2020.10.23

アップサイクルが、日本と世界を繋ぐ架け橋に。 rételaに聞く、ものづくりの受け継ぎかた。

エコとアートのハイブリッドな活動が注目を集めるブランド〈rétela(リテラ)〉。その土地に根ざした手仕事や、普遍的なコンテンツにフォーカスし、それらを解体、再構築して新たな価値を創造するテキスタイル商品を展開しています。現在は、インドの伝統的な手仕事「ブロックプリント」の下敷きとして使われていた布に着目し、作業工程で自然に生まれる模様を活かした、世界にひとつだけの服を発表しています。そんなブランドを作り上げたデザイナーの大越敦子さんに、アップサイクルとファッション、アートの可能性を伺います。

偶然の出会いから始まった、下敷き布のアップサイクル。

服飾専門学校を卒業後、ファッション業界や造形会社で、ものづくりの仕事をしていた大越敦子さんがアップサイクルに注目したのは、独立して〈rétela〉を始めたことがきっかけでした。

 

「このブランドは、2015年に、レジ袋をリユースしてテキスタイルを作っていた方と一緒に立ち上げました。使用済みの袋を加工したテキスタイルで、バッグや靴を作っていたんですが、そのプロジェクトが1年ほどで終了し、チームも1人になって、次に何をしようかと探していた時にたまたま行き着いたのが、ある日見た写真に写っていたインドのブロックプリントの製作風景だったんです」

 

そこには彫刻を施した木の塊をスタンプのようにして、美しい模様をプリントしていく職人の姿が写っていました。しかし大越さんが注目したのは、伝統的なブロックプリントよりも、作業台に敷かれていた布でした。

ブロックプリントは何重にもインクを押し付けて模様を作る技法。そのため、下敷きの布にはこのようにさまざまな色が不規則に重なる。

「インクの重なりで偶然生まれた柄は、まるで抽象画のような面白さがあります。でも、この布はきっと捨てられてしまうのだろうと感じて、これを使って服を作ってみたいという好奇心が湧きました。そこで、日本で売っているインド雑貨のタグを見て、そこからインドの工房に連絡をしてみたり、友人のツテを頼ってみたり。やっとブロックプリントの工房を探し当てましたが、その会社の上層部もデザイナーさんも、下敷きの布の存在すら知らなかったんです。現場の職人からも『こんなものを使って何をするんだ』と怪しまれながら、まずはデザインして型紙を現地に送り、下敷き布でサンプルを作ってもらいました。そうしたら、想像以上に美しい服が仕上がってきたんです。そして現地の工房も、こういうことかと理解してくれました」

サルエルパンツ、スカート、ストールなど、さまざまな形の洋服に。中でもエプロンスカートは〈rétela〉の人気定番商品。

2016年秋、ブロックプリントの下敷き布のプロジェクトがスタート。捨てられるはずだった下敷き布は、エプロンスカート、ドレス、バッグ、スリッパなどに生まれ変わりました。現在は、デリー近郊のウッタルプラデーシュ州と、ジャイプル、バングラデッシュに近いコルカタ地方の、3カ所の工房で製作しています。

インド現地にてブロックプリントに使用される木彫りの版。草花や幾何学模様など、模様はさまざま。

「ブロックプリントには大航海時代から続く長い歴史あり、地方によっても手法がさまざま。ジャイプルでは、木版に泥をつけて押していく泥染の方法があり、その柄を目立たせるためにターメリックなどで染めてもらいました。新作は、コルカタ地方の工房で作ったun fabric remix シリーズです。手織り布のカディを使ったのですが現地では高級な布なので、下敷きに使うのはためらいがあったそうで、なかなか商品が上がってこなかったんです(笑)」

「ブロックプリントには大航海時代から続く長い歴史あり、地方によっても手法がさまざま。ジャイプルでは、木版に泥をつけて押していく泥染の方法があり、その柄を目立たせるためにターメリックなどで染めてもらいました。新作は、コルカタ地方の工房で作ったun fabric remix シリーズです。手織り布のカディを使ったのですが現地では高級な布なので、下敷きに使うのはためらいがあったそうで、なかなか商品が上がってこなかったんです(笑)」

