2018.06.04

未来の種が詰まったアフリカの今。<全3回>

第1回| アフリカのごはん。

最近よく目にする「アフリカ」。鮮やかな色のファッションに身を包んだサプールの写真集や、ヨシダナギさんの写真で見るアフリカの民族、映画『ブラックパンサー』の世界的な大ヒットも記憶に新しく、昨年のF.I.Nで行ってみたい場所として、ファッションデザイナーの内田文郁さんやafumi代表の齋藤牧里さん、〈TAKIBI BAKERY〉代表の鈴木善雄さんなど、アフリカの国を挙げる人もたくさんいました。なんだか最近アフリカが、ますます身近になっているのかもしれません。そこで、アフリカの事情通の方々にアンケートを敢行し、最新のアフリカ情報を教えていただきました。

まずは、アフリカの食について。

ここは渋谷にある小さな食堂〈ロス・バルバドス〉

アフリカの料理が楽しめます。お店を営むのは元ミュージシャンの上川大助さん、真弓さん夫妻。アフリカに関わり始めて38年という上川さんのお店では、コンゴ音楽が流れ、アフリカ好きのお客さんが集まります。今回のアンケートでもほぼ全員が、美味しい料理と音楽を楽しめる素敵なお店として、こちらを挙げていたくらいの人気店。アフリカ好きで知らない人はいないかもしれません。

F.I.N.編集部

最近、アフリカの文化が日本でも人気が出てきたと感じることはありますか?

上川さん

うちにはもともとアフリカが好きだという人しか来ないから、急に人気が出たという実感は特にありません。しかしアフリカの雑貨や、アフリカのテキスタイルを使ったアパレルは、日本でもとても増えていると感じます。昔はモロッコのランプも海外に行かないと買えなかったのに、今はランプ、雑貨、食器など国内でも手に入るようになりました。料理に関しては、一時期タジンなどのモロッコの料理がすごく流行ったので、知っている人も増えましたがアフリカの他の国の料理を知ってる人は、まだまだ少ないんじゃないでしょうか。

F.I.N.編集部

アフリカの料理といっても、その国々で食べているものは違うのでしょうか?

上川さん

そうですね。すごく広いし多様性に富んだ地域なので、同じアフリカという言葉でも人によってイメージするものが全然違うんですよ。砂漠とラクダのイメージだったり、モロッコの雑貨だったり、動物や広大な自然だったり。その多様性もアフリカの魅力で、料理にも同じことが言えます。大きく分けるとしたら、サハラ砂漠から北と南かな。マグレブと呼ばれるチュニジア、アルジェリア、モロッコ、エジプトなどの北アフリカ。北はイスラム教徒も多く、アラブの文化が近いので、トルコやサウジアラビアと似た料理がたくさんあります。サハラ以南も、西アフリカのように、イスラム教徒の人口が多い国もありますが、それでも料理はアラブというよりは、ブラックアフリカと呼ばれるものに近くなります。ですから「これがアフリカ料理です」と一言で表すことは不可能なんです。油ひとつとっても、西や中央はパームオイルを使って、東の海岸沿いはココナッツオイルを使うなど違いがありますね。

F.I.N.編集部

具体的にはどういうものを食べているのでしょうか。

上川さん

食材に関して言えば似たようなものを食べているかもしれません。キャッサバという芋の葉っぱはどこでも食べます。しかし地域によって食べ方はさまざま。日本語で文化人類学的には、固粥と呼ばれるお餅のような食感のものを主食として食べる地域が多いのですが、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、ガーナなどではキャッサバの粉を練って作ります。これを「フフ」と呼んでいます。国や地域によって「ウガリ」、「シマ」、「サッザ」など呼び方が色々変わり、使われる食材も変わります。

