2023.12.06

メイドインジャパンを継ぐ人。

第2回| 日本製を絶やさないものづくりを。〈SAGYO〉のディレクター・伊藤洋志さん。

近年衰退傾向にあるとされているメイドインジャパンプロダクトの魅力をたずね、それを継ぐ人の価値観を探る連載企画「メイドインジャパンを継ぐ人」。第2回にご登場いただくのは、作業服メーカー〈SAGYO〉のディレクター・伊藤洋志さん。民俗資料をもとに現代における日本の野良着を研究・開発しています。なぜ今、和服をアップデートし再定義する必要があるのでしょうか。そして文化や技術を継承する意義とは?

 

(文:船橋麻貴/写真:大崎あゆみ)

きっかけは、「和服を日常着にしたい」という思い

「風景をつくる野良着」をテーマに、作務衣や半天、もんぺといった現代版の野良着を届ける〈SAGYO〉。文筆家・起業家の伊藤洋志さん、デザイナーの岩崎恵子さん、エンジニアの長山武史さんの3人が2015年にスタートした、インディペンデントな作業服メーカーです。始まりのきっかけは、2000年代初頭。伊藤さんが京都で過ごした学生時代まで遡ります。

 

「今でこそスーツを着て仕事をする人は少なくなりましたが、当時、日本の風土や気候に合わない服を着させられているという問題意識のようなものがありました。そもそもスーツは寒冷地で発祥したものなので。それで和服を日常着にしようと、着物で授業を受けたり、学生同士で新しい着物を開発・販売するサークルを立ち上げたりもして。卒業後はベンチャー企業に勤めたり、ライターや個人事業を作る活動をしたりしていましたが、いつかまた和服にまつわる仕事をできたらと考えていました」

3人の人生が交差し始めたのは、2012年。伊藤さんが複数の仕事で生計を立てることを書いた著書『ナリワイをつくる』(東京書籍)の行商イベントをするべく、全国を回っている時に出会ったのがデザイナーの岩崎さんでした。岩崎さんは地下足袋や和服の制作に携わっていた経験を持つことから、伊藤さんが描いていた日常着としての和服のあり方に共鳴。〈SAGYO〉の構想が始まります。

 

「和服の日常着がどんどんスライドしていき、農作業などを行う際に着用する作業服・野良着を現代版にアップデートするという考え方に行き着きました。というのも、ちょうどその頃、農学部出身ということもあって、ジャージを着て梅農家のお手伝いをしていたんですが、枝に服が引っ掛かったりして、動きやすいウェアというだけでは農作業には向いていないことに気づいたんです。また、ズボンにシャツの洋服の作業服姿で縄を腰紐にして締めている農家のおじさんがいて、なぜか尋ねたら丹田(*)に力が入りやすいとおっしゃって。そうした気づきを経て、日本の風土や気候、体の動かし方に合った和服をベースにした野良着を作りたいという気持ちが高まりました」

 

こうして岩崎さんと一緒に、野良着の試作品づくりを始めた伊藤さん。そこに偶然出会ったエンジニアの長山さんが新たに加わり、2015年に〈SAGYO〉のものづくりが本格的にスタートします。

 

*丹田・・・おへその下のあたり(三寸下など諸説あり)。ここを意識すると動作が安定すると言われている

減少していく日本製の衣服を絶やさないために

〈SAGYO〉では、伊藤さんが学生時代から目にしていた民俗資料をもとに、現代の生活にも合うようにデザインを起こし、作務衣や半天、もんぺなどの野良着を実際に着て修正や調整を重ねながら制作します。ものづくりで大切にしているのは、伝統的な技術と現代性、そのバランスだと伊藤さん。

 

「資料通りこのまま素直に作ってしまっては、やはり現代の感覚とは乖離してしまう。例えば作務衣で2回紐を結ばせるパターンがあったとしたら、それは現代の生活では受け入れにくい。だから、生活実感から得られる利便性や合理性を追求しながらも、和服のかたちを損なわないようにしています。

 

それから、昔の野良着は家庭で作られていたので直線断ちのパターンが多いのですが、現代の縫製技術では必ずしもそれが良いとは限らない。むしろ曲線裁ちにした方が縫製の手間が省けたり、安価に作れたりする場合もあるんです。そうしたバランスを鑑みながら、持続的な和服のあり方を探っています」

伊藤さんが学生時代から参考にしているという資料。全国の野良着について書かれている

縫製をお願いしているのは、国内の工場。作り手に直接会いに行ける距離だからこそ、〈SAGYO〉のものづくりが行えるのだと言います。

 