コルカタ地方の工房で作ったun fabric remix シリーズは今季からの新作。〈rétela〉の洋服は全て、大越さんとインド現地の工房職人との二人三脚で作られている。

インドの職人と、アイデアを出し合いながら作る。

デザインの工程は、大越さんがデザインし、パターンを起こして現地に送ります。「ジャクソン・ポロック(*1)の黒」や「雪舟(*2)の白」など、全体のイメージや色も伝えますが、あとは現地の工房にお任せするのだとか。

浅草にある〈rétela〉の店舗兼アトリエでの作業風景。

*1 ジャクソン・ポロック
ジャクソン・ポロック(1912年1月28日 – 1956年8月11日)は20世紀のアメリカを代表する「抽象表現主義」の画家。アクション・ペインティングという表現を打ち出し、それまで「具象絵画」が中心だった美術界に大きな影響を与え、ニューヨークを芸術の中心になるきっかけを作った。(出典:Sync.公式サイト「Jackson Pollock Studio」より)

 

*2 雪舟
室町時代の水墨画家・禅僧(1420~1502または1506)。諱(いみな)は等楊、等揚(とうよう)。号は雪舟、拙宗、晦庵、雲谷軒。(出典:益田市立雪舟の郷記念館公式サイト「雪舟について」より)

 

「ジャイプルの泥染はアクセントに藍を飛び散らせているのですが、これは現地の職人が提案してくれました。またある時は現場の判断で、あえて布を裏表にした商品が上がってくることもありました。こちらからルールを設けずに、自由にやってもらっています。私もどんなものが届くのか、毎回楽しみにしているんです」

 

いろんな人のアイデアや気持ちが込められた服は、着る人にもそれが伝わるのではないかと、大越さんは言います。これまでにも大越さんの服を見て「絵画のようだ」「祈りを感じる」と、表現した人もいたそうです。このように、コラボレートのようなものづくりに至ったのは、大越さんがファッションの現場で体験し、感じたことがきっかけになっています。

 

「私がファッション業界で働いていたとき、最短の納期が課されて、現場には強いストレスがかかっていました。デザイナーの意見が絶対なので、生産現場ではアイデアを出すことなく、機械のように働かされる日々。品質管理が厳しすぎて全体の数割がB品に回されてしまうこともあり、現場は萎縮していました。一方、造形会社で自分でもアイデアを出しながらものづくりをしていたときは、とてもやりがいを感じました。楽しければ続けられますよね。続けることが大事なんじゃないかと思っています」

ひとつとして同じものがない〈rétela〉の生地。よく見ると、ブロックブリントの版の模様が。

〈rétela〉ではシーズンごとの新作ではなく、一度作ったアイテムを定番としてずっと作り続けながら、およそ2年ごとに新しいラインを発表しています。同じものを作り続けることでより精度が上がり、いいものができると大越さんは考えています。では、大越さんが考える5年先の未来とは?

デザイナーの大越さん。

「今、ファッションの現場での働き方が問題になっています。狭い場所にたくさんの職人が長時間労働を強いられていたり、安い賃金で働かされていたり。日本では品質管理が厳しく、多くのB品が廃棄処分になっています。なんだか自由じゃないと感じますね。人によっては、B品の方がむしろ好きだという人もいるかもしれません。5年先の未来は、現場の職人がいろんなアイデアを試しながら楽しく働いて、それに見合った賃金を受け取れる世界になっているといいですね。〈rétela〉もささやかながら、その一翼を担えたらなと思っています」

rétela

デザイナー大越敦子が手がけるブランド。廃棄されてしまうものや、手仕事の息づかいにフォーカスし、再構築して新しい価値を見出す。ブランド名は「ré=再生、再構築」と英語で地球、スペイン語で生地を意味する「tela」を組み合わせている。

https://www.retela.tokyo/

編集後記

あなたにとってアートとは、どのような存在でしょうか?
私にとってアートとは、世界の見方・とらえかたを変えてくれる”メガネ”のような存在です。
rételaはまさに、ものの見方を変えたことで生まれたブランド。
大越さんのように、アート的思考の”メガネ”をかけて世界を見渡せば、誰しもが、身の回りで眠っている価値に気づくことができるようになるのではないでしょうか。

(未来定番研究所 菊田)