5年後の答え合わせ
2021.04.29
2020年7月のレジ袋有料化などをきっかけに、世間のエコ意識は一層高まりを見せています。社会全体で“おうち時間”が見直されはじめ、今後は”日々の家での暮らし”も、より環境に配慮したサステナブルなものになっていくのではないでしょうか。今回は、宮城県石巻市の廃校を学びの場〈モリウミアス〉へと生まれ変わらせ、子どもたちに自然とともに生きること、循環する暮らしをつくることを伝えているフィールドディレクターの油井元太郎さんに、環境に配慮したサステナブルな暮らしをするための自宅でできる“エコ習慣”について話を伺いました。
(イラスト:小林マキ)
未来をつくるエコ習慣①:コンポストを使う
サステナブルな暮らしの実現のためには、日々の中に“自然の循環”をつくることが大事だと、油井さんは言います。
「どの家庭でも今すぐに始めて欲しいのが、生ごみのコンポスト(*1)化です。外で集めてきた落ち葉を段ボールに敷き詰め、そこに生ごみを入れていけばコンポストが完成します。より手軽に実践したい方は、市販のコンポストバックを使うのもおすすめですよ。台所に置いて、そこに生ごみを入れて混ぜることで堆肥をつくることができます。ゴミの削減だけでなく、資源であることを家族で意識する機会になるはずです」。
*1 コンポスト
コンポストとは「堆肥(compost)」や「堆肥をつくる容器(composter)」のこと。家庭からでる生ごみや落ち葉、下水汚泥などの有機物を微生物の働きを活用して発酵・分解する。モリウミアスの学びを家庭に届けるMORIUMIUS@Homeでもコンポストのプログラムを実施しています。コンポストについては、こちらの未来定番サロンレポートでも詳しく紹介しています。
毎日、各家庭から出されるごみ。これらを焼却処理のためには、かなり多くのエネルギーが使われていると、油井さんは続けます。
「家庭から出るごみをまず減らすことが、ものすごく大事。世界のゴミの半分以上が家庭から出ていると言われています。ごみの焼却に必要なエネルギーが果たしてどのくらいか、一度考えてみてください。特に生ごみは水分が多く、大量のエネルギーを使って焼却し、そしてそのごみ処理では多くの二酸化炭素が排出されます。またごみ処分の際にはもちろん、行政が負担する費用がその都度かかっています。“捨てすぎ問題”に加えて、ごみの焼却自体も実はとても無駄なことで、環境にとってかなりの悪影響を及ぼす行為です。だからこそ、近い将来に各家庭でコンポストが当たり前になると、ごみが減らせるだけでなく、栄養豊かな土ができ、地域や環境にやさしい暮らしを実現することができるんです」。
未来をつくるエコ習慣②:菜食中心の食生活にする
続いて日々のエコな「食習慣」についても、教えていただきました。
「できるだけ食事を菜食中心にすることも、大切だと思います。先ほど挙げたコンポストでつくった堆肥を使えば、自宅で安全で美味しい野菜をつくって食べることもできて、循環型の暮らしが可能になります。そして野菜中心の食事は、当然ながら身体の健康にも良く、一石二鳥です」。
エコな暮らしの実現には、肉ではなく、野菜中心の食事が必要と語る油井さん。その理由は、畜産に伴う温室効果ガスにあるそうです。
「世界の温室効果ガスの総排出量のうちの14.5%は、畜産業によるもの(*2)。その中でも特に深刻なのが牛です。牛がエサを食べるとともに大気中に放出するゲップには大量のメタンガスが含まれており、地球温暖化の大きな要因にもなっています。私たちのすべての食事を完全菜食にするのはなかなか難しいですが、畜産による温暖化への影響を理解して、一人ひとりが可能な限り野菜中心の食事へシフトしていくことが大切なのではと思います」。
*2 世界の温室効果ガスの総排出量に占める畜産業がもたらす影響の割合 世界の温室効果ガスの総排出量のうち、実は畜産業だけで14.5%に上る。特に多く排出するのが牛で、畜産業のうちおよそ65%を占めている。(2013年 国連食糧農業機関(FAO)報告調べ)
また、併せて野菜の買い方についても、お話しいただきました。
「コンビニやスーパーに夜遅い時間に行くと、野菜がずらっと売れ残っている光景を目にすることがありますよね。そして翌日またお店に行くと、ガラッと商品が新しいものに変わっている。また買い手の私達も必要以上の量を買っては捨ててしまう。いわゆる、フードロス問題です。モリウミアスのでは家畜の餌は廃棄される野菜や果物を分けてもらい使っていますが、日々驚くほどの量が廃棄されています。このようなことを繰り返していたら、不要なごみの処理の手間も輸送に伴うエネルギーも、全部が無駄です。もちろん住んでいる場所にもよりますが、極力近所の農家さんに意識を向けて直接野菜を買う。なるべく近隣でとれた野菜を食べるようにする。昨年にはEU諸国で、持続可能な食料システム実現のために新しく“Farm to Fork”(農場から食卓まで)戦略(*3)が掲げられましたが、日本の私たちもそういった意識を持つことが必要になると思います」。