「一つの衣服を作るにしても、Aの方法ではコスト的に難しいけどBの方法に変えたら同じものが作れるというアイデアが、現地で作り手と話した方が出てきやすいんです。最近では海外の縫製工場の技術も向上していて、日本の技術に勝るとも劣らないかもしれません。海外の工場にお願いすることもできるでしょうけど、和服を起点にものづくりを行っているメーカーとして文化性を追求しようと思うと、やはり無理があると思います。ちょっとしたことかもしれませんが。

 

そして昨年ついに、衣服の国産品が占める割合は1.5%となりました。つまり、国内に出回っている衣服100着のうち、日本製は1〜2着しかないということです。このままではそれこそメイドインジャパンの衣服が絶滅してしまう。そういう危機感にも直面しているし、そもそも国内製造の野良着で農家さんを応援したいというのが私たちのテーマ。だから日本での製造は前提ですね」

 

〈SAGYO〉が作る野良着はトレンドに大きく左右されることもなければ、季節性も問わない。縫製工場の繁忙期とも重ならないため、持続可能なものづくりが叶えられるそう。

 

「一般的なファッションアパレルと違い、私たちは季節を問わない野良着を作っています。春夏・秋冬といったコレクションもないので、縫製工場の閑散期に依頼でき、ローコストでものづくりを行える。さらには見切り反という工場に眠る生地を使っているので、適正価格でなんとか商品を届けられるんです」

10年ほど前に試作品として制作したもんぺ。作業時にまくりあげやすいよう、裾の生地にニット素材を採用している。軽衫(かるさん)袴という18世紀の仕事着が原型となっているそう

歴史や文化の重みが、着る人の個性を引き立てる

先人たちの知恵から学び、和服を現代のかたちへと落とし込んでいく〈SAGYO〉。なかには、廃盤となったアイテムを復活させたものや、ローカルの中から発掘しデザインを別注したものも。

 

「例えば、マグロ漁船で働く人も履いていたという超防寒仕様の靴下『マグロ漁船の靴下』は、友人の実家の工場が作っていたのですが事業縮小のため、数年前に廃盤となってしまいました。あまりにも温かくて最高だったので友人からネーミングを買い取らせてもらって、デザインと設計はそのままに糸を変えてより履きやすくなるよう復刻させました。それから雨合羽の『二部式雨衣』は、三重県の漁港で愛用されていたものですが、水産用は重すぎたので農業用に軽くし、強度を保ちつつも防水性の高いデザインを工場に別注しました。こうした知られざるいいアイテムは、気がつくと黒字なのに後継者の問題で廃業したり、自然減少していってしまいます。こちらが探して見つけ出さないと、いずれはなくなってしまうかもしれない。だから少しでも拾えるものは拾って、商品として届けていきたいと思っています」

「マグロ漁船の靴下」。足先部分は蒸れにくいウールメインの糸を、それ以外はアクリル素材の糸を採用し、履きやすさを実現させている

軽量で破れにくい生地を使った「二部式雨衣」

〈SAGYO〉が生まれて8年ほど。真摯にものづくりと向き合ううちに、歴史や文化の重みに触れることもあると言います。

 

「野良着を作っていて思うのは、年齢や性別によるセグメントがないということ。服に体型を無理に合わせる必要もないですし、それこそトレンドに左右されることもない。従来のファッションカルチャーとは違った文脈が流れているからか、〈SAGYO〉の野良着を纏うと着る方の人となりが表現されるんですよね。それはなぜか。もしかしたら和服が持つ歴史や文化の重みがそうさせるのかもしれません」

日本のものづくりに対して、誠実でありたい

切っても切れない関係のアパレルメーカーと縫製工場。メーカー側が過剰な薄利多売を行うあまり、実際に製造を行う工場が過酷な労働環境を強いられていたりと、近年は海外だけでなく、国内でもさまざまな問題が絶えません。そうした現実を前に、「この先もものづくりに対して誠実でありたい」と伊藤さんは続けます。

 

「安くてそれなりのものが簡単に手に入る時代ではありますが、その方法がこの先もずっと続き、価格も歪みなく継続されるとは思えません。小さなアパレルメーカーの私たちはできることが限られていますが、縫製工場の協力がないとものづくりは行えません。だからそこには誠実でありたいですし、いいアイテムを作ることで日本のものづくりにしっかりと貢献していきたいと思っています」

【編集後記】

横向きのポケット、背面のプリーツなど一般的にイメージする衣服とは一線を画す〈SAGYO〉の野良着。一風変わっている理由は農業従事者が実際にどのような動きをするのか・作業を助ける機能は何か、1つの衣服が着用された後のことまで徹底的にデザインに落とし込まれているからでした。

また、「日本のものづくりに対して『誠実』でありたい」と決して妥協しない伊藤さんのものづくりの姿勢に、衣服を買う一人の生活者として誠実な購買体験とは何なのか改めて考えるきっかけになりました。

(未来定番研究所 小林)

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