2021.04.27

トイレマニア3人が大激論?白熱!“未来型トイレ”超会議。

毎日の暮らしの中で何度も行き来する場所のひとつ、トイレ。とくに日本のトイレは、諸外国のトイレと比べても、居心地のよさや利用者のささいなニーズまで反映されているものが多く、「日本のおもてなし文化」を表象するものとして世界からも高い評価を得ています。そこで今回は、日本のトイレ設計のパイオニア・小林純子さん、日本全国のトイレを15年以上取材し続ける“トイレハンター”のマリトモさん、芸人・構成作家でトイレ博士の佐藤満春さんの3人をお招きし、5年先の未来の住まいにおけるトイレの形を空想していただきます。

(撮影:河内彩)

Profile

小林純子さん

建築家/設計事務所「ゴンドラ」代表。1988年に5億円をかけた公共トイレ「チャームステーション」の設計をきっかけに、学校や公共施設、商業施設、駅といったパブリックスペースのトイレを手がけるように。翌89年に公共のトイレ設計を中心に活動し、設計事務所「ゴンドラ」を設立。

https://www.gondola-archi.com

Profile

マリトモさん

フリーライター/トイレハンター。Webサイトの企画ディレクションやマーケティング、デザインのほか、ライターやカメラマンとしても活動。その傍ら、トイレの空間に魅せられ、15年以上かけて全国各地の300カ所以上のトイレを独自取材。著書に『ニッポンのトイレほか』(アスペクト)がある。

https://maritomo.com/toilet/

Profile

佐藤満春さん

芸人/放送作家/構成作家/トイレ博士/掃除マニア。お笑いコンビ「どきどきキャンプ」のツッコミ担当。トイレ協会会員(会員番号3022番)、名誉トイレ診断士、トイレクリーンマイスターと、トイレやトイレ文化に造詣が深い。『トイレの輪 ~トイレの話、聞かせてください~』(集英社)などトイレに関する著書多数。

https://satomitsuharu.officialsite.co

人が唯一ひとりになれる、最高のリラックス空間

F.I.N.編集部

トイレを愛してやまないみなさんが考える、トイレという場所が持つ役割や意義をお聞きしたいです。

芸人で構成作家のサトミツさんこと佐藤満春さんは、自他ともに認める「トイレ博士」。大のトイレ掃除好きで、数多くのメディアで自身のお掃除テクニックを紹介している。

佐藤さん

家でも職場でもそうなんですけど、本当にひとりになれる場所ってトイレだけなんですよ。人って相手ごとの顔を持ち合わせっているじゃないですか。そんな自分を解放しにいくのがトイレ。気分転換だったり、逃げ場になったり。どんな場所でも自分と向き合える究極のパーソナルスペースだと思っています。みなさんにとってそうでなきゃいけないとは思わないけど、僕にとっては最高のリラックス空間ですね。

小林さん

排泄によって得られる物理的な解放感。そしてひとりになれる心理的な解放感。私はトイレの意義・役割は、この2つだと思っています。トイレに行くという必然性の行動の中に、ほっと安らぐという”ついで”の行為もあるんですよね。あとは「トイレに行きたい」って言うと、誰もそれをとがめない。どんなに忙しくても辛くても、リラックスが最低限確保される唯一の空間だと捉えています。

F.I.N.編集部

小林さんはパブリックスペースのトイレを多く設計されていますが、家庭のトイレの意義・役割との差ってあるものでしょうか?

