真をTwitterにアップしたらそれだけでドカンとバズってしまったこと。じっくりと時間をかけて眺め考え、ようやく受け止められる従来の写真作品というのは、物事が瞬間的に流れていくSNSとは相性が良くないとされてきました。写真ってそれくらい、本来は曖昧な表現で、パッと見てもなんだかよくわからなくて当然なんです。でも文香さんの場合、そうした類の写真作品をSNSにアップしたら、とても大きな反響を得てしまった。その現象はひとえに、彼女のイメージがこの時代のビジュアルランゲージとして大衆に受け入れられたとも言え、時代の写真家が出てきたなと期待しています。

彼女がスマホとかでちょっと撮っても、しっかり遠藤文香の写真になる。そうやすやすとは真似できない独特のセンスがあって。言い換えるなら、型にハマらない写真が撮れる人なんですよ。写真ではそれが一番難しい。これからどんどん活躍していって欲しい1人です。

遠藤文香さんのSNSアカウント

SNSでバズることをひとつの指標にここまで話してきましたが、表現の良し悪しを語る上ではそれが全てではないのはもちろんです。私自身、かつてはむしろバズに対して否定的な考えを持っていました。しかし表現の場によって作法が変わるのは当然ですし、その辺りは柔軟に受け止めたほうが楽しめるかなと近ごろは感じています。

デジカメやスマホの普及によっていよいよ誰もが日常的に写真を撮ることが習慣化し、SNSの発展によってそれを愛で合う場が増えました。これまでは限られたプロや表現者だけが専門知識として持っていた表現方法も、今はどんどん共有されています。「写真で表現できるのはどんなことだろう」という問いを、今こそ多くの人に楽しんでもらうこと。そこに写真表現の可能性があると感じています。

極端な話、デバイスのボタンをひとつ押せば、写真は写るんです。そのあまりのあっけなさに、写真は“写ってしまう”とも言えるほど。様々な表現があるなかで群を抜いた手軽さがありますから、色んな人に写真で表現することに挑んでもらいたいですね。

【編集後記】

写真表現はInstagram、そんな固定観念が沁みついていました。

140字制限やグリッド、拡散力などの特性を存分に活かした写真家の方々にとって画家がキャンバスに絵を描くように、Twitterは自分の思いを表現するキャンバスのような、必要不可欠な存在なのかもしれません。

(未来定番研究所 小林)

目利きたちの、目が離せないアカウント。

第3回| アートプロデューサー・トモコスガさんが選ぶ、Twitterで活躍する写真家アカウント。