2022.03.28

第1回|少しずつ形を変えて着続ける。サーキュラーファッションから考える「これからの服」。

衣料品の大量廃棄問題は、サステナブルな社会の実現を目指す私たちが乗り越えなければいけない壁のひとつ。近は地球環境に配慮した素材を使ったエシカルファッションや、廃棄衣料品の回収など、さまざまな取り組みが普及しています。これからを生きる私たちは、洋服とどのように向き合っていくことが望ましいのでしょうか。

 

今回、洋服を捨てずに長く着続けるサーキュラーファッションを支える“ものづくり人”にそのヒントを求めました。vol1は、洋服のお直しと針しごとのアトリエ「retouches(ルトゥーシュ)」の早水さんご夫婦。サイズやシルエットのお直しだけではなく、新しいデザインへのリメイクなどもお手の物です。約16年前、「今あるものを生かす仕事をしたい」とお直しの世界へ。早水さんの洋服との向き合い方とはーー。

(文:末吉陽子/写真:西あかり)

 

 

リメイクは“余白”が大事。

カウンセリングで想いを汲み取る

東急世田谷線「宮の坂」駅からすぐ、リノベーションした一軒家が二人のアトリエです。「retouches」とはフランス語で手直し・寸法直しの意味。夫の博之さんはデニムや古着が得意、妻の佳名子さんはオールマイティ。お直しの守備範囲は広め。洋服のサイズやシルエットのお直し、破れや穴のリペア、ワンピースをスカートにするようなリメイク、カーテンやクッションカバーなどインテリアのお直しなど多岐にわたります。

「ルトゥーシュを立ち上げたのは2005年で、初めは店舗を構えず、訪問スタイルでお直しの仕事をしていました。2011年に店舗を構え、2017年にいまの場所に移転してきました。洋服と縫い物が好きで、その両方に関われる仕事であること、いちから新しく生み出すことよりも再生することが自分に向いていると思ったことが、この仕事を選んだ一番の理由です」(佳名子さん)

 

最初は飲食店でアルバイトをしながら、そのお店でお直しの受付をさせてもらったり、お客さんのお宅に伺って洋服をお預かりし、自宅で直してお届けしたりしていたという佳名子さん。アパレルで縫製やリメイクの仕事をしていた博之さんを誘い、2018年からは二人でお直しの仕事をしています。

 

「お客様は親族やご友人から洋服を受け継いだ方、昔着ていた服を手放さずにずっと持っていた方、古着が好きな方、小柄だったり長身だったり既製服のサイズにお悩みの方など、老若男女さまざまです。お預かりする洋服は思い出の品であることも多いので、初のカウンセリングではしっかりコミュニケーションしています。その方に似合うかどうか、ご本人と私たちの意見を融合させながら、かたちにしていきます」(佳名子さん、以下同)

洋服を新しいかたちにリメイクするときは、“余白”を大事にしていると言います。

 

「古着でよくあることですが、裏を見ると何回か直された跡が見つかって、『ああ、前の人には大きかったんだな』とわかったり、すごく丁寧な手縫いが施されていたりして、その一着に、何人かの形跡が残っていることがよくあります。今着る人に合わせて直すことはもちろんですが、次に着る人・直す人のために縫い代を多めに残したり、またいつか調整できるような余白を残しておこうという気持ちになります」

「心底惚れた洋服」を迎える。

お直しで変わる洋服との付き合い方

依頼主からは「自分に合わないかもと諦めていた洋服を着られるようになって嬉しい」「着心地が良くなってたくさん着るようになった」という声が寄せられると言います。「最近はSNS経由で『こんな風にも直せるんですね』とコメントいただくことも。誰かの一着が、他の人のお直しへの興味や発見につながっているのかなと思うと、それもまたうれしいです」

 

長く着続けられる洋服の選び方を聞くと「この服と、長く付き合っていきたいかな?と自分に質問してみると良いと思います」との答えが。

 