建築家の小林純子さん。大丸 東京店と札幌店のトイレの設計も担当。

小林さん

ご家庭もパブリックスペースの1つかもしれません。というのも、一般住宅の設計も行っているんですが、とくにご主人から「トイレに行く時間が一番ほっとする」という声を多く聞いておりまして。パブリックスペースと家庭のトイレでも同じように、たった1人になれる個室空間の意味合いを持つかと思います。

2007年に小林さんが手がけた、大丸東京店のトイレ。

マリトモさん

お二方がおっしゃられたように、トイレは忙しない現代社会で唯一ひとりになれる究極のプライベート空間ですね。排泄という目的だけでなく、気持ちの切り替えができる、いわばスイッチをオフにできる場。だから私にとってのトイレは、駆け込み寺です。その一瞬で自分を見つめ直す時間を作ってくれるので、かけがえのない大切な存在ですね。

日本全国のトイレを駆け巡る“トイレハンター”のマリトモさん。ご自宅には、自身でデザインされたこだわりのトイレがあるそう。

F.I.N.編集部

どんなトイレでも、“駆け込み寺”になり得るんでしょうか?

マリトモさん

どこに出かけても必ずトイレに立ち寄る時間は作っているので、私の中ではキレイでもそうでなくてもあまり関係ないですね。ただ飲食店ではトイレをチェックして、そのお店の意気込みを確認します。トイレがキレイだとほかのところにも美意識が行き届いている気がします。トイレって、そこにいる人や空間全体を映し出す鏡みたいなものなので。

佐藤さん

確かにそうかもしれません。2000年代以降は商業施設やお店でもトイレが格段にキレイになって、そういう場所は経営がうまくいっている印象です。トイレをキレイに掃除して、お客さんをもてなす気持ちがあるかどうか。その思いが利用者にも伝わるのかもしれませんね。

機能の進化はもう不要?今後の課題は「空間デザイン」。

F.I.N.編集部

現在の住まいのトイレにおける課題点や、改善点ってどんなところでしょうか?

小林さん

小便器をつけた方がいいんじゃないかって。用を足す形が男女で違うのだから、それに即してものを作った方が快適だと思うんです。それに立って用をたせるなんて、時間短縮にもなってうらやましいです。最近の住宅はスペースが広く、豊かになりつつあるので、小便器くらいつけてあげてもいいのでは?と個人的には思います。

佐藤さん

それはおもしろいですね。洋便器に男性が立って小をすると、尿はねをしてアンモニア臭が染みつくと、いろいろなところで言われ出したこともあって、最近では奥さんに促された男性が座って用を足すというパターンが多いんですよ。45%の男性が洋便器で座って小をするというデータも出ているほどですからね。トイレメーカーでも男性の尿はね問題に着目していて、最近では自動的に便器の水面へ泡を噴出させて尿を低減する機能を搭載しているものも発売されています。だから小林さんがおっしゃった小便器をつけるというのは、1つのアンサーかもしれないですね。

小林さん

使えるものを使えていないのはもったいないです。男性が小で洋便器を兼用するときの、この問題の解決方法は長年問われてきました。しかし、大小兼用の快適な便器を作るのは難しいですね。なかなかよい開発がないのが現状です。

マリトモさん

かつて国立代々木競技場には男女兼用の小便器がありましたよね。

佐藤さん

サニスタンドですね。女性でも立ったまま、というか中腰で小ができる便器です。1964年の東京オリンピックで設置されたのですが、女性が立ったまま用が足せることに抵抗があったようで……。結局、文化的に浸透しなくて廃盤になってしまいました。

小林さん

やっぱり難しいんですよね。性別もそうですが、多様化していく世の中なので、いろいろなトイレがあってそれを選べたらいいですよね。和式だって少数派ながらまだ利用されている方がいらっしゃる。この少数派をどうするかも課題ですね。佐藤さんは、このトイレの課題についてどうお考えですか?

