2018.06.13

未来の種が詰まったアフリカの今。<全3回>

第3回| アフリカのアートと音楽。

第1回目は食、第2回はファッションを通してアフリカという大陸に触れてきたこの企画。今回はアートと音楽を特集します。今年は大規模なアフリカの現代アートの祭典、ダカール・ビエンナーレがセネガルで行われました。現代アートからは、どんなアフリカが見えてくるのでしょうか。立教大学教授の川口幸也さんにお話を伺います。また、フォトグラファーの桜木奈央子さんからは、エチオピアに旅した時に訪れた、音楽酒場の旅行記が届きました。旅先で聞く地元の音楽は、桜木さんに強い印象を残したようです。

世界的に注目を浴びるアフリカのアート。

Profile

川口幸也

立教大学文学部教授。1955年、福井市生まれ。東京大学文学部、同大学院修士課程修了。アフリカ同時代美術(コンテンポラリーアート)を専門とする。著書に『アフリカの同時代美術複数の「かたり」の共存は可能かー』(2011年2月刊、明石書店)など。

立教大学の教授・川口さんに今、面白いアフリカを聞いたところ、セネガルの首都・ダカールで行われているビエンナーレを挙げていただきました。ダカール・ビエンナーレはアフリカ最大の芸術の祭典。ちょうど今年の6月初旬まで行われていました。

撮影:川口幸也

川口さん

ダカール・ビエンナーレは、近年注目を浴びているアフリカの現代美術のビエンナーレです。みんながみんなというわけではないのですが、アーティストが、自分が生きている土地に根を下ろしながら、自分の手法で自分たちの歴史と文化を語ろうとしている点が非常に面白いです。昨今のいわゆるグローバリゼーションに対する無言の反論になっています。

川口さん:

私が特に注目している現代美術作家は、まずはガーナ出身でナイジェリア在住の彫刻家、エル・アナツイ、次にベナンのロミュアル・ハズメ。今年の春にKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 で作品が展示されました。若い世代でいえば、コンゴ民主共和国のエディ・カムアンガ・イルンガです。

 

2019年には日本政府、国連などの主催で、アフリカ53か国の首脳を招き、第7回アフリカ開発会議が横浜で行われます。これに合わせて、文化交流の面で盛り上げていくべく、 いろんな企画を考えています。アフリカ開発会議の日程に合わせ、その前後で音楽、演劇そのほかの催し物を現在検討しているところです。また、世田谷美術館では今年の11月から「アフリカ現代美術コレクションのすべて」展が行われます。日本国内はもちろん、非西洋圏で唯一最大のアフリカの同時代美術のコレクションの展覧会です。同館では、アフリカの同時代美術が世界的に注目を集めた1990年代以降の作品を、様々な分野にわたって収集しています。アフリカの同時代美術の全体像と歴史的展開を知るうえで重要なコレクションで、今回は久しぶりのまとまった公開になります。

 

エル・アナツイ《あてどなき宿命の旅路》

1995年

撮影:上野則宏

©EL ANATSUI

「アフリカ現代美術コレクションのすべて」展

2018年11月3日(土)~2019年4月7日(日)

世田谷美術館2階展示室

10:00~18:00(入場は17:30まで) 月休

世田谷美術館の展示は、アフリカの現代アートに日本で触れられる貴重な機会。見逃せない展示になりそうです。そして、いつか現地でアートに触れてみたいと好奇心を掻き立てられます。来年は日本政府が主導して開くアフリカ開発会議(TICAD)という国を挙げての大きなイベントがあり、政治的にも、カルチャー面でも、交流を通して、アフリカを身近に感じるきっかけになると思います。

エチオピアの民謡酒場の様子をフォトグラファーの桜木さんがレポート。

フォトグラファーの桜木奈央子さんが長年通うアフリカの国々。国によって音楽の伝統も流行も様々なようです。今回、桜木さんが教えてくれたのは、エチオピアで出会った音楽。その音楽は桜木さんの心に何を訴えたのでしょうか。桜木さんに特別に書き下ろしていただいた旅行記です。