*3 Farm to Fork戦略
欧州委員会が2020年、持続可能な食料システムを目指して新たに掲げた戦略。「持続可能な食料生産」「持続可能な食品加工と食品流通」「持続可能な食料消費」「食品ロスの発生抑止」の4つの領域に対して、農家・企業・消費者・自然環境が一体となり、共に公平で健康な食料システムを構築することを目指している。
未来をつくるエコ習慣③:鶏を飼う
さらには、少し先の未来でのエコ習慣についてもお話しいただきました。
「数年後の未来では、“自宅で鶏を飼うこと”が当たり前になっていて欲しいと思います。雌の鶏であれば鳴き声もほとんど無く、幅と高さが1~1.5mあるケージを用意すれば庭やベランダでも飼うことは可能です。そして鶏は一匹あたり年間でおよそ卵を300個近く産んでくれるので、自宅で手軽に自給自足の暮らしができます。また鶏小屋に木くずや落ち葉を敷き詰めれば、小屋そのものがコンポストになるので、鶏を育てながら卵をいただき、更には堆肥ができて一挙両得ですよ」。
また一軒家のみならず、アパートやマンション暮らしの方でも鶏を手軽に飼える方法があると油井さんは続けます。
「無理に一世帯ずつで鶏を飼わなくても、住人が協力して鶏を育てるための共用の“コンポスト兼鶏小屋スペース”をアパートやマンションの一角に設けるのはどうでしょう。空いている屋上スペースの一部を利用するなどでも良いかもしれません。住人はそれぞれ、毎朝自宅で出た生ごみを持っていって、堆肥に混ぜる。そして小屋内の鶏にエサをやる。小屋の管理を住人が交代制で行う代わりに、鶏が産んだ新鮮な卵を貰える仕組みにする。そのような設備ができることで、住人間のちょっとした憩いの場にもなるのではないでしょうか」。
“エコ習慣”の先。
5年先のサステナブルな暮らしを支える、地域のコミュニティガーデンとは。
一人ひとりのエコ意識がさらに高まり、“エコ習慣”が暮らしの定番になった時、社会にどのような変化があるのでしょうか。最後に油井さんが予想する5年先の未来の暮らしについて教えていただきました。
「今回紹介した3つの“エコ習慣”が地域住民みんなでできるような、コミュニティガーデンができていくのではないかと思います。例えば公園や学校の一部が、そのような場所として活用できたら面白いのではないでしょうか。例えば公園であれば、とある一角にはコンポストをつくり、また別の一角には農地もつくる。そして子どもが遊びながら、大人と農作業ができる場所にする。とれた作物は地域住民でシェアできるようにすれば、地域内での循環を生み出すことができます。また学校であれば、給食の残飯を堆肥化できる大きなコンポストを設置したり、校庭の一部を農地にして授業の一環として子ども達が野菜をつくり、昼食をつくる機会にしたり。さらには地域に開き、引退したおじいちゃんやおばあちゃん、住民も参加してもらえたら、学校内で子どもと多様な大人が繋がるひとつの場としても機能しますよね。エコでサステナブルな暮らしを地域全体で行うことで、ひとつの新しいコミュニティが生まれていく。このような暮らしの実現こそ、私が考える未来のあり方なんです」。
一人ひとりが環境を配慮し、サステナブルな暮らしを実践する。“エコ習慣”は、私たちが生きる地球環境を豊かにするのみならず、未来の地域社会をつくるヒントにもなっていくことでしょう。
油井元太郎さん
1975年東京生まれ。アメリカで大学を卒業後、音楽やテレビの仕事を経て、キッザニアの創業メンバーとしてコンテンツの開発に取り組み、2006年に東京、09年には甲子園にキッザニアをオープンさせる。2013年より宮城県石巻市雄勝町に残る廃校をリノベーションして生まれた、自然の循環や地域文化を体感できる学び場〈モリウミアス〉の代表兼フィールドディレクターを務める。昨年オンラインを通じて家庭に学びを届けるMORIUMIUS@Homeを立ち上げ、地域資源を活かした子どもの教育を通じ町の新生を目指し、活動を続けている。
【編集後記】
事務所でも自宅でもコンポストを実践している身からすると、油井さんに予想していただいた地域ごとのコミュニティガーデンが定番化する未来にワクワクが止まりませんでした。すでに全国では実働している地域もあり、決して遠い未来の話ではないはずです。都市生活でもコンポストをとおして仲間とつながり、共同で鶏の飼育をして卵を分け合うくらしに向けて、未来定番研究所としてもチャレンジを続けていきたいと思います。
(未来定番研究所 中島)
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