佐藤さん

ここ20〜30年、タンクを無くして節水型にして便器を小型にしたり、トイレ自体を小さくして空間を広くとったりと、トイレの省スペース化が主流でしたが、最近ちょっと風向きが変わってきていて。2017年にトイレメーカーのTOTOから「ネオレストNX」という、丸みを帯びたデザイン性の高いトイレが登場したんですよ。そんなこともあって、今、トイレは“見て楽しむ”っていうフェーズに入ってきたのだと思います。

マリトモさん

新しいフェーズということで言えば、トイレって少し前までマイナスなイメージのほうが大きかったですよね。汚い、臭いと。だからトイレを愛する私としては、もっと身近で大切な場所だって知っていただきたいなぁって。現状の住まいのトイレについては、掃除も除菌もしてくれるので機能面が充実していて言うことなしです。だからこの先求めるべきは、トイレの空間の部分。現状、空間を楽しむということができてないので、これはもったいないなと思っています。

小林さん

そうですね。マリトモさんがおっしゃるように、空間性はもう少し考えていくべきかなと思います。現状のトイレって、空間にあの便器が置いてあるだけ。でもそれを丸型や縦型に変えてもいいし、空間自体が洞窟みたいな装いをなしてもいいし、はたまたガラス張りにしたっていい。トイレに座った時の気分を変えてくれるような、建築デザインにするとトイレの時間がより楽しくなりそうですよね。

F.I.N.編集部

やはり今のトイレの課題は、空間デザインですか?

小林さん

私はまだまだメーカーさんには努力していただきたいと思っています。佐藤さんがおっしゃった「ネオレストNX」は高価なので、比較的安価なトイレしか使えないという場合には導入できないですよね。みなさんやはり、家づくりの際はトイレは後回しで、あまりお金を使おうとしないので。

F.I.N.編集部

そういった経済的な課題感もあるんですね。近年トイレの機能って進化していますが、掃除しなくても清潔さを保てるようにはならないものでしょうか?

佐藤さん

それ、よく言われます(笑)。「汚れない方法を教えてください」って。どうしてもトイレってネガティブなイメージがあるけど、トイレ掃除が大好きな僕が思うのは、掃除してキレイにしたらいいじゃんってことですね。近年メーカーさんの努力で陶器の質がよくなって、汚れも相当つきにくくなっている。だからこれ以上そこを求めるより、必要なのはユーザーの意識改革だと思うんです。汚れが落ちたら楽しいし、清潔なものを清潔に保つのは日常の作業としてあっていい行動。トイレ掃除って罰ゲームにされがちだけど、そうでは決してないんですよ。むしろ、日常の行動としてポジティブに楽しむべき。

小林さん

なるほどねぇ。だったらトイレ掃除の道具にも、使っていて楽しくなるようなものが出てくるといいですね。

マリトモさん

そうですね。掃除用品って、どうしてもトイレの横に置かなきゃいけないグッズですからね。使い勝手も良くて洗練されたデザインだと、テンションもあがって掃除がもっと楽しくなるかもですね。

小林さん

そういえば、1日1分のトイレ掃除運動を掲げている方がいらっしゃいました。いかにいつもトイレを汚しているかを知ってもらいたいと、とくに普段トイレ掃除をされてない男性にやってもらうというものなんですけど、こういう運動もいいですよね。みんなで声をかけ合って、トイレ掃除自体を楽しんでしまう。そうしてどんどんトイレが楽しいものになったら、もう少しトイレにお金をかける人が増えるかもしれないですし。

原点回帰をしながらも作るべきは“VR体験型トイレ”

F.I.N.編集部

ここからは、みなさんに未来のトイレを想像していただきたいと思います。5年先の未来、トイレはどんな姿になってほしいですか?

当日は出し合った意見をホワイトボードにまとめ、未来のトイレのスケッチを描きながら議論を進めました。

佐藤さん

この先、高齢化社会がより進んでいくと思うので、トイレが健康チェックのためのツールになっているといいなと思います。用を足すとそのデータが病院に飛び、健康管理ができるという技術はすでに開発されているので、5年先はデータの精度が上がり、もっと一般的なものになるのではないでしょうか。

小林さん

コロナ禍以降は、世界の価値観的にも原点に立ち返るというフェーズ。これをトイレにも当てはめて考えると、今のトイレは一部、行き過ぎたのかもしれません。操作のボタンもいっぱい増え、排泄物を流すとき、どこを押せばいいかもわかりにくくなりました。実際、認知症の方が間違って非常ボタンを押してしまうということも、よくお聞きします。快適を追求するために、細分化しすぎてしまったんですよね。私自身、トイレを設計する時、多様な人々を視野に入れてはきましたがすべてではありませんでした。だから私は、もう一回原点に立ち返り、5年先のトイレはシンプルな構造にすべきだと考えています。