Profile

桜木奈央子

フォトグラファー。2001年からアフリカに通い始め、「別の生き方の可能性」をテーマに取材を続ける。著書に『世界のともだち ケニア 大地をかけるアティエノ』(偕成社)『かぼちゃの下で ウガンダ 戦争を生きる子どもたち』(春風社)。雑誌や新聞にフォトエッセイや書評掲載。メディア出演はNHK、文化放送、TOKYO FMなど。ホームページYahoo!ニュース動画配信「お母さんはアフリカに」

バハルダールの音楽酒場

文・撮影:桜木奈央子

「酒場に音楽を聴きに行こう」と友人が誘ってくれた金曜の夜。エチオピア北部の、タナ湖のほとりのバハルダールという町を初めて訪れた時のことだ。宵闇に包まれた石畳の道を歩いて、私たちは酒場に向かった。

看板も出ていない、こぢんまりとした普通の家のような建物。「時々ここに来て音楽を聴くんだ」という友人は、慣れた足取りで中に入っていく。奥に6畳ぐらいの広さの部屋があって、ほの暗い赤い照明がついていた。壁ぎわのベンチでは、おじさん3人組の先客がタッジ(蜂蜜酒)を飲んでいる。

そのうち、楽師が部屋に入ってきて弦楽器を奏で始めた。友人が「あれはマシンコという伝統楽器で、弦は馬の尻尾でできている」と教えてくれる。弓の動きがどんどん早くなり音がまとまって一つの旋律になると、楽師はそこにこぶしのきいた歌声を重ねた。懐かしいような物悲しいようなその音楽を聴いていると、この土地の人たちがこれまで積み重ねてきた日々の営みを想像することができて、どんどん音楽に引き込まれていった。

「これは故郷について歌っているんだ」と友人が歌の内容を説明してくれた。「遠く離れた故郷。帰りたいけどなかなか帰れない。いつか帰れる日を夢見ている」。そう言いながら彼は、楽師の弾き語りにアムハラ語で合いの手を入れる。タッジを飲んでいるおじさんたちもそれに加わり、さらに楽師が歌で応える。喜怒哀楽が込められた、即興のコールアンドレスポンス。私にとっては故郷ではない土地なのに、彼らの郷愁が私の中にも入ってきた。

 

そこに牛の皮でできた太鼓を持った男と、白い晴れ着をまとった美しい踊り子が登場。マシンコの楽師はさらに声と楽器のボリュームを上げ、太鼓はリズムを刻み、踊り子は裸足で踊る。客も踊りだす。その熱気の中で私は昼間に見た景色を思い出した。バハルダールのしっとりとした緑の大地。その土地に根ざした音楽は彼らの生活の一部なのかもしれない。

外に出ると細い雨が降っていた。心地良い冷気が音楽でほてった体を冷やしてくれる。私たちはいい気分で次の酒場に向かった。

(おわり)

アフリカはインスピレーションの宝庫。

私たちは、アフリカに対して最初に大自然の風景や動物たちに思いを馳せてしまいます。しかしアフリカは、色々な意味でとても「大きい」のです。今回、様々なアフリカに詳しい方々にお話を伺い、決して一つのイメージに限定できないアフリカという大陸の奥深さを実感しました。そして、アフリカの魅力はそれぞれの国の日常にもあることを知りました。食、ファッション、音楽、アートなどの私たちの生活を豊かにしてくれるカルチャーは、それぞれの伝統に根ざしながらも、未来に向かってどんどん進化している模様です。

お互いの文化を敬い、学び合うことで未来のカルチャーが生まれていくと思います。初めて食べる異国の食事でも、耳にした音楽でも、なにか一つのきっかけから、未知の国への興味や好奇心が生まれることもあるでしょう。新しい文化が、様々な地域から生まれつつあるアフリカ大陸から目が離せません。

世界の今後の100年は、アフリカが牽引することは間違いないと思います。もっとも、アフリカ大陸は、ユーラシア大陸に次いで世界2位の大きさで、北は地中海を臨み、赤道をはさんで、南はオーストラリア南端までの「広さ」と、54もの国を持つ「大きさ」と、現在12億人が2199年には40億人になると国連は想定しており、「多様」な気候・歴史・民族が紡いでいるアフリカ大陸の文化の「未来」をたった3回では、総括できません。

(未来定番研究所 安達)