「長く付き合う上で着心地はとても重要だと思うので、試着はおすすめしたいです。心底気に入った服、惚れた服を手元に迎えるという感覚で洋服を選ぶことは、自然と大切に長く着続けることにつながるのではないでしょうか。値段にかかわらず、”好き”が初にくると良いのかなと」

 

心から気に入って購入した“エピソードのある洋服”は、年齢関係なく、時間が経っても大切に長く着ている方が多いとのこと。

 

ファッションの未来を見据える上で、「リメイク」は私たちとってどのような意義のあるものでしょうか? そう聞いてみるとーー。

 

「人の好みも流行も常に変化していく中で、少しずつ形を変えながら一着の洋服を着続けるというのは、今あるものを大切にしたいという気持ちを満たせますし、何よりファッションを楽しむことにもつながります。溢れるほどの洋服とどう付き合って行こうか考えるとき、すでにある洋服の良いところを再発見して生かすというのは、一人一人のクリエイティブな一面を出せるところなので、お直しやリメイクをぜひ楽しんでもらいたいです

 

着物や洋服を仕立ててもらっていた時代は、生地が貴重だったこともあり、譲り受けたら仕立て直して、着続けて、着られなくなったら生地として使えるところを再利用して、ということが日常だったかと思います。既製服が当たり前になって、その貴重さを感じ取る感覚は鈍ってしまったかもしれないけれど、失くしてはいないのだと思います」

 

お直しを体験!長く着続けたくなる洋服へ

豊かな世の中を象徴するかのように、大量に生産され、廃棄されていく洋服。その流れに逆らうかのように、手仕事を通して一着一着の洋服と向き合う早水さんご夫婦からは、未来へと続くファッションの普遍的な価値を守り続ける強い意思が感じられます。そんなお二人の手仕事を体験してみたいと、F.I.N.編集部ではルトゥーシュさんにお直しを依頼。ひとつはワンピースで佳名子さんに、もうひとつはTシャツで博之さんに担当していただきました。

似合うバランスと、飽きのこないシルエットを、ご本人の感覚を聞きながら調整していきました。トップスをニット素材に変える際、後ろファスナー部分をニットではなく布に切り替えて、ファスナーの開閉に耐えられるよう、デザインと耐久性を考えてリメイクしました。布部分は、スカート丈をつめた時の端切れを使っています。年齢を重ねていく中で、その時々で楽しんで着ていただけたら嬉しいです。(佳名子)

左がbefore、右がafter。20代前半に奮発して買ったものの箪笥の奥に眠っていたワンピース。丈も長めで、襟周りも大きく開いていたところも気になり、着る機会がなかったため、思い切ってリメイク。上半身はニット生地を使って、より気軽に着やすくなりました。

二着をつなぎ合わせる際にショルダーラインを揃えました。裾はリメイク感が出るように、それぞれの元の着丈を変えずに段差をつけて仕上げています。(博之)

大学生の頃に購入し、大切にしていたブランドのTシャツ。大きなプリントを活かしつつ、新しい姿に生まれ変わりました。ビックシルエットでメンズレディース問わず着こなせそうです。

【編集後記】

お二人とも、本当に服が好きで、「お客様が気に入っている服を長く楽しんで使えるようにお手伝いをしたい」という気持ちがひしひしと伝わってきました。

モノが溢れているのが当たり前で、トレンドに併せて消費するようにファションを購入する時代から、気に入った服を時代や自身の変化に併せて変えていく。

こうした流れがこれからのファッションを形作っていく中で、お二人の手仕事の価値がより一層高まる世界が、もうすぐ近くまできているのだろうと思います。

(未来定番研究所 織田)

Profile

ルトゥーシュ

住所:東京都世田谷区豪徳寺2-20-3 03-6324-0966.

営業時間:水〜金12:00-18:00、土日9:00-18:00

※予約制 (月・火曜定休)