 エグシと呼ばれるウリの種を挽いて粉状にしたものもよく使われる食材。これをナイジェリアやガーナでは、青菜と一緒に煮込むシチューのようなものを食べます。コンゴでは、蒸してビカという料理にします。素材が同じでも料理方法が違うんです。他にも、アフリカ料理は辛いと言われますが、食材を最初から辛く味付けするところもあれば、後から辛い調味料を付け足して食べるところも。サハラ以南ではピリピリと呼ばれるハバネロを使うことが共通点ですね。北アフリカは、唐辛子の粉やチリペッパーを使い、ソースやペーストにする「ハリッサ」があります。

今日紹介していただいたのはコンゴ民主共和国の定番の料理です。

上川さん

左からキャッサバの粉を練ったフフ。野菜のピーナッツ煮込みフンブワ。マデスという豆の煮込み。キャッサバの葉っぱと燻製した魚の煮込みポンドゥ。ハバネロのペーストは辛いのでお好みでつけてください。右手前はエグシの粉を蒸したビカ。コンゴの海岸線は短いけれども、大きなコンゴ川が流れていて、魚をよく食べます。暑い地域なので魚は燻製にしたり、塩漬けにしたり。お皿はチュニジアのナブール焼きを使っています。色使いや模様も華やかで食卓が明るくなります。

F.I.N.編集部

もちもちの食感のフフに煮込み料理をつけていただきます。燻製した魚はまるで出汁のような深い味わい。ピーナッツの煮込みもコクがあってとても美味しいです。

F.I.N.編集部

お店の壁にはたくさんのレコードのジャケットが飾られていますね。流れている音楽もとても心地よいです。

上川さん

お店ではコンゴ音楽ばかりかけています。ちょっと古い50、60年代の曲からら、80年代のもうちょっとアグレッシブになった感じも。コンゴの音楽って、ちょっと聞いた感じはアフリカっぽくないんですよ。日本では音楽としてまだまだメジャーじゃないけれど、アフリカ人は「コンゴの音楽がナンバーワンだ」とか「音楽といえばコンゴだよね」という人が多いんです。確かにコンゴは優れたミュージシャンが多く、次から次へとすごい才能がたくさん出てきます。しかし、コンゴのミュージシャンはインターナショナルになろうという考えがない人が多いのも特徴。アフリカの中だけで何万枚と売れるし、スタジアム級のライブを開催しても、ちゃんと満杯になって儲かるから、海外へ出そうという意識はあまりないようです。だから日本国内で情報をキャッチするのは少し難しいかもしれません。現在活躍中のコンゴのミュージシャンはR&Bやヒップホップの要素を取り入れたりもしていますが、それがなぜアフリカで受けるのかというと、要所にフォルクローレ(伝統音楽)がモチーフになっているからだと思います。そんなコンゴ音楽は、首都キンシャサにあるマトンゲという繁華街から生まれているんです。

F.I.N.編集部

このお店に来たら、美味しい料理とコンゴの音楽に触れることができるんですね。では、例えば家庭でアフリカの料理を取り入れたい場合はどうすればいいですか?

上川さん

サハラ以南のアフリカの要素を食卓に取り入れたかったら、無糖のピーナッツバターをシチューに入れるとそれらしくなりますよ。西でも中央でも南部でもピーナッツで煮込むシチューはいろんな国にあります。セネガルなどの西アフリカにあるマフェというピーナッツのシチューは有名かもしれません。トマトとピーナッツバターで鶏肉、魚、野菜、なんでも煮込むと簡単にアフリカっぽい一品が出来上がります。

今まで食べたことのなかったコンゴ料理の美味しさを知ることで、未知の国への興味が湧いてきた。

広いアフリカには国や地域による違いがあり、その多様性も魅力のひとつだと気付きました。今まで知らなかった新しい食の文化を知ることで、その国にも興味がわいてきます。アフリカ文化へのアクセスの第一歩に、食を体験してみるのもいいかもしれません。次回のテーマはアフリカのファッション。食と同様、国や地域によってファッションのトレンドも違うのでしょうか。南アフリカとセネガルのファッション事情をお聞きします。

Profile

ロス・バルバドス

東京都渋谷区宇田川町41-26 パピエビル104

TEL03-3496-7157

営業時間12:0015:0018:0023:00

定休日:日曜日