未来定番サロンレポート
2022.07.27
衣料品の大量廃棄問題は、サステナブルな社会の実現を目指す私たちが乗り越えなければいけない壁のひとつ。最近は地球環境に配慮した素材を使ったエシカルファッションや、廃棄衣料品の回収など、さまざまな取り組みが普及しています。これからを生きる私たちは、洋服とどのように向き合っていくことが望ましいのでしょうか。今回、洋服を捨てずに長く着続けるサーキュラーファッションを支える「ものづくり人」にそのヒントを求めました。
埼玉県寄居町の一角にある染め工房、〈きぬのいえ〉。若手の職人を中心に、Tシャツからドレス、靴にいたるまでリーズナブルに染め直せるサービス〈SOMA Re:(ソマリ)〉を展開しています。現在2~3か月待ちが続いているという人気ぶり。染め直しを通して見える、サーキュラーファッションのこれからとは。
(文:末吉陽子/写真:山平敦史)
染め直すことで、
衣類にもう一度命を吹き込む。
埼玉県の北西部、豊かな自然と歴史を感じる町として知られる寄居町。ここで染色工房を営む〈きぬのいえ〉から〈SOMA Re:(ソマリ)〉はスタートしました。
もともとのはじまりは、ひとつのプロジェクト。町の魅力向上のため、町内外の若者ら多様な人材(Layers)が交わり、寄居町というフィールドで輪(Hoop)になり、新しいサービスや商品を提案するワークショップ「Layers Hoop Yorii(レイヤーズ フープ ヨリイ)」の中で誕生しました。
〈SOMA Re:(ソマリ)〉は、色褪せやシミで着られなくなってしまった服を染め直すことができます。染められるものは、綿、麻、レーヨン、テンセル(リヨセル)、キュプラ、竹、紙など。
手染めは高額なイメージが先行しがち。もっとリーズナブルに染め直しの機会を提供できたらと、通常よりリーズナブルな価格設定でサービスを開始。すると、すぐにメディアで取り上げられ、サービスの立ち上げから2年間、ずっと予約が絶えないそう。依頼も簡単で、LINEで仮見積もりをして衣類を発送するだけ、とシンプルかつスムーズ。
「30代から80代まで幅広くご利用いただいております。『思っていた以上の仕上がりです』『新品のようによみがえりました』『また着て出かけるのが楽しみです』といったお褒めの言葉をいただいています」
そう語るのは、染め物職人で〈SOMA Re:(ソマリ)〉の中心メンバー、井澤剛史さん。役目を終えようとしている衣類に、もう一度命を吹き込みたいとの想いから、〈SOMA Re:(ソマリ)〉の活動をはじめたそうです。
毎日問い合わせや洋服が届いている状態とのことで、染め直しのニーズの高まりを感じていると話す井澤さん。少しずつでも良いので、服を染め直す選択をする人が増えてほしいとのこと。
「安いものが売れる時代ですので、大量生産・大量廃棄の時代はしばらく続いてしまうと思います。ですが、素材等のリサイクルやサステナブルな素材を使用したものも増えてきています。少しずつ廃棄をなくしていく方向に向かっていくと良いなと考えています」
染めでよみがえる大切な思い出。
洋服に込められた想いも大切にしたい。
「服とヒトのサステナブルなお付き合い」を後押しすることで、モノを大切にする暮らしの輪を広げたいという井澤さん。こんな思い出を教えてくれました。
「あるブラウスを染め直したお客さまがいました。若いころにお母様とイタリアに行った時に買ってもらったブラウスで、お母様は40代で他界、ご本人は現在70代でしたが、亡き母に買ってもらった最後の形見と、捨てられずに持っておられたそうです。染め直したものをお届けすると『すっかり見違えました。また母から新しい物をいただいたようで、こんなに素敵によみがえるとは本当にうれしいです』と、とても喜んでいただけました」
何十年も大切にしていた思い入れの深い洋服のエピソード。この話を聞いた井澤さんは、染め直しの価値を再認識したと言います。
「思い出も一緒によみがえらせることが染め直しの魅力。単純に、捨てられてしまうかもしれないお洋服を減らすことができることは、サステナブルの観点からもちろん重要です。ただ、お気に入りだったお洋服をもう一度着ることができるという価値もまた重要なように思います」
今よりもっと染め直しが浸透し、クリーニングに近いような選択肢になればと井澤さん。
染め直しを体験!
手作業で洋服の魅力がよみがえる。
実際にどのような手順で染め直しを行っているのでしょうか。井澤さんに編集部メンバーの洋服を染め直していただきました。
STEP1.準備
洋服の汚れは染めムラの原因に。手間暇はかかるものの、外せない工程
まずは、きれいに染めるための準備から。洗剤を混ぜた80度のお湯で、30〜40分ほど洗います。これによって普通の洗濯では落としきれない皮脂汚れをしっかり落とします。
この薬品は染めを助ける役割を持つことから「助剤」と呼ばれているそう
STEP2.染める
色味には並々ならぬこだわりが。染料の配合は試行錯誤で決めたとのこと
染料をお湯に溶かします。今回は〈SOMA Re:(ソマリ)〉のスタンダードなプラン「黒染め」を実施。黒い染料単体で染めると青みがかってしまうため、複数の染料を混ぜ合わせるのがソマリ流。
汚れを落とした洋服を脱水機にかけてから、いよいよ染めの工程へ。Tシャツであれば、染めにかかるのは1時間ほど。途中で取り出して、さらに2種類目の助剤を入れます。
洋服同士が重ならないように注意
水から80℃まで温度を上げながら染める
STEP3.洗い
染めあがったら取り出して洗います。
余分な染料を落とす作業。これをやることで他の洋服への色移りを避ける
STEP4.染め・乾燥
その後、冷水でしっかり洗った後、取り出して乾かせば、黒染め作業は完了です。
染めを終えたTシャツ。一度の染めでムラなく染まる
STEP5. 完成
今回、〈SOMA Re:(ソマリ)〉さんにて黒染めしたTシャツやカットソー。プリント部分は染めが入らず、また全く新しいデザインとして生まれ変わった
株式会社きぬのいえ SOMA Re:(ソマリ)
【編集後記】
実際に着なくなった白Tを井澤さんに黒染めしていただきました。専用の機械で効率よく染め直しをされているのかなと思いきや、全行程、井澤さんの手作業でした。これには井澤さんの拘りがあり、機械で染め直しをするとどうしても粗くなり洋服にダメージが加わってしまうこともしばしばあるそう。
黒染めしたTシャツを見ると、新しい気分で洋服が着れる喜びもそうですし、この洋服を買ったお店での店員さんとの会話・行った場所など思い出が蘇り、そして井澤さんの思いが1着のTシャツに吹き込まれた気がしました。
(未来定番研究所 小林)
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