マリトモさん

そうですね。認知症の方だと自動消灯に驚かれることもあるようです。それにうちには小さい子どもがいるのですが、やっとトイレができるようになると、自動洗浄が逆に厄介だったりします。うんちしたのか、してないのかがわからないので。誰かの便利は誰かの不便になっているんですよね。だから先生がおっしゃるように、ターゲットを細分化し、それぞれに合ったトイレづくりが必要なのではと思います。

小林さん

あとはやはり、空間全体で捉えることも大切ですね。トイレを庭に設置して自然の光を取り込んでみるなど、自然回帰してあげるのはどうでしょうか。

マリトモさん

それでいうと実は私、1年前にマイホームを建てたのですが、トイレ部分は自分でデザインしたんですよ。

佐藤さん

えー! それはすごいですね。どんなトイレなんですか?

マリトモさん

1階と2階にガラス張りのトイレを作りました。外から丸見えなんですけど、5年後10年後に庭の植木が育って隠れることを想定してこのデザインにしたんです。設計担当の方から「大丈夫ですか?」って何度も確認されるので、1階はブラインド、2階は棚を設置して目隠しをすることにしました。結果的には、トイレに一番お金をかけてしまったのですが、とても満足のいく形なので掃除も楽しいです。ちなみに2階のトイレは6畳の広さで、開放感のある吹き抜け仕様にしました。

マリトモさんご自宅の1階トイレの様子。

6畳以上の広さを持つ、2階トイレの様子。

佐藤さん

トイレ好きにとっては、まさに夢のようなお話です。3人の意見を総合すると、住まいにおけるトイレの比重をしっかり考えることが重要ですね。ただ排泄するだけではなく、いかにリラックスできる場所を作るか。やっぱり人間にとってトイレは、食事と同じくらい気を使うべき空間なのではないでしょうか。

マリトモさん

おっしゃる通りです。それから未来のトイレの形の提案なんですが、体験型のトイレを作ってみるのはどうでしょうか。

小林さん

というと? 例えばどういうことになるのでしょうか。

マリトモさん

住まいという日常の中で、非日常を楽しめるトイレを作ったらおもしろそうじゃないですか。例えばトイレの四方八方に映像を映し出してVR空間にすれば、そこまでコストもかけずにリラックス空間を非日常空間に変えられそうですよね。自然を楽しみたかったら森の映像や鳥の鳴き声の音声を流せばいいし、「ソワソワしたい」「刺激がほしい」という時は、宇宙空間や床が抜け落ちた映像を流してみるなど。リラックス空間と非日常空間をトイレの中で行き来できたら楽しそうですね。

佐藤さん

それはいいですね! アトラクションみたいでいい刺激になりそうですし、そんな素敵なトイレだったら、愛おしすぎてこれまで以上に掃除しまくると思います。

小林さん

私も賛成です。自然回帰も叶えられるし、すごくおもしろいですね。そんな未来的なトイレができたら、ますますトイレを好きになっちゃいそうです。

マリトモさん

楽しすぎて、1日中トイレにこもってしまうと思います(笑)。

パーソナライズ化した設計にしたり、空間そのものの居心地のよさを追求したりと、各家庭でそれぞれ“こだわりのトイレ”を持つことが、未来の住まいづくりの定番になっていくのかもしれません。

【編集後記】

現在の住まいのトイレにおける課題点について、小林さんの「小便器をつけた方がいいんじゃないか」という言葉にハッとしました。わたしは女性なので、日頃住まいのトイレで不便を感じたことがなかったからです。トイレが自分を開放できる場所として、住む人にとってトイレの選択肢が広がる未来もあるのかもしれない、と思いました。

(未来定番研究所 中島)